コロナ“自宅療養を基本”方針
知事 与野党 感染者は…

新型コロナウイルスの医療提供体制をめぐり、菅総理大臣は日本医師会など医療関係団体の代表と会談し、重症患者などを除き、自宅療養を基本とするとした方針をまとめたことを受けて、必要な体制の整備に協力を求めました。

この中で菅総理大臣は、重症患者などを除き自宅療養を基本とするとした政府の方針について「ワクチン接種の進行と感染者の状況の変化を踏まえ、急激な感染拡大においても、医療提供体制を確保し、誰もが症状に応じて必要な医療を受けることができるよう方針を転換した」と述べました。

そして、感染拡大地域では、重症患者や酸素投与が必要な中等症の患者、それに糖尿病などの疾患のある患者には確実に入院してもらい、それ以外の人たちでも症状が悪化した場合はすぐに入院できる体制を整備すると説明しました。

そのうえで「患者にとって身近で頼れる存在である地域の診療所では、往診やオンライン診療などによって、患者の状況を把握し、適切な医療を提供してほしい」と要請しました。

そして、菅総理大臣は「何としても国民の命と健康を守っていく決意だ。難局を乗り越えるため、国、自治体、医療関係者と一致協力して対処したい。病床の確保とともに、自宅療養や宿泊療養の強化に、改めて、一段のお力添えをお願いしたい」と述べました。

これに対し、日本医師会の中川会長は「全国的な緊急事態宣言の発令により、例外なく県境を越えないなどのより強力な感染拡大防止策が全国的な規模で必要だ」と指摘しました。

そのうえで「地域の医師会や医療機関では、特に自宅療養への対応に重点を置いた体制整備をさらに強化していく。難局を乗り越えるため、医療従事者が一丸となって立ち向かう決意を改めて表明する」と応じました。

日本医師会 中川会長「フォローアップに努力」

日本医師会の中川会長は記者団に対し「自宅療養を行う患者のオンラインや電話でのフォローアップについては、頻度や参加する医師、医療機関を増やす努力をしていきたい」と述べました。

一方で中川会長は「感染者がどんどん爆発的に増えていくと、いくら医師がいても追いつかないことが現実になってくるが、頑張れるだけ頑張るしかない」と述べました。

田村厚労相 “病床に余力持たせるため” 自宅療養を基本方針

重症患者などを除き自宅療養を基本とするとした新型コロナウイルスの医療提供体制の方針について、田村厚生労働大臣は病床に余力を持たせるためだと強調したうえで、自宅療養の人が症状が悪化した際に対応できる体制の整備を急ぐ考えを示しました。

新型コロナウイルスの医療提供体制をめぐり、政府は入院は重症患者や重症化リスクの高い人に重点化する一方、それ以外の人は自宅療養を基本とし、健康観察を強化するなどとした方針を取りまとめました。

これについて田村厚生労働大臣は閣議の後の記者会見で「中等症以上の症状の人が入院できる病床を常に確保しておくことが重要だ。病床にすぐに入ってもらえる余力を持てるよう対応しないといけない」と述べました。

そのうえで「いろんな問題が起こるのは感染スピードが速い時なので、スピード感を持って対応ができるように支援しないといけない」と述べ、自宅療養の人への健康観察や症状が悪化した際に対応できる体制の整備を急ぐ考えを示しました。

一方、田村大臣は「ロックダウン」=都市封鎖を可能にする法整備の必要性を問われ「欧米並みに罰則を含む法律を作るとすれば私権を強く制限することになる。一方で、新たな感染症への対応策としてどういう対応が必要かは時間がかかっても議論していくべき話で、非常に重い課題だ」と指摘しました。

厚労相“自治体で運用判断”
知事会長“基準明示を”

田村厚生労働大臣は3日午後、全国知事会の飯泉会長とテレビ電話形式で会談し、重症患者などを除き、自宅療養を基本とするとした政府の方針を説明しました。

そのうえで、実際の運用について「感染が急拡大している地域にはこうした考え方も可能だと示したが、具体的には地域の実情に応じて適切に検討、対応をお願いしたい」と述べ、感染状況などに応じて自治体ごとに判断してもらいたいという考えを示しました。

これに対し、全国知事会の飯泉会長は、政府の方針について「あくまでも急激な感染拡大地域についてのオプションだと捉えることが重要で、そうしないと、そうでないエリアは非常に動揺をきたそうとしている」と指摘しました。

そのうえで「中等症で入院対象から外れる場合や新たな入院基準に移行する場合の客観的な数値基準を具体的に示してもらえれば、知事としても判断がしやすく、医療従事者にとってもめどが立ちやすい」と述べ、基準を明示するよう求めました。

官房長官「医療提供体制の確保に取り組む」

加藤官房長官は閣議のあとの記者会見で「東京都など感染が急拡大している現場の声も踏まえて策定したもので、きょう田村厚生労働大臣が全国知事会に説明し協力を要請することになっている。引き続き必要な方が必要な医療を受けられるよう、自治体とも緊密に連携をとりながら地域の医療資源をしっかりと活用し医療提供体制の確保に取り組んでいきたい」と述べました。

一方、記者団が自宅療養が増えることに国民の不安が高まるのではないかと質問したのに対し「『症状が急変した方をなかなか病院で受け入れることができなかった』という指摘もあり、そうした能力の確保が必要だ。症状が悪くなればすぐに入院できる仕組みを講じ身近な地域の診療所などが患者の把握をしていただく中で、できるだけ早く察知し病院へ送っていくことにより病床をより有効に活用していきたい」と述べました。

自民 世耕参院幹事長「より安心で迅速な対応ができる体制」

自民党の世耕参議院幹事長は記者会見で「政府の説明を聞けば決して重症患者しか入院させないというわけではない。自宅療養の人に対してもオンラインで連絡を取り合うなどして、重症化の気配があれば直ちに入院できるような体制になっているということだ。より安心で迅速な対応ができる体制を組もうとしているのではないか」と述べました。

立民 枝野代表「強い憤り 国民の命を守れない」

立憲民主党の枝野代表は党の役員会で「政府は安全安心だと繰り返してきた中で突然、中等症の人を病院で治療するという最低限のことすらできないと言い出している。危機対応が全くなっておらず改めて強く憤りを感じている。自宅療養というのはことばだけで『自宅放棄』としか言いようがない。今の政権にこれ以上危機管理を任せていたら国民の命を守れない」と述べました。

公明 山口代表「中等症も適切な医療的ケアを」

菅総理大臣は、総理大臣官邸で公明党の山口代表と昼食を取りながら会談しました。

この中で菅総理大臣は、新型コロナウイルスの医療提供体制をめぐり、新規の感染者が増えていることを踏まえ、入院は重症患者や重症化リスクの高い人に重点化し、それ以外の人は自宅療養を基本とするなどとした方針を説明しました。

これに対し、山口氏は「中等症の人たちも適切な医療的ケアを受けられる対応をお願いしたい」と述べ、病床や人員を増やすことに加え、酸素や治療薬を提供する設備の確保など、丁寧な対応を求めました。

そのうえで両氏は、感染の収束に向けて引き続き政府・与党が連携して、感染対策やワクチン接種の着実な推進などに取り組むことを確認しました。

一方、一部の知事などから検討を求める声が出ている「ロックダウン」=都市封鎖については、強力な私権制限を伴うことなどから、日本にはなじまないという認識で一致しました。

大阪 吉村知事“これまでどおり入院や宿泊療養基本”

新型コロナウイルスの医療提供体制をめぐり、政府が重症患者などを除いて自宅療養を基本とする方針を示したことについて、大阪府の吉村知事は、大阪では病床や施設を確保できているとして、現時点では、これまでどおり入院や宿泊療養を基本としていく考えを示しました。

政府は、新型コロナの医療提供体制をめぐって、入院は重症患者や重症化リスクの高い人に重点化する一方、それ以外の人は自宅療養を基本とするなどとした方針をまとめました。

これについて大阪府の吉村知事は3日、記者団に対し、方針の詳しい内容はまだ分からないとしたうえで「大阪では病床や施設を確保しており、基準を変えることなく、入院や宿泊療養の手続きを進めていく」と述べ、現時点では、これまでと同様に軽症や中等症の患者にも入院してもらい、入院の必要がない人は、原則として宿泊療養とする方針を示しました。

また、吉村知事は「新型コロナの場合、容体が急変しやすく、自宅療養は医療の支援態勢とセットであるべきだ」と述べ、自宅療養を基本とする場合は、医師の往診や看護師の健康観察の態勢を強化する必要があるという認識を示しました。

一方で「感染者数が急増してくれば、宿泊療養も入院も限界となることはありえる」と述べ、今後の感染状況によっては対応が変わることもあるという考えを示しました。

自宅療養で家族が次々と感染し…

重症患者や重症化するリスクが高い人以外は自宅療養を基本とするとした政府の方針について、自宅療養を続けている人や、すでに家族内で感染が広がっている人たちからは不安の声が上がっています。

先月、同居する家族全員が新型コロナウイルスに感染したという女性は、重症患者などを除き自宅療養とする方針について「家庭内感染を防ぐのは難しくますます感染が広がってしまうのではないか」と話しています。

東京都内で夫と息子2人と暮らす介護ヘルパーの60歳の女性は先月19日に30歳の会社員の長男の感染が判明し、その3日後に夫も体調が悪くなり、その後、感染が確認されました。

同じ頃、女性と29歳の次男もPCR検査で陽性となったということです。

最初に感染がわかった長男はホテル療養となりましたが、調整に時間がかかり感染確認後3日間、自宅で過ごしていたということで、女性はこの間に家庭内で感染が広がったと考えています。

女性は「長男は個室に隔離して接触しないようにしていましたが、トイレなどは共用のため感染を防ぐことは難しくあっという間に広がってしまいました。夫は基礎疾患があるので、長男が自宅療養している間は生きた心地がしませんでした」と話していました。

そのうえで、重症患者や重症化するリスクが高い人以外は自宅療養を基本とする方針について「医療がひっ迫していて、それしか方法がないのかもしれませんが、家庭内感染を防ぐのは難しくますます感染が拡大してしまうのではないでしょうか。介護ヘルパーの仕事を2週間以上休んでいるので収入もなく不安な状況で、利用者の方や代わりに仕事に入ってくれている同僚のことを考えると心苦しいです。もともと人手が足りない介護現場がさらに大変になると危機感を感じます」と話していました。

保健所「自宅療養 きめ細かい対応は非常に厳しい」

政府が自宅療養を基本とするとした方針をまとめたことについて、都内の保健所の所長は「自宅療養だと、保健所がきめ細かく対応するのは非常に厳しい」と言います。

東京・北区保健所の前田秀雄所長は「中等症以上は呼吸困難を訴える状況で、本来は入院治療しないといけない。急激に症状が悪化して重症化することもあり、場合によっては常時、病状を確認することが必要だが保健所が1日に数回連絡をしたり、24時間見守ったりできるわけではないので、きめ細かく対応するのは非常に厳しい。自宅で酸素濃縮装置の対応を本人にお願いするとなると不安も生じると思う」と述べました。

その上で、「このままだと重い中等症ですら東京中探しても入院できなくなるおそれがある。根本的には陽性者を減らすことをしないと東京の医療は破綻すると考えている。軽症の人が利用している宿泊療養施設を一定のリスクがある人のために使ったり、臨時の医療施設を設置して健康観察をしたりするといった対応をしてほしい」と訴えました。

専門家「急激に症状悪化 把握が課題」

自宅療養を基本とする政府の方針について、厚生労働省の専門家会合のメンバーで国際医療福祉大学の和田耕治教授は、「新型コロナウイルスに感染した人の中には、呼吸の苦しさをあまり感じないまま肺炎が進行し、急激に症状が悪化する人が一定数いることが分かっている。自宅で容体が悪くなった人を把握し、いち早く医療につなげられるかが課題だ」と指摘しました。

その上で「入院していれば主治医など誰が管理の責任を持つかは明確だが、自宅療養の場合、明確に決まっていない場合がある。若い世代であればかかりつけ医もいないと考えられる。地域のクリニックでも健康状態のフォローアップを担ってもらうなど、医療体制を地域で組む必要もある」と述べ、自宅で療養する人を支える医療体制を整える必要性を強調しました。

さらに和田教授は現在の感染状況について「国内では、コロナが広がってからの1年半でいまが最も感染するリスクが高い状態だ。自分のすぐそばまでウイルスが来ているという緊張感をもって感染対策を行ってほしい。特に医療がひっ迫しているいま、感染しても期待するような医療が受けられない可能性がある。自分や家族を守るためにも人と会う、接触する機会をとにかく減らしてもらわないといけない」と訴えました。