“被爆体験者救済 行方注視”
原告団長「あぜんとした」

「長崎原爆の日」の9日、菅総理大臣は、平和祈念式典に出席したあと長崎市内のホテルで記者会見し、原爆の後遺症に苦しんでいる人がいることを胸に刻む必要があるという認識を示す一方、「被爆体験者」の救済については「現在も訴訟が継続中でありまずはその行方を注視していきたい」と述べました。

この中で、菅総理大臣は「76年前のきょう、原子爆弾によって一瞬のうちに焦土と化し、多くの方の大切な命が失われ、いまなお原爆の後遺症に苦しんでいる方がいることを胸に刻んでいかなければならない」と述べました。

一方、国が被爆者と認定する地域の外にいた「被爆体験者」の救済については「長崎においては、現在も訴訟が継続中なので、まずはその行方を注視をしていきたい」と述べました。

また菅総理大臣は、核兵器禁止条約について「核廃絶というゴールは共有をしているが、核兵器のない世界を実現するには、核兵器国を巻き込んで軍縮を進めていくことが不可欠だ。安全保障環境がいっそう厳しさを増している中で、抑止力の維持・強化を含め、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、現実的に核軍縮を前進させていく道筋を追求していくことが適切だ」と述べました。

そのうえで、菅総理大臣は「こうしたわが国の立場に照らし、条約に署名する考えはない。また、締約国会議へのオブザーバー参加についても、慎重に見極める必要がある」と述べ、条約への署名・批准には否定的な考えを重ねて示しました。

菅首相 被爆者団体代表らと面会

菅総理大臣は、長崎市で被爆者団体の代表らと面会し、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界に向けた国際社会の取り組みを主導していく考えを強調しました。

菅総理大臣は、長崎市での平和祈念式典に出席したあと、田村厚生労働大臣とともに、被爆者団体の代表ら5人と面会しました。

この中で、団体の代表は「核兵器禁止条約」への署名・批准や、条約の締約国会議へのオブザーバーとしての参加、それに、長崎で被爆者としての認定を求めて裁判を続けている「被爆体験者」と呼ばれる人への被爆者健康手帳の交付などを求めました。

これに対し、菅総理大臣は「唯一の戦争被爆国として、非核三原則を堅持し、核兵器のない世界に向けて、国際社会の取り組みをリードしていくことをお誓いしたい」と述べました。

その上で「『核兵器禁止条約』が目指す核廃絶というゴールはわが国も共有している。一方で、目標を実現するためには、核兵器国を巻き込んで核軍縮の取り組みを進めていくことが必要不可欠だ」と述べ、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、現実的に核軍縮を前進させる道筋を追求していく考えを改めて示しました。

また、被爆者への支援について「被爆者が高齢化する中、原爆症の認定審査の迅速化は当然のことだ。今後とも、被爆者への援護施策や、原子爆弾の悲惨な経験を世代と国境を越えて伝えていくための取り組みを誠心誠意、政府として進めていきたい」と述べました。

被爆者団体 菅首相に条約への署名など求める要望書手渡す

長崎の被爆者団体の代表は、菅総理大臣らと面会し、核兵器禁止条約への署名・批准や「被爆体験者」の救済などを求める要望書を手渡しました。

また長崎原爆資料館への訪問を求めたのに対し、菅総理大臣は「検討したい」と応じました。

長崎県の主な5つの被爆者団体の代表は、平和祈念式典の後、長崎市内のホテルで菅総理大臣らと面会し、核兵器禁止条約への署名・批准や、国が被爆者と認定する地域の外にいた「被爆体験者」の救済などを求める要望書を手渡しました。

そして、長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長は、「どうして長崎原爆資料館に総理大臣を含め、閣僚の皆さんが誰ひとり足を運ばないのか。広島には大勢の総理大臣や閣僚が訪れている。長崎の原爆資料館も見てください」と訴えました。

これに対し、菅総理大臣は、核兵器禁止条約への署名・批准には否定的な考えを重ねて示す一方、原爆資料館の訪問については「検討したい」と応じました。

また、田村厚生労働大臣は「被爆体験者」の救済について「現在の被爆地域より広い範囲で健康影響の観点から問題となる量の放射線の被爆があったという科学的知見は得られていない。PTSDおよび合併症に対する医療費の助成事業は行っているが、合併症は精神疾患との関連を要件にしている。がんについては精神疾患との医学的なつながりは認められていないが、科学的知見の動向を引き続き注視したい」と述べました。

『被爆体験者』の救済 “回答がなかったのにはがっかり”

要望のあと、長崎県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長は「いま最も肝心な『被爆体験者』の救済について、広島の黒い雨の扱いと別なのか、同等なのかも含めて、全く回答がなかったのにはがっかりした。回答がなかったことは、内々では検討していると信じるしかない」と述べました。

また、長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長は「『被爆体験者』への対応について、私たちが期待していたものが1つも出てこなかった。広島の黒い雨と長崎の被爆体験者は同一問題なのに、触れさえしないというのはどういうことだ」と述べました。

一方、川野議長は、要望を終えた後、菅総理大臣から長崎原爆資料館への訪問について「帰ってから検討する」と伝えられたことを明らかにした上で「前向きに受け止めている」と述べました。

さらに、長崎原爆被災者協議会の田中重光会長は「政府は、『核兵器国と非核兵器国の架け橋になりたい』と繰り返しのべているが、いまだにどのように橋渡しをするのか、一度も具体的に述べてない」と指摘しました。

被爆体験者訴訟 原告団長 岩永千代子さん「あぜんとした」

被爆体験者訴訟の原告団長を務める岩永千代子さんは、菅総理大臣が被爆体験者の救済をめぐり、訴訟の行方を注視する考えを示したことについて「菅総理大臣にははっきり言ってあぜんとした」と述べました。

その上で「広島の判決の後、菅総理大臣自身が『被爆者援護法の理念に立ち返る中で、上告はしない』とおっしゃった。もし、援護の理念に立ち返るのであれば長崎も広島と同じく救済すべきだ」と訴えました。

また、岩永さんは、田村厚生労働大臣が「現在の被爆地域より広い範囲で、健康影響の観点から問題となる量の放射線の被爆があったという科学的知見は得られていない」と説明したことについては「実際に長崎にも黒い雨が降った地域もあり、苦しんでいる人もいる。科学的、合理的とはどういうことか問いたい」と述べました。

その上で「広島の場合は、広島市と広島県が国に上告断念を訴えたことが、菅総理大臣の判断につながったと思う。長崎市と長崎県にも同じように頑張ってほしい」と述べました。