18、19歳に新手続きや
処分 少年法改正へ骨子

成人年齢の引き下げに合わせ、少年法で保護する対象年齢を18歳未満に引き下げるべきかどうかを議論している、法制審議会の部会は、取りまとめに向けた骨子を示し、18歳と19歳について、新たな手続きや処分を設けることを明記しました。その一方、保護の対象年齢を現在の20歳未満のまま維持するかどうかは「今後の立法プロセスに委ねる」としています。

法制審議会は、再来年の成人年齢の引き下げに合わせて、少年法で保護する対象年齢を18歳未満に引き下げるべきか議論しており、6日開いた部会の会合で、取りまとめに向けた骨子が示されました。

この中では、18歳と19歳の新たな手続きや処分として、家庭裁判所から原則として検察官に逆送致する事件の対象を拡大するなどとしています。

また、起訴された場合には、実名や本人と推定できる情報の報道を可能とするとしています。

一方、保護の対象年齢を現在の20歳未満のまま維持するかどうかについては「年齢区分の在り方や呼称は、国民意識や社会通念などを踏まえることが求められることに鑑み、今後の立法プロセスにおける検討に委ねるのが相当である」とするにとどまりました。

法制審議会では、今後、この骨子をもとに詰めの議論が行われ、法務省は来年の通常国会に少年法の改正案を提出することを目指しています。

少年法をめぐっては、先月、与党の作業チームが、少年法で保護する対象年齢を現在の20歳未満のまま維持しつつ、18歳と19歳は家庭裁判所から原則として逆送致する事件の対象を拡大するなどとした方針を決定しています。

少年法改正議論の経緯

「少年法」は、20歳未満の少年の犯罪について、家庭裁判所が調査にあたるなど、成人とは違う特別な手続きを定め、「刑罰」よりも「健全な育成」に重きがおかれています。

少年の立ち直りが重視され、少年の実名や、本人と推定できる情報をテレビや新聞、出版物で報道することは禁じられています。

一方で、民法の改正によって再来年4月に成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることになりました。

これにともなって少年法の適用年齢も見直すべきかどうか、平成29年に法務省が法制審議会に諮問し、裁判所、検察、弁護士の法曹3者や学識経験者、それに報道機関や少年事件の被害者遺族などが議論してきました。

法制審議会の部会の議論では「参政権が与えられる一方で犯罪を犯した場合に少年法が適用されるのは、国民の理解を得られない」として、引き下げるべきだとする意見が出る一方で、「現在の少年法は有効に機能しているので変更の必要はない」として、引き下げに反対する意見もあり、賛否が分かれました。

また、少年事件に関わってきたさまざまな関係者からも賛成、反対それぞれの意見書が相次いで提出されました。

このうち、少年院の元院長のグループは「実名が報じられるとらく印を押して人生を転落させることになる」として、少年法の適用年齢の引き下げや、少年の実名報道に反対しました。

一方、少年事件の被害者の遺族でつくる団体は「選挙権が与えられる以上、刑罰を受ける責任も自覚させるべきで、犯罪の抑止につながる」と適用年齢の引き下げを求めました。

こうした中、自民・公明両党が設けた作業チームは先月、少年法の適用年齢については現在の20歳未満のまま維持し、家庭裁判所から原則として逆送致する事件の対象を拡大する方針をまとめました。

一方で、6日、法制審議会の部会がまとめた骨子では、18歳と19歳の少年が重大な罪を犯したとして起訴された場合には、実名や本人と推定できる情報の報道を可能とするとしました。

これまでは禁じられてきた少年の実名報道が見直されることから、今後、さらに議論を呼ぶことになりそうです。

少年の実名報道 たびたび議論に

少年法の実名報道を禁止した規定には罰則がありません。

少年による残虐な事件では、たびたび週刊誌などが逮捕された少年の実名や顔写真を報じ、実名報道の是非が議論されてきました。

平成9年に神戸市で起きた児童連続殺傷事件では、新潮社の写真週刊誌が逮捕された当時14歳の元少年の顔写真を掲載し、各地の書店で販売を中止したり、図書館で閲覧を中止したりする動きが広がりました。

また、平成11年に山口県光市で起きた母子殺害事件では、当時18歳の元少年の実名や顔写真が掲載された本が出版されました。

元少年が著者に対して出版の中止や賠償を求める裁判を起こしましたが「実名や顔写真の掲載は、社会的な関心の高さなどを考えると、少年法を考慮しても違法とはいえない」として、本の出版を認め、賠償責任もないとした判決が確定しています。

立ち直り支援者は実名報道に反対

少年の立ち直りを支援してきた人は実名報道は立ち直りの妨げになると反対しています。

北九州市でガソリンスタンドを経営する会社では、これまでに少年院を出た少年などを店員として150人以上雇い、立ち直りを支えてきました。

ことし6月から働いている16歳の少年は、器物損壊などの疑いで逮捕され、15歳から1年間、少年院に入っていました。

18歳と19歳の少年の実名報道について、少年は「もし実名が出たら周りから犯罪者と見られ、就職や生活がしづらくなると思う。自分の場合は少年法で守られていたから名前も出ないで普通に働けているので、実名報道はされないほうがいい」と話しています。

また、立ち直りについては「もう二度と少年院には戻りたくない。支えてくれる人がいるのは心強いし、周りの同僚も話を聞いてくれるので、これからも頑張っていきたい」と話していました。

ガソリンスタンドを経営する会社の会長の野口義弘さんは「少年たちが社会に戻って立ち直ろうとする時期に、公然と実名が出ていると偏見にさらされることになり、影響が出てくると思う。少年たちは実社会での経験が少ないため、立ち直りには時間がかかるが信じ続けて支えていくことが大切だ。少年たちが希望を持って生きるためにも実名報道は避けてほしい」と訴えています。

家裁元調査官「実名報道には慎重であってほしい」

少年審判を担当するなどして多くの少年と向き合ってきた家庭裁判所の元調査官の伊藤由紀夫さんは、18歳と19歳の少年の実名報道について「18歳、19歳の少年はまだ未熟で、生活の基盤ももろいため、いったん実名が報道されてしまうと生きる世界がかなり狭められてしまい、立ち直ることが困難になるおそれがある。犯罪者としてのレッテルを貼られるだけの結果となってしまうので、実名報道には慎重であってほしい」と話しています。

また「社会にどうして犯罪が起きたのかや社会に何が必要なのかを考える土台があればよいが、今の社会は特にインターネットでの情報の拡散など、加害者をバッシングする感情だけがあふれている。こうした中で実名が報道されれば、少年を排除したり差別したりするだけになってしまうのではないか」として、社会全体で丁寧に議論する必要があると話しています。

少年犯罪被害の遺族「犯罪の抑止力になる」

平成8年に少年による傷害致死事件で16歳の長男を亡くし、「少年犯罪被害当事者の会」の代表を務める武るり子さんは、18歳と19歳の少年の実名報道について「一部の加害少年は、少年法で守られ、名前も出ない、顔も出ないということをよく知っているので、悪いことをしたら、大人と同じように扱われ、顔も名前も出るとはっきりと示すことは、犯罪の抑止力になると思う。18歳になればもう大人で、責任がかかり、犯罪を絶対に起こしてはいけないということをメッセージとして示すべきだと思う」と話しています。

そのうえで、今後の議論について「もし自分の大切な人が事件に遭って、その加害者が少年だったら、と考えてほしい。その時に、この法律で救われた、すばらしい法律だと思えるものになってほしいと願っているし、そのためにも被害者の現状を訴えていきたい」と話しています。

成人年齢の引き下げと法改正

2015年に成立した改正公職選挙法では、選挙権が得られる年齢を20歳から18歳に引き下げるとともに、成人年齢を20歳以上と定める民法や、20歳未満を保護の対象としている少年法などの規定にも検討を加えて、必要な法制上の措置を講じることが付則に盛り込まれました。

これを受けて、おととし・2018年、民法が改正され、成人年齢が、再来年2022年4月1日から、18歳に引き下げられることになりました。

一方、少年法については、2017年から、法務大臣の諮問機関である法制審議会で、保護の対象年齢を、18歳未満に引き下げることの是非を検討してきました。

これに先立つ、法務省内の勉強会では、対象年齢の引き下げについて、法律どうしの整合性を取るべきだとする意見の一方、少年の更生を図る法の理念に反するという指摘も出て、賛否が分かれていました。

このため法制審議会では、罪を犯した少年に対する処遇の見直しなども含め、幅広く議論してきました。

18歳と19歳が罪を犯した場合で議論

少年法で保護する対象年齢を18歳未満に引き下げるべきかどうかをめぐって、法制審議会の部会では、賛否が分かれる状態が続きました。

これまでの議論では「18歳で参政権を持つのに、罪を犯した場合は従来通り少年法を適用するのは、国民の理解が得られないのではないか」として、引き下げるべきだという意見の一方、「現在の少年法による処遇などは有効に機能しているので変更の必要はない」として、引き下げに反対する意見も出されました。

このため、去年の年末ごろから、保護する対象年齢をどうするか結論を出す前に、罪を犯した18歳と19歳に家庭裁判所がどのように関与するかといった、具体的な処遇についての議論を行いました。

その結果、今回取りまとめた骨子では、18歳と19歳は「選挙権および国民投票権が付与され、民法上も成年として位置づけられるに至った一方、いまだ十分に成熟しておらず、成長発達途上にある」として、「18歳未満の者とも20歳以上の者とも異なる取り扱いをすべきである」としています。

そのうえで、罪を犯した場合は全件を家庭裁判所に送致し、原則として検察官が家庭裁判所に逆送致する範囲を拡大することなどを盛り込んでいます。

しかし、保護する対象年齢の議論は意見が折り合わないことから、結論は出ず、骨子では「年齢区分の在り方やその呼称については、国民意識や社会通念などを踏まえることが求められることに鑑み、今後の立法プロセスにおける検討に委ねるのが相当である」とするにとどまりました。

法制審議会の部会では、今後、答申案の取りまとめの議論に入りますが、賛否が分かれていることから保護する対象年齢については、具体的な結論は見送られる可能性が高くなっています。

一方、与党の作業チームは、先月、決定した方針で、保護の対象年齢について、現在の20歳未満のまま維持しつつ、18歳と19歳は家庭裁判所から原則として逆送致する事件の対象を拡大するなどとしています。