国 南シナ海に向け
ミサイル発射実験

中国軍が今週にかけて中国本土から、南シナ海の領有権争いが存在する海域に向けて、合わせて6発のミサイルを発射する実験を行っていたことがアメリカ軍への取材でわかりました。
中国軍がこの海域に向けてミサイル発射実験を行ったのは初めてだと見られ、アメリカを強くけん制するねらいがありそうです。

これはアメリカ軍当局者がNHKの取材に対して明らかにしたものです。

それによりますと、アメリカ太平洋時間の先月30日に、中国軍が南シナ海に向けてミサイルの発射実験を行ったということです。

ミサイルは中国本土から合わせて6発、発射され、いずれも領有権争いが存在する南シナ海の2つの海域に着水したとしています。

アメリカ軍当局者は、発射されたミサイルの種類について「分析を進めている」としていますが、NBCテレビは、発射されたのは洋上の空母をねらった精密攻撃が可能とされる対艦弾道ミサイルだったと伝えています。

中国の海事当局は、先月29日から今月3日までの5日間、南シナ海の南沙諸島、英語名・スプラトリー諸島の北側の海域に対して、軍事訓練を行うとして、船舶の航行を禁じる通知を出していました。

南シナ海でアメリカ軍は、中国が主権を主張する海域に艦艇を派遣する「航行の自由」作戦を実施するペースを加速させ、中国による軍事拠点化に対抗する姿勢を鮮明にしています。

アメリカ軍当局者によりますと、中国軍が本土から南シナ海の領有権争いが続く海域に向けてミサイルの発射実験を行ったのは今回が初めてだということで、アメリカを強くけん制するねらいがありそうです。

中国訓練内容や発射実験公表せず

中国の海事当局は、先月29日付けで軍事訓練に関する事前の通知を出していて、それによると、29日から3日までの5日間、南シナ海の一部の海域で船舶の航行を禁止するとしています。

軍事訓練を行うとする海域は、南シナ海の南沙諸島、英語名・スプラトリー諸島の北側に設定されています。

ただ、具体的な訓練の内容などには言及しておらず、これまでのところ中国政府は、ミサイルの発射実験について公表していません。

中国外務省の耿爽報道官は、4日の記者会見でも「中国が、ミサイルの発射実験をしたという報道については、軍に問い合わせることを勧める」と述べ、言及を避けました。

一方で、耿報道官は3日の記者会見では、「中国は南シナ海を軍事拠点化しないという約束に反していないか」という記者からの質問に対して、「空母を南シナ海に派遣したのはアメリカだ。誰が、南シナ海を軍事化して波風を立てているのか、国際社会ははっきりわかっている」と述べ、南シナ海をめぐる情勢を不安定にしているのは、アメリカだとする中国の立場を強調しました。

南シナ海は日本のエネルギー資源の大動脈

南シナ海は、中東からの原油を積んだタンカーなど各国の船舶が行き交い、世界の貿易を支えるシーレーン=海上交通路です。

中でも、原油を海外からの海上輸送に頼る日本にとっては、エネルギー資源の大動脈となっており、アメリカのエネルギー情報局によりますと、2016年に日本が輸入した原油のおよそ90%は南シナ海を通過したということです。

中国が南シナ海の軍事拠点化を進める中、南シナ海のシーレーンの安定を確保することは、日本にとっても死活的に重要な課題となっています。

こうした中、海上自衛隊は去年9月、南シナ海に潜水艦や護衛艦を派遣して潜水艦の動きを捉えるための訓練を実施したほか、海上保安庁は南シナ海を含む東南アジア地域で各国との合同訓練を繰り返していて、日本も南シナ海への関与を強めています。

フィリピン「独自に調査し行動決める」

この海域の領有権を中国と争うフィリピンの国防省は「報道は承知しているが、ミサイルの発射について直接確認できたわけではないので、フィリピン側としても独自に調査を行ったうえで、われわれが取るべき行動を決めたい」とコメントを出しました。

フィリピンでは先月、南シナ海のリード礁付近で、停泊していたフィリピンの漁船が中国の漁船に衝突されて沈没し、投げ出されたフィリピン人乗組員が救助されず海に放置されたことから、中国に抗議するデモが各地で相次いでいて、今回のミサイル実験を受けて、再び中国への反発が高まりそうです。

ベトナム外務省「重大な関心」

中国軍が、中国本土から南シナ海に向けてミサイルを発射する実験を行ったことについて、この海域の領有権をめぐって中国と争うベトナムのレ・ティ・トゥ・ハン外務省報道官は定例会見の中で、「ベトナム政府は、この問題について重大な関心を持って経過を注視している」と述べました。

そのうえで、ハン報道官は、関係する国や地域に対して「互いの主権や権利を尊重して行動するよう求める」と呼びかけました。

南シナ海での中国の軍事的な活動について、ベトナム政府はこれまでも「地域の緊張を高める」などとして強く抗議しており、今回のミサイル発射実験についても神経をとがらせているものとみられます。

この海域へのミサイル発射は初めて

アメリカ軍の当局者によりますと、中国軍が本土から南シナ海の領有権争いがある海域に向けてミサイルを発射したのは今回が初めてだということです。

中国軍は、中国本土に洋上を移動する空母や艦艇への精密攻撃が可能とされる対艦弾道ミサイル「東風21D」と「東風26」を実戦配備していて、アメリカ国防総省はアメリカ軍の接近を阻む目的があるとして、強く警戒しています。

このためアメリカ軍では、今回発射されたミサイルがこれらの対艦弾道ミサイルだった可能性も含めミサイルの種類や能力の詳しい分析を進めています。

専門家「海域をめぐりアメリカをけん制」

今回のミサイルの発射について中国の軍事問題を研究する笹川平和財団の小原凡司上席研究員は「アメリカの南シナ海の行動に対する明らかなけん制とみることができる」と述べて、南シナ海で活動するアメリカ軍に中国のミサイル能力を見せつけるねらいがあるという見方を示しました。

小原氏は発射について「中国はこれまで弾道ミサイルの実験を内陸の砂漠で行ってきたが、海上には通常は目標がないので洋上の艦艇を標的にする対艦弾道ミサイルの実験を行ったと考えられる」としたうえで、南シナ海に向けた対艦弾道ミサイルの発射は初めてと見られると指摘しました。

そのうえで発射されたミサイルについては「中国軍が保有するDFー21Dが射程1500キロの準長距離弾道ミサイルで、中国南部の部隊が本土から発射したとすればつじつまがあう」として、中国軍が対艦弾道ミサイルとして開発したDFー21Dではないかという分析を示しました。

また小原氏は中国が軍事訓練の実施区域とした海域について中国が主権を主張する南沙諸島=英語名・スプラトリー諸島と西沙諸島=英語名・パラセル諸島の間に位置しており、「中東からエネルギーを輸入する日本の海上輸送の要衝だ」としています。
さらに発射のタイミングについては、G20大阪サミットのあとでアメリカの独立記念日の前だとして、アメリカを意識している可能性があるという見方を示しました。

そして「中国はアメリカの実力行使をおそれているので衝突する気はないが、狭い海域に中国とアメリカの両軍が展開している中で危険な状態であることに変わりはない」として、偶発的な衝突の危険性を指摘しました。

中国のミサイル グアム島射程の「グアムキラー」も

中国軍が発射したミサイルの種類は、これまでのところ明らかになっていませんが、海上を移動する空母や艦艇を狙った精密攻撃が可能とされる対艦弾道ミサイルだったという見方が出ています。その1つが「東風21D」=DFー21Dです。

射程は1500キロ以上とされ、アメリカ軍の艦艇などの接近を阻むことを目的に開発されたとみられることから、「空母キラー」とも呼ばれています。

2015年に北京で行われた軍事パレードで初めて公開され、南シナ海を管轄する「南部戦区」などに配備されているとみられ、香港のメディアは今回、発射されたのはこの「東風21D」ではないかという見方を伝えています。

また中国軍は「東風21D」と同じく海上を移動する目標を狙う能力を持ち、射程を最大4000キロまで伸ばした中距離弾道ミサイル「東風26」=DFー26も開発し、去年、実戦配備したことを明らかにしています。

「東風26」はアメリカ軍の基地があるグアム島まで射程に収めるとされることから「グアムキラー」とも呼ばれています。これらのミサイルの配備により有事の際にアメリカ軍の接近を阻む中国軍の能力は着実に向上しているとみられています。

南シナ海をめぐる経緯

南シナ海を巡っては、中国が実効支配する島々や人工島で軍事施設を増強する動きを見せているのに対し、アメリカは周辺海域に軍の艦艇を派遣するなど活動を活発化させけん制を強めていて、大国間のせめぎ合いが続いています。

アメリカ国防総省とシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所によりますと中国は6年前の2013年ごろから南沙諸島=英語名・スプラトリー諸島の7つの岩礁を埋め立てて人工島を造成し、実効支配しています。

このうちファイアリークロス礁とミスチーフ礁、それにスビ礁の3か所で爆撃機も離着陸できる3000メートル級の滑走路や格納庫を整備しているほか、レーダー設備や兵舎とみられる施設も確認されています。

さらに西沙諸島=英語名・パラセル諸島でも実効支配する島々に中国軍の部隊を展開させ、南シナ海での演習や訓練を繰り返しています。

中国は人工島の整備などについて防衛目的だと主張していますが、アメリカはこれを軍事拠点化の動きだと非難し、アジア太平洋地域でのアメリカ軍の活動を活発化させています。

ことしに入り、中国が主権を主張する海域などでアメリカ軍の艦艇を航行させる「航行の自由」作戦の頻度を高めているほか、台湾海峡を通過させたり、各国の部隊との訓練を実施したりしています。

また南シナ海を巡っては中国がほぼ全域の管轄権を主張しているのに対し、フィリピンやベトナムなど東南アジアの周辺の国々もそれぞれ一部の島などの領有権を主張していて、あつれきも生じています。

こうした中、3年前の2016年には国際的な仲裁裁判で中国の主張について「法的な根拠がなく国際法に違反する」との判断が示されましたが、中国はこれに反発し、依然として各国との領有権争いが続いています。