衛白書 中国念頭に
「国家間競争を顕在化も」

ことしの防衛白書がまとまり、新型コロナウイルスの感染が拡大する中での中国の活動を念頭に、「影響力の拡大を目指した国家間の競争を顕在化させうる」とし、安全保障上の課題として注視すべきだと警戒感を示しています。

ことしの防衛白書が、14日の閣議で報告されました。

海洋進出を強める中国について、当局の船が沖縄県の尖閣諸島周辺の接続水域で、ほぼ毎日、確認されるなど、活発に活動している状況を取り上げ、「力を背景とした一方的な現状変更の試みを執ように継続しており、事態をエスカレートさせる行動は、まったく容認できるものではない」としています。

そして、軍事動向について、「透明性を欠いたまま、国防費を増加させ、質・量を広範かつ急速に強化している」と分析し、「地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっている」と指摘したうえで、中国に対し、法の支配の原則に基づいて行動を取るよう求めています。

そのうえで、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大するなか、中国が、日本周辺での軍事活動を活発に行うとともに、社会不安をきっかけとしたほかの国々に対する宣伝工作を行っていることも指摘されているとして、「影響力の拡大を目指した、国家間の競争を顕在化させうる」とし、安全保障上の課題として注視すべきだと警戒感を示しています。

北朝鮮をめぐっては、「わが国を射程に収める弾道ミサイルに核兵器を搭載し、攻撃する能力をすでに保有しているとみられる」と分析し、関連技術を高度化させ、ミサイル防衛網の突破を図っているとして、日本を含む関係国の情報収集や迎撃態勢の新たな課題になっていると、危機感を示しています。

一方、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の山口・秋田への配備断念をめぐっては、問題が発覚した経緯などを説明したうえで、新たな安全保障戦略の在り方について、NSC=国家安全保障会議で議論して、方向性を打ち出すとしています。

“日本の領土・領海で何が起きているか理解を”

河野防衛大臣は、閣議のあとの記者会見で、「中国の、力による一方的な現状変更の試みが、南シナ海や東シナ海など、さまざまな場所で、なされるようになってきた。わが国の領土である尖閣諸島周辺での、中国による現状変更につながりかねない執ような行動について詳細に書かせてもらった。国民にいま、日本の領土・領海で何が起きているか、しっかり理解してほしい。また、防衛省・自衛隊として、中国が何を意図しているのか、見ていかないといけない」と述べました。

配備断念もイージス・アショアの記述残る

政府は、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の山口・秋田両県への配備断念を決めましたが、ことしの防衛白書では、ミサイル防空能力の説明で、システムに関する記述が残っていて、「今後の『イージス・アショア』の導入により、イージス艦に加え、上層での迎撃が可能となる」と記されています。

また、弾道ミサイル防衛を説明するイラストなどでも、「イージス・アショア」が記されたままになっています。

これについて、防衛省は、「配備の断念が、正式に閣議決定されていないことなどを踏まえ、記載は残した。

ただ、ことし6月の、河野防衛大臣による計画停止の発表や、安全保障戦略の議論を行うという安倍総理大臣の記者会見までの経緯を補って記載した」としています。

各国の「無人機」開発状況など解説

ことしの防衛白書では、各国が、AI=人工知能などを活用して無人で飛ぶ航空機を、有人機と連携させてどのように活用しようとしているか、開発状況などをコラムで解説しています。

この中で、無人機は、人命を失うリスクがなく、機体が低コストなため、危険な状況で、偵察や監視、それに戦闘などの任務を担ったり、戦術を策定して有人機のパイロットに提案するなどパイロットの負担を軽減する役割が想定されているとしています。

そのうえで、各国の開発状況について、
▽アメリカは、ことし1月、音速に近い速度で飛行する、無人機が、4回目の飛行試験を行ったほか、
▽ロシアでは、大型攻撃用無人機が、戦闘機と協調して飛行する試験を行い、前方を飛行する無人機が有人機のパイロットに対し、攻撃に必要な情報を伝達したということです。

さらに、
▽中国では、固定翼の無人機200機を、群れをなすように飛行させるのに成功していて、多額の予算や優れた人材を投入して培った技術を軍事分野でも利用しているとみられると説明しています。

こうした技術の研究開発は、防衛省でも進めていて、部隊の指揮の一部を自動で行うことや情報収集をより素早く行うことに寄与できるとしています。

防衛白書の歴史を特集

防衛白書は昭和45年に初めて刊行され、ことしは50年を迎えました。

当時の白書のページ数は、ことしの白書のおよそ6分の1にあたる、94ページで、カラーの写真がふんだんに使われている現在の白書と違い、巻頭に白黒写真が掲載されているだけでした。

ことしの防衛白書では白書の歴史について特集が盛り込まれていて、初めて刊行された白書は、当時の中曽根防衛庁長官の、「国の防衛には、国民の理解と積極的な支持、協力が不可欠」という信念のもと、作成されたと説明しています。

2回目に刊行されたのは昭和51年で、それ以降、毎年、刊行され、時代とともに、白黒写真がカラー写真へと変化し、ことしは、スマートフォンをかざすと動画が再生されるQRコードが、およそ50か所に掲載されたと紹介しています。

白書は当初は冊子のみでしたが、平成15年からは、当時の防衛庁のホームページで公開がはじまり、平成23年からは、電子書籍化もされています。

表紙に掲載された図柄は、日本地図や世界地図、それに装備品などさまざまで、ことしは、「令和」の元号が、万葉集の梅の花の歌から引用されたことを踏まえ、梅色の表紙となっています。