みんなの"あの日"から生まれたドラマ ～FMシアター「今夜、星と波の間（あわい）に」制作後記～
みなさんは「ラジオドラマ」って、聴いたことはありますか？
読んで字のごとく、ラジオで放送される“音だけの”ドラマのことです。
このたび、そんな「ラジオドラマ」をNHK仙台放送局が制作しました！
東日本大震災の発生から13年という3月9日（土）の夜に、
それぞれの“あの日”をテーマにしたラジオドラマを全国放送しました。
FMシアター『今夜、星と波の間（あわい）に』 【作】新井まさみ 【出演】富田望生 三浦誠己 小林虎之介 ほか |
私は、演出を担当したディレクターの見城佑衣です。
去年の春にNHKに入局し、仙台局で働き始めたばかり。ディレクター歴10か月の新人職員です。そんな私が、東日本大震災を題材にしたラジオドラマを作るまでのお話を、少しだけご紹介したいと思います。
台本と向き合う筆者
「あの日、何をしていましたか？」
突然ですが、あなたは2011年3月11日、何をしていましたか？
そう尋ねられたら、ほとんどの方が13年目のこととはいえ、何かしらの記憶を答えられるのではないでしょうか。
実は、仙台局に赴任してすぐの新人研修で、私も同じように問いかけられ、以下のようなエピソードを話しました。
私は、当時10歳の小学4年生で東京にいました。
地震があった午後2時46分ごろは、ちょうど小学校の教室で帰り支度をしているころ。これまでに味わったことのない大きな揺れで、教室の前方につるされていたテレビが落ちてくるのではないかと恐怖を感じたことを覚えています。
NHK仙台放送局では2020年度から「みんなの3.11プロジェクト あの日、何をしていましたか？」と題した取り組みを行っています。全国各地のみなさんからそれぞれに異なる“あの日”のエピソードをお寄せいただき、ウェブサイトや番組などでご紹介しています。2024年3月現在、その数は2600通を超えています。
また、NHK仙台の番組にご出演されたみなさんにもご参加いただき、インタビューという形でそれぞれの“あの日”を教えてもらっています。
| みなさんの“あの日”のエピソードは、こちらのページからご覧いただけます。
あの日、何をしていましたか？｜NHK仙台 みんなの3.11プロジェクト |
この取り組みには、仙台局の若手職員からベテラン職員まで、番組制作にかかわる職員だけではなく、イベントや組織マネジメントにかかわる職員など、年次・職種をまたいで様々な職員が参加しています。
仙台局の新人研修では、このようなプロジェクトの趣旨を説明されたのち、「興味があったらぜひ参加してほしい」と呼びかけられました。
そして私は、その瞬間に参加しようと決めた記憶があります。いや、呼びかけられる前から「どうしたら参加できますか？」と尋ねようとしていたかもしれません。
なぜなら、私は“震災のことに関わりたくて”仙台局に来たからです。
東京にいた私の、震災との距離感
少し、私の話をさせてください。
小学4年生のとき、東京で地震を経験した私。そのあとしばらくは、テレビも震災報道一色。東京では計画停電もありました。
しかし、数週間も経つと小学生だった私の生活は日常に戻っていき、大きな災害があったことを忘れる時間が増えていったように思います。
2011年12月の筆者 この年に開通した東北新幹線の車両とともに
再び東日本大震災のことを意識するようになったのは、中学生になってからのこと。学校行事で初めて東北を訪れたときでした。
当時訪れたのは、まだかさ上げや防潮堤の工事が盛んに行われていた岩手の陸前高田や、宮城の気仙沼。自分がいわば「なんてことなく」それまで通りの生活をしていた同じ頃に、まだまだ震災の爪痕が色濃く残る場所がたくさんあること、そこで暮らしている人がたくさんいることが、中学生なりに衝撃でした。
それ以来、漠然とではありますが、東日本大震災のことに関心をもつようになりました。
2015年5月 学校行事で訪れた岩手・陸前高田で筆者が撮った一枚
そして、もう一つ、私が震災のことに関心をもつようになったのは、NHKのドラマを見たときです。子どもだった自分には「ニュースの中の出来事」という印象が強かった震災。ドラマで、震災後の東北を生きる人々の姿を（フィクションではあるものの）目の当たりにしたことで、「その人たちの顔が見えた」、そんな気持ちになりました。
それぞれの“あの日”を語り合う
「あの日、何をしていましたか？」のウェブサイトには、このプロジェクトが立ち上がった当初から変わっていない「思い」が書かれています。
| 「それぞれ違う“あの日”の中で、感じたこと、気づいた大切なことを、みんなで語り合い、つながってほしい。」
|
この「それぞれ違う」とは、「被災した/していない」「東北にいた/いなかった」などにかかわらないということです。“あの日”を経験したすべての人に、“あの日”について語り合ってほしい。
その思いに共感するように、岩手・宮城・福島からだけでなく、全国各地、さらには当時海外にいた方からも“あの日”のエピソードが寄せられています。
当時東京にいた自分。東北と縁があるわけでもない自分。それでも、このプロジェクトなら、自分なりの距離感で震災と関わっていけるかもしれない。
この「思い」を最初に知ったとき、私は素直にそう思いました。
そして、みなさんの“あの日”を「伝えたい」だけではなく、純粋にもっと「知りたい」とも思うようにもなりました。
“あの日”でドラマを作りたい！
さて、話を今回のドラマに戻したいと思います。
私がプロジェクトに参加しはじめて1か月が経った頃のこと。
「あの日、何をしていましたか？」からラジオドラマを作れないか、という話が持ち上がりました。さらに、私がドラマ制作に興味をもっていることを知っていた先輩たちが「やってみたら？」と声をかけてくれたのです。入局してまだ数か月。右も左も分からないような状態でしたが、せっかくの機会だからと担当させてもらうことにしました。
いざ、ドラマの内容を考えるわけですが、一筋縄ではいきませんでした。仙台局では、プロジェクト開始当初からみなさんのエピソードを取り入れた番組をたびたび制作してきました。しかし、ドラマとなると勝手が違います。みなさんから寄せられた「ノンフィクション」の“あの日”を大事にしながら、ドラマという「フィクション」を作るにはどうすればいいのか……。悩む日々が続きました。
悩んだ末に私たちが考えたのが、ラジオパーソナリティを主人公にするというものでした。
私も、プロジェクトに寄せられたエピソードには何度も目を通していますが、どれも決して長くない文章ながら、印象深いものばかりです。情景がありありと目に浮かぶもの、「こんな方もいたんだ」と思わされるもの、その人ならではの言葉を使って表現しているもの……それらの実際のエピソードをできるだけたくさん、原文のままドラマの中でも生かしたいと思いました。
皆さまから頂いたエピソードを集めた文庫本
ラジオドラマの中に、主人公が担当する架空のラジオ番組が登場。このラジオ番組の中に、リスナーから寄せられた“あの日”のエピソードを紹介するコーナーがある……。この設定にすれば、NHK仙台に一般の方々から寄せられたエピソードを、ラジオ番組へリスナーが送った「投稿」という形でそのままご紹介できるのではないかと考えたのです。
・主人公は仙台出身の新人ラジオパーソナリティ
・主人公が担当しているラジオ番組の中に、リスナーの“あの日”の投稿を紹介するコーナーがある
この設定をふまえて脚本家の新井まさみさんに合流していただき、50分のストーリーを作っていきました。
さらに、その過程では、新井さんとともにさまざまな場所や人物を取材しています。取材でも、当時石巻にいた方、仙台にいた方、横浜にいた方…さまざまな“あの日”のお話をうかがいました。取材を通して見聞きしたこと、取材を通して感じたことも織り交ぜながら新井さんに脚本を書いて頂きました。
昨年11月 取材で訪れた石巻
そうしてできあがった脚本が、俳優の皆さんのお芝居によって声になり、効果音や音楽などをつける編集を行い、無事ラジオドラマとして完成しました。
主人公・志島ほのみを演じていただいたのは、福島県いわき市出身の富田望生さん。実は、これまでにも「あの日、何をしていましたか？」の関連番組にご出演いただいています。
ほかに、三浦誠己さんや小林虎之介さんなど、すてきなキャストのみなさんに集まって頂けました。
そして、プロジェクトあてに投稿していただいた一般の方々のエピソードもドラマ内に登場しています。
【追伸】出演者の“あの日”も公開中です！
「今夜、星と波の間（あわい）に」にご出演の富田望生さん・三浦誠己さん・小林虎之介さんに“あの日”のエピソードをうかがったインタビュー記事も公開中です。
こちらもあわせてご覧ください。
