海外婚 婚姻成立認めるも
別姓の戸籍記載認めず 地裁

夫婦別姓を選んでアメリカで結婚した日本人の夫婦が、日本でも別姓のまま婚姻関係にあることを認めるよう求めた裁判で、東京地方裁判所は、婚姻の成立については認めたものの、別姓のまま戸籍に記載することについては認めず、訴えを退けました。

映画監督の想田和弘さんと妻の柏木規与子さんは、24年前の1997年にアメリカ・ニューヨーク州で夫婦別姓を選んで結婚しましたが、日本でも別姓のまま戸籍に記載して婚姻関係にあることを認めるよう国に求めました。

日本では、民法で夫婦は同じ姓にすると規定され、日本人どうしが結婚するときに夫婦別姓が認められておらず、国側が「2人の結婚は婚姻の実質的な要件を欠き、日本では成立していない」と主張した一方、夫婦は「ニューヨーク州の法律によって婚姻は有効に成立している」と主張しました。

判決で東京地方裁判所の市原義孝裁判長は、2人の結婚が成立しているかについて「日本の法律でも外国の方式に従って『夫婦が称する姓』を定めずに結婚することは当然、想定されている。婚姻の方式は婚姻を挙行した国の法律によると定められていることから、2人の結婚は有効に成立している」と指摘しました。

一方で「戸籍については家庭裁判所に不服を申し立てるほうが適切だ」として、訴えを退けました。

また「2人が『夫婦が称する姓』を決めないのは2人の事情であり、姓を決めて戸籍の記載を求めるのに何ら客観的な障害は見当たらない」などとして、別姓のまま戸籍に記載することについては認めませんでした。

原告の夫婦「別姓でも夫婦にはなれる 社会的な意義がある」

判決について、想田和弘さんは、オンラインの会見で「戸籍に記載してほしいという請求自体は退けられましたが、判決の中で、法律上、婚姻関係は有効だと認められたことは本当によかった。別姓でも夫婦にはなれることを示してくれたことは社会的な意義がある」と述べました。

また、柏木規与子さんは「選択的夫婦別姓の実現に向けた大きな一歩になったと思う」と述べました。

弁護団「民法規定の意味問われる」

想田さんと柏木さんの代理人を務める竹下博將弁護士は、会見で「海外で『夫婦が定める姓』を決めずに結婚するケースが少なくない中で、海外で別姓のまま結婚すれば、日本でも婚姻が成立していると認められることが明らかになった」と述べ、判決で婚姻関係の成立が認められたことを評価しました。

そのうえで「同じ姓を選ばなければいけない民法の規定にどのような意味があるのか、今後、問われていくことになるだろう。選択的夫婦別姓の実現に向けた議論は加速していくと考えている」と話しています。

国「政府の立場では婚姻不成立」

法務省民事局は「政府の立場としては日本において2人の婚姻が有効に成立しているとは考えていない。この点については、国の主張が受け入れられなかったものと受け止めている」とするコメントを出しました。

グローバル化と夫婦別姓

海外では夫婦別姓を選ぶことが認められるようになった国が多く、法務省によりますと、夫婦が同じ姓を名乗ることが義務づけられている国は、把握できている範囲で、世界で日本だけだということです。

日本と諸外国との間で制度の違いが大きいため、今回のように海外で結婚した夫婦であっても、日本は結婚を認めないという事態が起きてしまいます。

夫婦別姓を認めない日本の民法の規定について国連の女性差別撤廃委員会からは「女性に対する差別的な法規制だ」として、速やかに改正するよう、たびたび勧告を受けています。

また、国をまたいだ人の移動が増えたことにより、夫婦のいずれかが外国人の「国際結婚」も増えています。

国の統計によりますと、日本での結婚のうち国際結婚が占める割合は、昭和40年には全体の0.4%でしたが、徐々に増え、平成18年には6.1%とピークに達しました。

その後は減り、平成27年は3.3%となっていて、日本でも国際結婚の夫婦については結婚の際に夫婦別姓を選べることになっています。

世論調査では「選択的夫婦別姓」は57%

NHKが先月下旬に実施した世論調査で「夫婦の姓はどうするべきか」尋ねたところ、「夫婦は同じ名字を名乗るべきだ」とする人は40%、「同じ名字か、別の名字か、選べるようにすべきだ」と答えた人は57%という結果となっています。

調査は先月下旬、固定電話と携帯電話の無作為の番号にかける方法で実施しました。

夫婦別姓めぐる司法判断

夫婦別姓を認めない民法の規定が憲法に違反するかどうかが争われた裁判では、2015年に最高裁判所が裁判官15人全員による大法廷を開いて判決を出すことになり、注目を集めました。

最高裁判所大法廷は判決で「夫婦が同じ名字にする制度は社会に定着してきたもので、家族の呼称を1つにするのは合理性がある」として憲法に違反しないという初めての判断を示しました。

一方で、裁判官15人のうち、女性裁判官3人全員と男性の裁判官2人の合わせて5人が、夫婦別姓を認めないのは憲法に違反するという意見を述べました。

この最高裁判決の後も、夫婦別姓を求める裁判は相次いで起こされています。

去年12月には、最高裁判所第2小法廷と第3小法廷が、夫婦別姓を求めた審判について、大法廷で審理することを決め、再び大法廷で憲法判断が行われることになりました。

専門家「本質的な問題については正面からの判断避けている」

家族法が専門の早稲田大学の棚村政行教授は「『婚姻は有効に成立している』としながら、戸籍に記載できるかや婚姻の証明書を出せるかといった婚姻の手続きについては認めなかった。手続き論に終始し、夫婦別姓をめぐる本質的な問題については正面から判断することを避けている。この判決だと、訴えている夫婦は、婚姻は成立しているのに証明するものがないという状況になってしまい、婚姻による法的な保護や利益を得られず不安定な状態となり、夫婦の不安は解決しない。グローバル化によって国際結婚も増えている社会の状況に法律が追いついていないことが改めて浮き彫りになった形で、法改正に向けた議論を早期に進めることが必要だ」と話しています。