不妊治療 保険適用は
“開始時女性は43歳未満”

来年度から保険適用が拡大される不妊治療の対象者について、厚生労働省は、中医協=中央社会保険医療協議会の総会で治療開始時点で女性の年齢が43歳未満で、子ども1人につき最大6回までとする考え方を示しました。

「40歳以上43歳未満の場合は最大3回まで適用」

不妊治療は、現在は一部を除いて公的保険が適用されず、経済的な負担が大きいことから、厚生労働省は、治療を受ける人の負担軽減を図ろうと来年度からは自己負担が原則3割となる保険適用の対象を拡大する方針で、15日開かれた中医協の総会に、新たに保険適用する不妊治療の治療法や対象者などについて考え方を示しました。

それによりますと、6月に日本生殖医学会が不妊治療の標準的な治療法などをまとめたガイドラインで、3段階の評価のうち「強く勧められる」または「勧められる」と評価された治療法について、原則として保険適用とするとしています。

具体的には、精子や卵子を採取し受精させたあと体内に戻す「体外受精」や、注射針などを使って卵子に精子を注入する「顕微授精」などが対象となります。

また、対象者は不妊症と診断された男女で、治療開始時点で女性の年齢が43歳未満であることを要件とし、40歳未満の場合は、子ども1人につき最大6回まで、40歳以上43歳未満の場合は最大3回まで適用するとしています。

総会では「保険適用外の治療への助成制度も検討すべきだ」とか「医療機関の実績や治療にかかる費用について情報公開を進めるべきだ」といった意見が出されました。

中医協は今後、保険適用とする具体的な治療法ごとに価格を検討し、来年度の診療報酬の改定案に盛り込むことにしています。

不妊治療 保険適用はどうなる?厚労省案を解説

具体的にはどのような内容なのか?この記事で詳しく解説します。

不妊治療は、現在は一部を除いて公的保険が適用されず、経済的な負担が大きいことから、厚生労働省は、治療を受ける人の負担軽減を図ろうと来年度からは自己負担が原則3割となる保険適用の対象を拡大する方針です。

15日開かれた中医協の総会では、新たに保険適用する不妊治療の治療法や対象者などについて考え方が示されました。

具体的に見ていきます。

対象者・回数制限は?

まず保険適用の対象者や治療の回数についてです。

保険適用の対象となるのは、不妊症と診断された男女で、治療開始時点で女性の年齢が43歳未満であることを要件としています。

治療開始時点の女性の年齢が、40歳未満の場合は子ども1人につき最大6回まで、40歳以上43歳未満の場合は最大3回まで適用するとしています。

また、事実婚の男女についても保険適用の対象とするとしています。

どの治療法に?

現在は、不妊の原因を調べる検査や、検査の結果、不妊の原因となる症状が見つかった場合の薬や手術による一部の治療、それに薬や注射で排卵を促す「排卵誘発法」などに保険適用の対象が限られています。

厚生労働省が、15日示した不妊治療の保険適用についての考え方では、来年度から、精子を取り出し、妊娠しやすい時期に子宮内に注入する「人工授精」や、精子や卵子を採取し受精させたあと体内に戻す「体外受精」、それに注射針などを使って卵子に精子を注入する「顕微授精」などについても対象とすることを想定しています。

6月に日本生殖医学会が精子や卵子の採取から着床に至るまでの標準的な治療法などをまとめたガイドラインで「強く勧められる」「勧められる」「実施が考慮される」の3段階で評価されたうち、「強く勧められる」、「勧められる」とされた治療法に原則として保険を適用するとしています。

経験がある女性などを対象に、あらかじめ受精卵の染色体に異常が無いかなどを調べる「着床前検査」については、ガイドラインでは「勧められる」と評価されていましたが、「命の選別につながるのではないか」という指摘が出ていることなどから、学会での議論の状況などを踏まえつつ、別途、検討するとしています。

またガイドラインで「実施が考慮される」と評価された治療法やガイドラインに掲載されていない治療法については、原則として保険適用外としつつ、医療機関からの申請があれば「先進医療」と位置づけ、保険適用された治療と併用できるように審議を進めるとしています。

このうち、第三者が提供した精子や卵子を使った生殖補助医療などについては、国会でその取り扱いについての検討が進められていることを踏まえ、現時点では保険適用外としています。

どこの医療機関で?

保険適用にあたっては、不妊治療を実施する医療機関の施設基準を設け、情報公開などの要件を定めるとしています。

現行の助成制度との接続は?

15日示された考え方は、ことし1月から拡充された不妊治療への助成制度を基本的に踏襲するもので、厚生労働省は、これまで治療を受けていた人が、引き続き治療を受けられるようにすることが望ましいとしています。

このため、現在の助成制度は、今年度末で終了するものの、今年度中に開始した不妊治療については、来年度にかけて続いた場合でも、1回に限って、今の助成金の対象とする経過措置を設けることにしています。

今回の案、専門家はどうみる?

こうした厚生労働省の考え方について、専門家はどう見ているのか。

日本生殖医学会の常務理事で埼玉医科大学の石原理教授は、「今回の保険適用によって、窓口で3割負担となるので、患者が準備するお金が少なくて済む。これまで経済的な理由で踏み出せなかった人たちが不妊治療を新たに始められるようになる」と話しています。
また、対象となる女性の年齢が治療開始時点で43歳未満とされたことについては「従来の助成制度の年齢制限と同様であり、妥当だ。日本で不妊治療を受けている女性のおよそ半数が40歳以上である一方、年齢が上がるにつれて体外受精の成功率は下がり、40歳を過ぎると10%以下、43歳を過ぎると5%以下しか出産に至らないので、今回の年齢制限は医学的にはやむを得ないと思う」と話しています。

適用対象外の自己負担は

一方で、保険適用の対象にならない治療や検査を受けようとすると、その治療や検査にかかる費用だけでなく、患者が受ける不妊治療にかかる費用すべてが自己負担になります。

たとえば、今回示された考え方では流産の経験がある女性などを対象にあらかじめ受精卵の染色体に異常がないかなどを調べる「着床前検査」は、「学会での議論の状況などを踏まえつつ、別途検討する」とされ、今後、保険適用されるか、保険適用された治療と併用できる「先進医療」として認められないかぎりは、不妊治療にかかる費用すべてが自己負担になります。

石原教授は「従来の助成制度では、不妊治療に対して、一律で30万円が助成されていたが、今後は、助成制度がなくなるので、保険が適用されない治療を受けようとすると、すべてが患者の自己負担となり実質的な負担がこれまでより増加するおそれもある」と指摘しています。

支援団体「年齢・回数制限厳しく残念」

不妊治療の当事者を支援するNPO法人「Fine」の松本亜樹子理事長は「保険適用によって経済的な負担が減るのは本当にありがたいです。ただ、不妊治療を受けている人の年齢層から考えると対象が43歳未満となるのは少し厳しいと感じますし、回数が制限されることも残念です。保険適用を拡大することで医療の質が向上することも期待していて、治療成績の公開や第三者機関によるチェックシステムの整備などを求めていきたい」と話しています。
今後の議論は
15日の総会では「保険適用外の治療への助成制度も検討すべきだ」とか「医療機関の実績や治療にかかる費用について情報公開を進めるべきだ」といった意見が出されました。

中医協は今後、保険適用とする具体的な治療法ごとに価格を検討し、来年度の診療報酬の改定案に盛り込むことにしています。