シア首相 北方領土の
択捉島に到着

ロシアのメドベージェフ首相は2日昼すぎ、北方領土の択捉島に到着しました。ロシア側には自国の領土として島を開発する姿勢を改めてアピールするねらいがあるものとみられます。

ロシアのメドベージェフ首相は2日正午すぎ、極東のサハリンの空港から専用機で北方領土の択捉島に到着しました。

地元の行政府の関係者などによりますと、メドベージェフ首相はロシア政府の開発計画の一環で進む学校や住宅の建設の進捗状況を確認するほか、温泉施設や水産加工場なども視察する予定だということです。

メドベージェフ首相は、大統領だった2010年にロシアの国家元首として初めて北方領土の国後島を訪れたほか、首相になってからは、2012年に国後島、2015年に択捉島を訪れ、今回が4回目の訪問となります。

日本とロシアの平和条約交渉をめぐっては、G20大阪サミットに合わせて首脳会談が行われ、「平和条約を締結したあと歯舞群島と色丹島を引き渡す」と明記された1956年の日ソ共同宣言を基礎に進めていくことを確認しています。

ロシア側には、内政に責任をもつ首相が訪問することで、自国の領土として島を開発する姿勢を改めてアピールし、平和条約交渉の進展を期待する日本側をけん制するねらいがあるものとみられます。

択捉島訪問のねらいは

ロシアとしては、メドベージェフ首相の択捉島訪問を通して、国民向けには、北方領土を自国の領土として着実に開発していく姿勢をアピールするとともに、領土問題を含めた平和条約交渉の進展を期待する日本側をけん制するねらいがあるとみられます。

ロシア政府は、北方領土を含む地域について、2025年までの開発計画に基づいてインフラ整備などを進めていて、メドベージェフ首相は今回の訪問で択捉島での計画の進み具合などを確認するとみられます。

ロシア政府としては、北方領土を事実上管轄しているサハリン州の知事選挙がことし9月に行われることも踏まえ、内政に責任を持つメドベージェフ首相の現地訪問を通して北方領土を自国の領土として着実に開発していく姿勢を国民向けにアピールするねらいがあるとみられます。

一方、日本との平和条約交渉をめぐって歴史認識や安全保障問題などで双方の立場の隔たりが埋まらない中、交渉の進展を期待する日本側をけん制するねらいもあるとみられます。

ただ、ロシア政府の関係者はNHKに対して「メドベージェフ首相の今回の訪問で日本との対話に影響を与えるつもりはない」と話しています。

ロシアとしては平和条約の締結に向けて、引き続き日本と交渉を続ける姿勢を見せながら、日本との経済協力を優先させていくものとみられます。

開発加速でロシアの立場誇示か

プーチン政権下のロシアでは、北方領土の発展を重要課題と位置づけ、インフラ整備などを進めて近年、さらに開発を加速させています。

ロシア政府は、2006年に策定した、北方領土と千島列島の島々の開発計画に基づいて、空港や港、道路などのインフラを整備し、このうち択捉島には悪天候でも着陸が可能な新しい空港を完成させたほか、色丹島では初めての総合病院も開業し、島での住民の暮らしは大きく改善しました。

さらに島々とサハリンを結ぶ大型フェリーの建造や、学校や幼稚園、図書館などの建設が新たに進められていて、2025年までの10年間で1100億円余りの資金を投じる計画で、島の生活水準を向上させて、定住する住民を増やそうとしています。

これまでの開発は択捉島や国後島が中心でしたが、ロシア政府は、1956年の日ソ共同宣言で平和条約の締結後、日本に引き渡すとされている色丹島の開発も本格化させようとしています。

2017年には、色丹島の一部を経済特区に指定して、進出する企業に法人税などを減税するなど優遇措置を与えることで、国内外からの投資を呼び込もうとしています。

この制度のもと、色丹島では地元の会社が、ロシアの投資会社の資金を得て、日本円でおよそ130億円余りをかけて新しい水産加工工場を建設していて、早ければ来年にも稼働し、700人以上の雇用が新たに生まれる見通しです。

プーチン政権には、島々の開発を加速させることで北方領土がロシアの一部であるとする立場を内外に誇示するねらいがあります。

官房長官「日本の立場とは相いれない」

菅官房長官は閣議のあとの記者会見で「現在、情報収集中であり、予断を持って発言することは控えるが、ロシア政府要人による北方四島訪問は、領土問題に関するわが国の立場とは相いれない」と述べました。

また、平和条約締結に向けた交渉への影響について「政府としては領土問題を解決し、平和条約を締結する基本方針のもとに、引き続き粘り強く取り組んでいきたい」と述べるにとどめました。

河野外相「平和条約締結で解決を」

ロシアのメドベージェフ首相が、北方領土の択捉島を訪問したことについて、河野大臣は、「日本政府の立場と相いれないものだ。平和条約を締結し、領土問題を解決することがこの問題の解決策であり、しっかりと平和条約交渉を進められるよう努力していきたい」と述べました。