東日本大震災 富田望生さんが語る"あの日"

3月9日(土)に放送した「FMシアター『今夜、星と波の間(あわい)に』」で主演をつとめた、俳優の富田望生さん。
東日本大震災から13年、それぞれの“あの日”との向き合い方がテーマ。NHK仙台のプロジェクト「あの日、何をしていましたか?」から生まれたラジオドラマです。
『今夜、星と波の間(あわい)に』 - FMシアター - NHK

今回、福島県いわき市出身の富田さんに“あの日”のこと、そして“あの日”からのことについて、語ってもらいました。

○富田望生さん(当時11歳・福島)


―2011年3月11日、富田望生さんはどこで何をされていましたか?

(富田望生さん)
小学5年生の11歳で、学校にいました。学校の校舎の中ですね。3月11日は、ちょうど金曜日で、次の月曜日が14日でホワイトデーだったので、男子がホワイトデーのお楽しみ会をやるって言ってくれて、その準備を教室ではしてたんですね。だから廊下で待ってたんですよ。廊下で待ってたらちょっと揺れ始めて。
でも、それ以前にも震度5とかは結構あったので、まあ「また地震だ~」くらいの感覚だったんですけど。何かこう、うなる音とか、動くガラスの音とかが、あまりにも違う……って気づいた時には、とっさに机の下に隠れていたみたいな状況でした。
どこにつかまってても、自分自身も揺れてしまうし、びっくりですよね。味わったことがなかったので、何が起こってるのか分からなかったです。ただ、怖かった。安全ベルトをしてるわけでもないジェットコースターに乗ってるような。どこで放り投げられてもおかしくないみたいな状況でした。

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色々覚悟しちゃいました。学校にいるけど、学校って潰れるのかなとか。これ止まらなかったらどうしようとか。あとは、私は泣き虫だったので、大泣きしてたんですけど。でも何か、どこかすっごい泣きながら冷静な自分がいて。「荷物を持たずに外へ出るんだよな」とか。「避難訓練ってこうだったよな」みたいなことを、(頭の中で)ぐるぐるさせながら大泣きしていたみたいな状態でした。

その後、担任の先生とともに帰路についた富田さん。ホテルの支配人として働いていた母がなかなか帰ってこない中、近所の友人宅で不安な夜を過ごしました。

電気がつかないので、こたつもつかないんですけど、こたつの中であったまって。ろうそくを1本立てて、ラジオをつけて、また揺れて。その度に火災が怖いので、一回一回ろうそくを消して、またつけて、消して……。もう何回「消して、つけて」を繰り返したか分かんないくらい繰り返して。
小学5年生だったので、もう夜中になると眠くなってきて。でも、母親が帰ってきた時に、私がいないことで、ものすごく不安がって心配して…っていうのを想像してしまって、なかなか眠れなかったりもして。そしたら、その友達のお母さんが、「車の音が聞こえたら必ず外に出て、『みーちゃん家にいるよ』って絶対に言ってあげるから、あなたは寝てなさい」って言ってくれたんです。

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いわきに住んでいた頃の富田さん(2006年)

翌日12日の早朝には、母が無事帰宅。母の勤めるホテルは電気が使えたため、富田さんもホテルに移動して生活を始めました。ホテルには、帰宅できない宿泊者が残されていました。

(宿泊者には)遠方から来られてる方が多かったので。母がとりあえず自腹でかき集めた魚肉ソーセージとか、バナナとか、チョコとか、パンとか。日持ちするものから、とりあえずエネルギーになるものまで色々かき集めて。それを、残ってる皆さんに無償で提供して。もうトイレも使えないし、水がないので流れないし、ガスも今ないから、卓上コンロでどれだけできるか分からないけど、とにかく「ベッドとお布団は無償で提供しますので、無事帰れるようになるまでいてください」ってお客さんに提供して。それを一緒にお手伝いしながら。煮込みうどん作ったりとか。それを宿泊者の皆さんとちょっとずつ分け合って食べたりとか。そんな感じで3月11日から10日間くらいはそこで過ごしました。

―小学5年生なりに、どんな気持ちでその10日間を過ごしていたんでしょうか。

「月曜になったけど、学校行かないんだ……行けないか……」みたいな。テレビでは津波の映像とか、原発が爆発したとか、そんな情報はやっぱりどのテレビをつけても、東京のテレビ局でそれがやっていたので。「あー。なんか、危ないことになっちゃったんだな」って。「よくない世界」というか、「よくない日本」というか。「よくない福島」なんだ今、みたいな。でも、良くないっていうその大元のものをあんまり知らないしな……とかでしたね。
大人は敢えてそれを口にしないというか。小さい声で「ああ、もうダメだ」って言ったりとかするのは……うん。何かを意図して言ってるわけじゃないけど、聞こえてこびりついて残ってしまうみたいなことも何度かありましたね、そのあいだ。

その後、富田さんは母に連れられていわきを離れることになりました。

「避難するよ」って(母に)言われて、「え、いつ戻ってくるの?」って聞いたんですよ。「あっ、何日後くらい?」みたいな。そしたら、「今、分かんない」って言われて。行ってしまったらもう帰ってこられないんじゃないかって思って。もう「ここで私は死んでやる!」って、「連れてくな!」って言って、車の中で暴れて。そしたら、それまですごく毅然(きぜん)とした対応をお客様にしていた母親に「うるさい!!」「黙りなさい!!」ととても叱られて。黙るしかなかったので、ボロボロ泣きながら関東に向かいましたね。

富田さん自身にとっては、東京の学校へ転校したことが大きな環境の変化でした。

全てが変わるきっかけでしたね。たぶん性格も変わったし。バージョンアップじゃなくて、変わってしまったし……うん。友達との距離感も。福島の友達との距離感もそうだし、東京の友達との距離感っていうのも、福島にいた頃の福島の友達との距離感とは何か違くって。

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東京に転校した頃の富田さん(2011年)

「放射能」っていう言葉を、たぶん小学5年生ってそんなに耳にしたことがないから、「おい、放射能!」とかって、覚えたての言葉を投げかけてくるかのように言ってくる子もいたんです。東京で。それに「はぁ……」ってもちろんなりますし。で、それをかばってくれる子もいて、「あんたそういうのやめなよ」みたいな。でも「あんたそういうのやめなよ」って言ってる子にも素直になれないんですよね。「何をもってこの子はいま正義を振りかざしてるのか分からない」とか、思っちゃったりもして。素直に「ありがとう」とはその時も言えなかったし、たぶん今も言えないかな。
それでも、やっぱり転校してきて慣れない中、みんなが声を掛けてくれて、放課後遊びに行ってくれて……。普通の友達と変わりなく接してくれたことにはありがとうって思ってるし。だからこそ、福島の友達に会えないのもすごく寂しかったし。転校って自分の中でありえないことだったから。「なんなの、大人の考えに振り回されて」とか考えてましたけど、母は母なりに私の将来を思って決断してくれたんだなって、今になって、やっとそしゃくできるようになりましたけど。

“あの日”の出来事は、今の富田さんの生き方にも繋がっています。

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震災がなかったら東京に来てなかったかもしれないし、あの時期に友達と離れるってことをしてなければ、この仕事もやってなかったかもしれないし。元はと言えば養成所の広告を見て「3か月でデビューしませんか」みたいな広告に心が躍ってしまって。3か月後にはテレビに出ている私を、誰か(福島の)友達が見るかもしれないっていう謎のひらめきから、ずかずかと養成所に入り、レッスンをして……っていうのが最初のきっかけだったので。

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事務所に入った頃の富田さん(2013年)

福島をあの時期に離れたっていうことが、確実に私をこの世界にボンと連れ込んだきっかけだと思うので、今こうして自分の好きだと思えることにつながっているきっかけだったなと思うと、うん。私にとっては、それが私の3月11日なのかなと思います。

富田望生さん、貴重なお話をありがとうございました。

NHK仙台放送局のサイト「あの日、何をしていましたか?」では、
みなさんの2011年3月11日について投稿を募集しています。
あの日、何をしていましたか?|NHK仙台 みんなの3.11プロジェクト


「あの日、何をしていましたか?」から生まれたラジオドラマ「今夜、星と波の間(あわい)に」は、3/9(土)夜10時からFMで放送しました。
「らじる★らじる」で、3月16日(土)午後10:50まで聴き逃し配信しています。
こちらのリンクからぜひ、お聴きください。

FMシアター「今夜、星と波の間(あわい)に」

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2024年3月9日(土)午後10時~10時50分(全1回)[FM]

【作】
新井まさみ

【出演者】
富田望生 三浦誠己 小林虎之介
宿利左紀子 白鳥英一 河合美緒

【あらすじ】
仙台出身の志島ほのみ(富田望生)は、FM宮城の新人ラジオパーソナリティ。毎週土曜夜の生放送『サタデーナイトプラネット』の担当になって、もうすぐ半年が経つ。夢だったラジオの仕事には慣れてきた……でも、東日本大震災についての投稿を紹介するコーナーだけは、いまだに自分らしくできていない。そんなある日、寄せられた投稿の中にある問題が発覚。ほのみは自らが抱えてきた気持ちと、一人ひとりの「あの日」に向き合っていく――。

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