語試験 抜本的に見直し
5年後実施に向け検討

萩生田文部科学大臣は閣議のあとの記者会見で、大学入学共通テストに導入される英語の民間試験について、来年度からの実施を延期することを明らかにしたうえで、試験の仕組みを抜本的に見直し、5年後の令和6年度の実施に向けて、改めて検討する考えを示しました。

この中で萩生田大臣は「経済的な状況や居住している地域にかかわらず、ひとしく安心して試験を受けられるような配慮などの準備状況が十分ではないため、来年度からの導入を見送り、延期する」と述べました。

そのうえで「全体的に不備があることは認めざるを得ず、延期して課題を検証し、どういった点を改善すれば、皆さんが限りなく平等に試験を受けられる環境を作れるかに注力したい。仕組みを含めて抜本的に見直しを図りたい」と述べました。

そして英語を「読む力」、「聞く力」に加えて、「話す力」、「書く力」のいわゆる「4技能」の測定について、「英語4技能評価は、グローバル人材の育成のため重要であり、令和6年度実施の大学入試に向けて、文部科学大臣の下に新たに検討会議を設置し、今後1年を目途に結論を出す」と述べ、試験の仕組みを抜本的に見直し、5年後の令和6年度の実施に向けて、改めて検討する考えを示しました。

さらに萩生田大臣は「来年度から開始する『大学入学共通テスト』の記述式問題の導入など大学入試改革については円滑な実施に向けて万全を期する」と述べました。

再来年1月に初めて行われる大学入学共通テストでは今のセンター試験と同じく、「読む力」と「聞く力」の2つの技能を測定する試験が行われることになっています。

一方で民間試験を活用する一部の大学を受験する場合は受験生が個別に試験を受ける必要があります。

官房長官「受験生を第一に考え 丁寧に説明を」

菅官房長官は閣議のあとの記者会見で、「文部科学省と民間試験団体との連携、調整が十分でなかったことから準備が十分に整わず、導入見送りを文部科学大臣が判断したと承知している」と述べました。

また英語の民間試験をめぐる萩生田文部科学大臣の発言が今回の判断に影響したかどうかについて、「文部科学大臣の説明不足な発言があった。ここはおわびして撤回していると承知している」と述べました。

そのうえで、「今回の見送りは現在までの準備状況を踏まえて自信を持って受験生の皆さんにおすすめできないと文部科学大臣が判断したものだが、受験生のことを第一に考えながら今回の対応を丁寧に説明するとともに、今後の大学入試における英語の評価の在り方をしっかりと検討してもらいたい」と述べました。

そして、「受験生をはじめとした高校生、保護者の皆さんに丁寧に説明するとともに、受験生が安心して受験できる仕組みをしっかりと構築していくことが大事だ」と指摘しました。

自民 森山氏「評価できる」

自民党の森山国会対策委員長は記者団に対し、「萩生田大臣が総合的に判断したもので評価できる。受験生や関係者に心配や不安を与えたことは申し訳なかった。不安を与えることなく、いい形でスタートできるよう対応をお願いしたい」と述べました。

自民 世耕氏「思いやりにあふれた決断」

自民党の世耕参議院幹事長は記者会見で、「受験生の立場に立った思いやりにあふれた決断だ。この問題は文部科学省の制度設計の詰めの甘さが原因で、民間のテストを使って、話す力などをチェックするのは正しい方向性だ」と述べました。

そのうえで、「費用負担で格差が生まれるのではないかという懸念などに対し、受験生が納得できるような対応策をとるべきだ。文部科学省やテスト業者の事情より、受験生目線で対応すべきで、常識的な範囲に試験会場があることがまず重要ではないか」と述べました。

立民 安住氏「ただでは済まされない」

立憲民主党の安住国会対策委員長は記者団に対し、「経済的に困っている人たちは受験の費用に悩んでいた。なんとか直前でブレーキをかけたが、影響は計り知れない。制度に関係した政治家らの責任を徹底的に追及していく。学生にこれだけの迷惑をかけたのだから、ただでは済まされない」と述べました。

国民 玉木氏「任命責任 口先で済まされぬ段階」

国民民主党の玉木代表は国会内で記者団に対し、「『身の丈』発言に端を発し試験の実施が延期されたのは担当大臣として相当、重い責任がある。予算委員会で資質をただすが、場合によっては安倍内閣に対する不信任決議案の提出にもつながっていく話だ。安倍総理大臣の言う『任命責任』とは何か、口先だけでは済まされない段階にきている」と述べました。

公明 斉藤氏「政府と文科省は大いに反省を」

公明党の斉藤幹事長は記者会見で「萩生田大臣の決断は受験生や関係者に不安を与え、混乱を招いていたことからすれば、評価されるべきだ」と述べました。一方で「準備期間があったにもかかわらず、不安と混乱を招いた責任は政府と文部科学省にあるので、大いに反省してもらいたい。二度とこのようなことがないよう、しっかりと準備してもらいたい」と指摘しました。

また「導入そのものを見直す必要はないのではないか。いかに公平に行われるかという点で見直してもらいたい」と述べました。

共産 笠井氏「延期は当然 大臣は辞めるべき」

共産党の笠井政策委員長は記者会見で、「受験生や家族をはじめとした国民に怒りと不安があり、延期は当然だ。制度の在り方を抜本的に見直すことが必要だ。教育の機会均等を真っ向から否定する発言をした萩生田文部科学大臣は、大臣に最もふさわしくなく、辞めるべきだ」と述べました。

さいたま市の高校 「はらわたが煮えくり返る思い」

さいたま市の栄東高校では新たな入試の対象だった高校2年生が民間試験に向けて、すでに予約金を振り込んだり、対策講座を受けるなどして準備を進めてきました。

延期は担任の教員が受験に必要な「共通ID」の申請をしようとしていたやさきの出来事だったといいます。

高校2年の男子生徒は「そもそも僕たちは民間試験は何のためにやるのか納得していなかったので、延期は当たり前の結果だと思っています。今後はやるべきことをやっていきたい」と話していました。

別の男子生徒は「やるものだと思って、予約金を払ったりして準備してきたので、はぁというのが感想です」と話していました。

また女子生徒は「朝起きてニュースをみて衝撃を覚えました。これまで準備してきたので悲しいです」と話していました。

高校では英語の担当教員が実際に民間試験を受けるなどして対策を進めていたということで、田中淳子校長は「びっくりしました。準備をしてきた生徒はいったいどうなるんだろうと、はらわたが煮えくり返る思いです。もっと早い段階で決断して欲しかった。振り回された生徒を考えると気の毒でならない。高校生はいちばんの被害者だ」と憤りをあらわにしていました。

大阪 府立高校「公平性が保たれる入試制度導入を」

関西でも高校など準備を進めてきた現場では戸惑いの声が上がりました。

このうち大阪 中央区にある大阪府立大手前高校では英語の民間試験を受験するときに必要な「共通ID」の申請に向けた準備を進めていましたが、1日朝、大阪府教育庁から連絡があり、作業を取りやめました。

新たな大学入試の対象となる今の高校2年生、およそ360人の申請書を1日に発送する予定でしたが、金庫に保管して今後の指示を待つということです。

進路指導を担当している竹田賢司教諭は「延期されると知ったときは戸惑いを感じました。不安に思う生徒もいるかもしれないので、しっかり説明していきたいと思います。英語の4技能を伸ばすこと自体は大切なことだと思うので、公平性が保たれる入試制度が導入されることを願いたいです」と話していました。

民間試験が導入されるはずだった高校2年の男子生徒は「受験料はすでに支払っているので、返還されるのか不安です。ただ、導入されるのかされないのか、制度がはっきりしてよかったです。区切りがついたので、共通テストに向けて勉強を頑張りたいです」と話していました。

また高校2年の女子生徒は「朝のニュースを受けて学校でも話題になっていて、驚いている人もいました。4技能は大切だと思うので、自分の意思で英検を受けようと思っていますが、目的が異なる民間の試験が同じ尺度で比べる入学試験に合うのか、疑問に感じていたので、今回の決定で安心しました」と話していました。

名古屋 中高一貫校「混乱の極み」

名古屋市内の学校でも混乱が広がっています。

東区の中高一貫校、名古屋中学校・高等学校では、受験に必要な共通IDの申請が1日に始まるのに合わせて、高校2年生500人余りが申請用紙の下書きを済ませ、学校は2日、保護者説明会を開いたうえで、来週、申請する予定でした。

こうした中、突然、民間試験の実施の延期が発表されたことを受けて、進路指導にあたる立石陽一教諭は「新たな制度を生徒に周知し、覚悟を決めて準備してきたなかで、まさか延期になるとは思ってもみませんでした。混乱の極みです」と述べ、戸惑いを隠せない様子でした。

そのうえで「最も混乱し、心配するのは生徒と保護者です。文部科学省にはしっかりしてもらいたい。『申し訳ない』というだけでなく、今後どうなるのか、責任を持って具体的に説明してほしいです」と話していました。

台風被災地 福島 郡山の高校生は

台風19号の大雨で大きな被害を受けた福島県郡山市内の高校に通い、先週、授業が再開したという高校2年の女子生徒は「受験に必要な共通IDを申請するよう学校から言われていました。民間試験向けの勉強をしようと思っていましたが、その必要がなくなるなら負担が減ってうれしい気持ちもあります」と話していました。

また高校1年の男子生徒は「授業で先生から民間試験の延期の話を聞きました。1年生なのでまだよくわからないですが、勉強してきたことがむだになってしまうんじゃないかと思います」と話していました。

大手予備校担当者「しわ寄せは生徒たち」

来年度からの大学入学共通テストで導入が決まっていた英語の民間試験の来年4月からの実施が延期されたことについて大手予備校の担当者は「新しい制度に突き進むより混乱は少なかったと思うが、遅きに失したのではないか」と話しています。

大手予備校の1つ河合塾の関西にある各校舎では大学入試への英語の民間試験の導入に向け、検定対策の専門の講座を設けたり、テキストの内容を変更したりして対応を進めてきました。

来年4月からの実施が延期されたことについて、河合塾近畿本部で英語を担当する佐野光宜講師は「これまで準備を進めてきた生徒や保護者は『今までの準備は何だったのか』と不満に思うし、混乱はあるだろう。ただ生徒は準備するものが一つ減ったこともあり、全体としてはこのまま新しい制度に突き進むより混乱は小さく、よかったのではないか」と話していました。

そのうえで佐野講師は「地域格差、経済格差に加え、そもそもそれぞれ違う性格をもつ検定をひとまとめにして、目的の違う大学入試に使うこと自体に妥当性があるかという点で反対意見は強かった。文科省の判断は遅きに失したのではないか。もっと早く判断すれば、混乱は少なかったはずだ。最終的にしわ寄せが来るのは生徒たちなので、こういうことはないようにしてほしい」と話していました。

予約金はどうなるの?受験生から不安の声

新たな大学入試に導入され来年4月に始まる予定だった英語の民間試験の実施が延期されることについて、ネット上では「英検」の予約を済ませた受験生らから返金の手続きについて不安の声が相次いでいます。

日本英語検定協会が実施する「英検」の予約は事前に3000円の支払いが求められていますが、受験をキャンセルする場合、今月5日から11日までの1週間にかぎり返金するとしています。

ネット上では受験生らから「受験を目指す高校2年生は全員が予約金を支払い済みです。返金してもらえるんだよね?」「予約しているんだけど、キャンセル手続き必要?返金あり?」などと不安を訴える投稿が相次ぎました。

また、「返金の手続きは延期の対応ではないので、延期が決まったことを受けて協会が対応を発表するまで待とう」といった投稿もありました。

このほか、「手続きの期間が1週間と短いです。これに対して声を上げていきましょう!」などと返金を受け付ける期間の延長を求める声も相次いでいます。