米貿易協定で最終合意
「世界経済の発展に貢献」

ニューヨークを訪問中の安倍総理大臣は、アメリカのトランプ大統領と会談し、日米の貿易交渉が最終合意に至ったことを確認したうえで、日米の新たな貿易協定が世界経済の発展に貢献すると意義を強調しました。

国連総会に合わせてニューヨークを訪問している安倍総理大臣は、26日未明、トランプ大統領との首脳会談で、日米貿易交渉の最終合意を確認し、共同声明に署名しました。

新しい貿易協定では、日本は、TPP=環太平洋パートナーシップ協定で合意した水準を超えない範囲で、牛肉や豚肉などの関税引き下げに応じる一方、アメリカは、幅広い工業品について、関税を撤廃することで合意しました。

また、日本がコメの関税を維持し、アメリカ向けに新たな輸入枠を設けないことになった一方、アメリカは自動車や関連部品の関税撤廃で譲らず、継続協議となりました。

さらに、共同声明には「協定が誠実に履行されている間、協定や共同声明の精神に反する行動は取らない」と明記され、両首脳は会談で、協定の履行中は、アメリカが通商拡大法232条に基づく日本車への追加関税を発動しないことを確認しました。

首脳会談の後、安倍総理大臣は、「日米双方にとり、ウィンウィンとなる結論を得ることができた。日米貿易協定は、わが国経済のさらなる成長に寄与するのみならず、世界経済の発展にも大きく貢献する」と述べました。

また、アメリカのトランプ大統領は「日本との間で、アメリカの農家や牧場主、テクノロジーを大いに助ける、すばらしい新しい貿易協定に署名した」と述べ、成果を強調しました。

菅原経産相「自動車産業の安定的な発展に寄与」

菅原経済産業大臣は、26日朝、都内で自動車メーカー各社の経営トップと会談したあと、記者団の取材に応じました。

この中で菅原大臣は、最終合意した日米貿易協定で、協定の履行中は、アメリカが日本車に追加関税を発動しないことを確認したことについて、「自動車メーカーの世界的な生産体制をゆがめることはなく、非常に大きな意義がある。わが国の自動車産業の安定的な発展に寄与するものだ」と述べました。

そのうえで、日本がアメリカに輸出する自動車や関連部品の関税に関して、将来的な撤廃に向け交渉を継続することになったことについて、「日米双方の利益となるよう、協定の発効後に行われる協議の中で議論を進め、結果を出していきたい」と述べ、引き続き、関税撤廃の実現に向けて取り組む考えを示しました。

一方、日本自動車工業会の会長を務めるトヨタ自動車の豊田章男社長は、日米の貿易協定が最終合意したことについて、菅原大臣との会談の中で、「合意に至るまでの両政府の多大なる尽力に、敬意を表したい。今回の協定で、自動車分野における、自由で公正な貿易環境が維持、強化されることを歓迎したい」と述べました。

JA「コメについては生産現場は安心」

JA全中=全国農業協同組合中央会の中家徹会長は「コメについては、アメリカへの関税割り当て枠の設置が見送られ、生産現場は安心できるものと考えている。政府・与党においては、今後、農産物の輸入動向や国内の需給・価格への影響などを踏まえ、必要な対応をお願いしたい」などとするコメントを発表しました。

自工会会長「自由で公正な貿易歓迎」

日米貿易交渉が最終合意に達したことについて、日本自動車工業会の豊田章男会長は、26日の記者会見で、自動車の分野で自由で公正な貿易環境が強化されるとして、歓迎する考えを示しました。

日本自動車工業会の豊田会長は会見の中で、「日米両政府の関係者の多大なる尽力に、敬意を表したい。自動車分野における日米間の自由で公正な貿易環境が維持、強化されることを歓迎したい」と述べて、日米貿易交渉が最終合意に達したことを評価しました。

そのうえで、アメリカが日本車に追加関税を発動しないことを両国が確認したことについて、「回避の方向に議論が進んでいること自体は、日米両国の関係者にとって大変よいことだと思う」と述べ、引き続き、議論を見守る考えを示しました。

菅官房長官「バランスの取れた内容」

菅官房長官は、日米の新たな貿易協定について「昨年9月の共同声明に沿って、日米双方にとってウィンウィンの結論を得ることができた。農産品と工業品についてバランスの取れた内容になっており、農家にも安心していただき、日本の自動車業界、産業界にとっても十分納得のいく内容の合意となった」と評価しました。

そして、協定の署名の時期について「現在も膨大な作業を進めている段階だが、9月末の協定の署名を目指すとの目標から、それほど遅れていないのではないか」と述べたうえで、来月召集される臨時国会に協定の国会承認を求める議案を提出し、早期の承認・発効を目指す考えを示しました。

一方、記者団が「日本が米国産農産物の関税を引き下げる一方、自動車などの関税の撤廃は事実上、先送りされ、アメリカに押し切られたという指摘があるが」と質問したのに対し「これが押し切られたのか、よく内容をご覧になっていただきたい」と反論しました。

公明 北側副代表「経済発展のために大きな合意」

公明党の北側副代表は記者会見で、「『TPPをはじめとする、わが国が交わしている経済連携協定の枠内で日米の協議を行う』というのが大前提だったが、それは、しっかりと守ることができたと思う。全体を通して見ると、日本にとってもアメリカにとっても、経済の発展のために、大きな合意ができたのではないか」と述べました。

専門家「早期合意は得策」

日米の貿易交渉が最終合意に至ったことについて、日米の通商政策に詳しい丸紅経済研究所の今村卓所長は「アメリカは中国と貿易戦争になっているし、EUとの交渉も非常に難航するなかで、成果を出さなければいけないトランプ政権の状況を日本がよく理解して、助け船を出した。双方の歩み寄りがあって予想外にスムーズに進んだ合意だと思う」と評価しました。

その一方で、国内の農業への影響については「TPPの発効でオーストラリアやニュージーランドからの輸入がすでに増えている。アメリカとも貿易協定ができることで輸入がかなり増えるので、日本の農業を取り巻く環境は厳しくなるのは避けられない」と述べ、個別の農家を所得保障などの形で守っていく必要があると指摘しました。

また、日本がアメリカ側に求めていた自動車の関税撤廃を先送りした一方、アメリカの通商拡大法232条に基づく追加関税を回避することを確認した点について今村所長は、「ここで自動車でより強く要求して交渉自体がまとまらないと、こじれている米中の展開の二の舞になるおそれがある」と述べたうえで、アメリカの議会でトランプ大統領の弾劾を求める動きが出てきたことに絡めて、「トランプ政権としてはこうした嵐の中でより激しい通商政策に訴える戦術に出る可能性は十分にあり、日本が早期に交渉を終わらせるのは得策だった。合意内容は自動車産業にとっては譲歩しすぎという見方もあるかもしれないが、総合的に見ると間違った判断ではなかった」と述べました。

さらに、自動車の関税撤廃などをめぐり今後も継続されるとしている交渉の見通しについて、「アメリカ側が大統領選挙モードになってくるし、弾劾のこともあり、政策を落ち着いて審議する状況ではなくなってくる。積み残した課題はあるが、トランプ政権の任期が終わるまでは大きなステージが待っているとは考えにくい」と述べました。

米の農業団体は歓迎

日米両首脳が新たな貿易交渉の最終合意に関する共同声明に署名したことを受けて、アメリカ最大の農業団体「米国農業連合会」が声明で、「前向きな一歩だ。トランプ政権に感謝し、さらに多くの合意を達成するよう期待する」と述べるなど、アメリカ国内では、農業団体を中心に歓迎する声が広がっています。

一方、トランプ大統領は今後、日本による関税や非関税障壁を取り除くため、包括的な協定を目指すとしています。

ライトハイザー通商代表は、今回の交渉で焦点になっていた日本から輸出される自動車に高い関税を上乗せする措置について「現時点では考えていない」と述べたものの、包括的な協定に向けた今後の交渉を有利に進めるため、再び交渉のカードとしてちらつかせるのではないかという見方も出ています。

トランプ大統領は、来年の大統領選挙の情勢しだいで、貿易赤字の削減で新たな成果を求める可能性もあり、次の出方が注目されます。