自民党新総裁に菅氏選出
専門家の分析は

今回の総裁選や今後の課題について、政治のさまざまな分野の専門家に聞きました。

慶應大 谷口教授「危機的状況への対応力が重視された」

政治学が専門で、慶應義塾大学大学院の谷口尚子教授は、今回の総裁選で菅官房長官が新しい総裁に選出された背景について、「予測されない形でのバトンタッチということで、まずは今の政治の継続性と、さらには、コロナ禍という非日常的な、危機的な状況に対しての対応力が非常に重視された。その点では、長く官房長官として安倍政権を支えてきたことで、党内から絶大な信頼があり、これからの政治の流れが見通せない中で、まずは緊急事態に対する内政面での対応力が求められたと思う」と分析しました。

そのうえで、「これまで長らく自民党の総裁、あるいは総理大臣というものが、いわゆる2世・3世の政治家が続いてきた中、今回、実務面で支えてきた人がリーダーになるというのは、珍しい局面だ」と述べました。

そして、菅氏がこれまで打ち出してきた政策について、「これまでの安倍政権の方向性を踏襲しながらも『縦割り行政の打破』や、通信政策に代表される規制緩和などを打ち出すなど、不足している部分を補うといったような形が色濃く見える。これまで党内や官僚との調整、また、政党を超えたところで調整をしながら仕事をしてきた人だと思う。コロナという難局の中では、高い実務能力が発揮されることを期待している」と話しています。

学習院大 野中教授「内輪のロジックが優越した選挙だ」

比較政治学が専門で選挙制度に詳しい、学習院大学の野中尚人教授は、今回の総裁選について「突発的なこともあったわけだが政策的な論争が十分にできておらず、盛り上がりに欠ける、いわば『インサイダーの競争』という感じを受ける。結果が早く分かってしまったということもあったが、国会議員が自分たちの都合でいろんな物事を決めていくという、内輪のロジックが優越した選挙だと思う」と話しています。

そのうえで、「今度の政権も、首相官邸がリーダーシップを取って引っ張っていくことになると思う。安倍政権の時代にはいくつか問題があり、十分に説明責任が果たせないこともあった。国会できちんと説明をするとともに、国会の仕組みを改革してほしい」と話しています。

また、野中教授は「新総裁は新しい総理大臣、という側面が強いが暫定政権ではなく、一刻の猶予もない、というつもりで取り組んでもらう必要がある。そうでなければ、本当に大事な局面で政策転換がうまくいかないとか指揮力を発揮できない、ということも十分に考えられる。新しい総理大臣の下で総選挙はあってしかるべきで、それは、新総理の責任だと思う」と話しています。

東工大 西田准教授「SNS上での戦いは必ずしもうまくいかず」

公共政策が専門でネットと政治の問題に詳しい、東京工業大学の西田亮介准教授は、今回の総裁選について「各候補者がSNSを活用して発信するなど、SNS上でも戦いが繰り広げられるような総裁選だったが、ふだんから自分で発信しているわけではないので、必ずしもうまくいったわけではないと思う。石破さん、岸田さんについては、あまりにも短期間の選挙で、手が回らなかったという印象だ」と指摘しました。

そのうえで、菅官房長官について、「豪腕と強面という印象を中和させたいということに重きが置かれていた印象だ。SNSでパンケーキなど甘いものを食べている投稿が相次いだことで、一部の人には人間的な側面もあるという印象を持たれたのではないか」と話しています。

また、新政権に求めることについては、「コロナ禍によって、景気の先行きが不透明だったので、回復への端緒をはっきりさせることが最優先課題といっても過言ではない。安倍政権も景気拡大期をもたらしたということが言われてきたが、経済政策重視で、大企業の利益や株価は保たれたが、その恩恵が生活者にまで回ってこなかった。きちっと恩恵にあずかることができるようなものにすることが重要だ」と話しています。