非正規ボーナス退職金なし
不合理格差当たらず 最高裁

非正規で働く人たちが正規雇用の人たちと同じ仕事をしているのに、ボーナスや退職金が支給されないのは不当だと訴えた2件の裁判で、最高裁判所は、いずれも不合理な格差に当たらないとする判断を示しました。

大阪医科大学の研究室で秘書のアルバイトをしていた50代の女性は、正規の職員の秘書と仕事の内容が同じなのにボーナスなどが支給されないのは不当だとして、大学側に賠償を求めました。

判決で、最高裁判所第3小法廷の宮崎裕子裁判長は「大学では、正規の職員は業務内容の難易度が高く、人材の育成や活用のために人事異動も行われ、正職員としての職務を遂行できる人材を確保する目的でボーナスが支給されている。一方、アルバイトの業務内容は易しいとうかがわれる」と指摘しました。

そのうえで「ボーナスが支給されないことは不合理な格差とまではいえない」と判断しました。

また、東京メトロの子会社「メトロコマース」の契約社員らが、駅の売店で正社員と同じ業務をしていたのに退職金などが支給されないのは違法だと訴えた裁判でも判決が言い渡されました。

最高裁判所第3小法廷の林景一裁判長は、「退職金は労務の対価の後払いや、続けて勤務したことに対する功労の性質もある。正社員は複数の売店を統括し、サポートやトラブル処理などに従事することがあるが、契約社員は売店業務に専従し、一定の違いがあったことは否定できず、配置転換も命じられない」と指摘しました。

そのうえで、退職金を支給しないことは不合理な格差に当たらないとする判断を示しました。

一方で、2件の判決ではボーナスも退職金も、不合理な格差と認められる場合には、違法と判断することもありうるとし、あくまで今回の個別のケースに対する判断だとしています。

最高裁と高裁判決の比較

労働組合「よくない流れを作ってくれた」

兵庫県尼崎市を中心に、およそ30年にわたって労働者への相談や支援活動を行ってきた「武庫川ユニオン」も13日の判決を注目していました。

判決について、小西純一郎副委員長は「企業側が、今回の判決を活用して、『アルバイトにはボーナスはいらないとか退職金はいらない』と言いだすと、非正規にとっては非常に大変だと思う。よくない流れを作ってくれたなと思います」と懸念を示しました。

加藤官房長官「公正な待遇の確保に向け進めていく」

加藤官房長官は、午後の記者会見で、「厚生労働省で判決内容を精査しているが、もともと民と民の訴訟にかかる判決でもあり、内容についてコメントすることは差し控えたい。政府として、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保、いわゆる『同一労働同一賃金』の実現に向けた取り組みを進めていきたい」と述べました。

専門家「企業の動きには沿わない内容の判決」

労働法が専門で、東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授は、「率直に言って、いま企業で進められている動きには沿わない内容の判決だと感じる。今回の判決は労働契約法のうち、いまは削除された条文について判断を示したものであり、現在は、働き方改革関連法として新しい法律に改正されている。今回の判決が、現在の格差是正に向けたさまざまな取り組みに、大きな影響を与えるのか、慎重にみるべきだ」と話しています。

退職金争点の裁判では裁判官1人が反対意見

13日の2件の判決のうち、退職金が争点となった裁判では、最高裁の宇賀克也裁判官が唯一、反対意見を述べています。

宇賀裁判官は「この会社で正社員に支給される退職金は継続的に勤務した人への功労報償の性質を含んでいて、契約社員にも当てはまるものだ」と指摘しています。

そのうえで「売店の販売業務は、正社員全体の人事ローテーションの一環として行わせる位置付けにはなっておらず、販売業務をする正社員と契約社員との間では業務の内容や配置転換などに大きな違いはない。正社員と契約社員との間で退職金の支給に格差があるのは不合理だと評価できる」と述べています。