橋本聖子氏が新会長に就任
東京五輪・パラ組織委員会

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の理事会が開かれ、森会長の後任に橋本聖子氏が全会一致で選ばれました。橋本新会長は「5か月後に迫った東京大会はコロナ対策が最重要課題で、スポーツ界や国と連携して安心安全な大会と言ってもらえるような体制を整えたい」と抱負を述べました。

大会組織委員会の森会長は、女性蔑視ととれるみずからの発言の責任をとって、12日に辞任を表明し、組織委員会は後任の会長を選ぶための「候補者検討委員会」を設置して、この中で候補を橋本氏に一本化しました。

組織委員会が18日開いた1回目の理事会では、橋本氏が会長への就任要請を受け入れる考えを示していることが報告されたほか、その後の評議員会で橋本氏を理事に選任するなど必要な手続きが行われました。

午後4時から始まった2回目の理事会では理事による決議が行われ、全会一致で橋本氏の新会長就任が決まりました。

理事会で橋本新会長は「重責を担わせていただくことになり、身の引き締まる思いだ。大きな決意を胸に抱きながら、成功に向けて尽力したい」とあいさつしました。

そのうえで「5か月後に迫った東京大会はコロナ対策が最重要課題で、スポーツ界や国と連携して、安心安全な大会と言ってもらえるような体制を整えたい。会長を引き受けた背景にある男女平等の問題については、スピード感をもって今月中に体制を打ち出し、結果を出していく」と抱負を述べました。

新会長 「アスリートのためにも安全最優先に大会実現」

橋本聖子氏は、18日午後6時すぎから記者会見を開きました。

この中で橋本新会長は「コロナの感染状況によって大会開催に不安を持つ人も増えている。安全を優先で万全の対策を講じて大会関係者だけでなく、国民に丁寧な説明を心がけていきたい」と述べました。

そのうえで「今回の出来事で組織委員会がいかにジェンダーの問題に取り組もうとしてるかが注目されているので、スピード感を持って進め信頼回復に努めたい」と述べました。

さらに、アスリート出身であることを踏まえ「私のミッションはオリンピック・パラリンピックの舞台を目指すことすら自問自答しなければいけないような苦しい毎日を過ごしているアスリートたちのためにも安全を最優先に大会を実現することだ。今、スポーツに何ができるかを考え社会の空気を変えていくことにアスリート出身者として全力を尽くしたい」と抱負を述べました。

一連の問題でボランティアや聖火ランナーを辞退した人に対しては「東京大会を楽しみにしていたみなさまにはもう一度その一翼を担っていただき、ぜひ参加していただけるよう準備を整えていきたい」と話していました。

そして開幕まで5か月余りに迫った東京大会に向けては「来月には聖火リレーがスタートするという大変重要な局面を迎えている。オリンピック・パラリンピックの長い歴史の中で延期という経験は東京が初めてで、初めての経験をする東京大会だからこそ持続可能なオリンピック・パラリンピックという東京モデルを提言したい。新たな目標を打ち出しながら国民の皆さんに歓迎される大会の開催に向けて全力で準備に取り組みたい」と決意を語りました。

JOC山下会長「覚悟と勇気に感謝」

大会組織委員会の新しい会長に橋本聖子氏が就任したことについて、JOC=日本オリンピック委員会の山下泰裕会長は報道陣の取材に応じ「最適な方が選ばれたと思う。かなりの覚悟と勇気を持ってこの職を受けてもらい、感謝の思いでいっぱいだ。困難な状況だが、日本のスポーツ界をあげて橋本新会長のもとで協力しながら開催へ向けて進んでいきたい」と述べました。

また「候補者検討委員会」のメンバーとして会長の選考に関わったことについて「メンバーの女性からは『アスリートファーストであってほしい』という意見があった。橋本新会長は常にアスリートに寄り添う姿勢があり、困難を乗り越えていけると思った」と話しました。

山下会長が候補の1人として名前が挙がっていたという質問に対しては「これまで森前会長が身を削って難しい決断をしている姿を見てきて、私にはその決断をする見識も力量もないと思っていた。スポーツや教育の世界だけで生きてきた人間に務まるような仕事ではないという思いだった」と話しました。

そのうえで、透明性の確保が指摘されている中で、検討委員会が公開されなかったことについて、自身が非公開を提案した1人だと明かし「スポーツ界や政界からさまざまな形でメンバーに圧力がかかるのは、間違いないと思った。本音で自分の考えを述べられる環境を作ることが大事だと考えた」と述べました。

JPC 鳥原会長「まさに最良の人選」

JPC=日本パラリンピック委員会の鳥原光憲会長はコメントを発表し、「今、最も大事なことは未曽有の難局を乗り越え、東京大会開催に向けた準備に万全を期すため、国を挙げた協力体制を固めることだと思う。オリンピック・パラリンピックに精通し、国内外の活動で経験・人脈の豊富な橋本新会長は、まさに最良の人選だと受け止めている。JPCは橋本新会長のもと、組織委員会はじめ関係機関と連携を強め、安全安心な大会の実現に向けて一層まい進していく」としています。

スポーツ庁室伏長官「橋本新会長は最も適任」

大会組織委員会の新しい会長に橋本聖子氏が就任したことについて「候補者検討委員会」のメンバーも務めたスポーツ庁の室伏広治長官は「大会の開幕まで半年を切り、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、これまでとは比較にならない困難な状況で運営のかじ取りを引き受けていただき、心より感謝したい。私も新会長候補の選定に携わったが、橋本新会長は最も適任であり、大会の顔として、成功に導いていただきたい。新体制をしっかりサポートし、共に全力で取り組んでいきたい」というコメントを出しました。

IOC バッハ会長「女性を会長 非常に重要なシグナル」

IOC=国際オリンピック委員会のバッハ会長は「橋本会長の就任を心から祝福します。橋本新会長はオリンピックのメダリストであり、7大会出場、選手団の団長としての経験もあり、このポジションに最適です。大臣としての豊富な政治経験は組織委員会、日本政府、東京都、IOCの協力のもと、東京大会の成功に大いに役立つと思う」とするコメントを発表しました。

その上で「大会組織委員会が女性を会長に任命したことは男女共同参画に関する非常に重要なシグナルを出してくれている」と評価しました。

また、東京大会の準備状況を監督する調整委員会のコーツ委員長は、「橋本氏が東京大会の担当大臣だったころから緊密に連携してきた。この連携がさらに拡大することを楽しみにしています。組織委員会は彼女のオリンピックと政治の経験から大きな恩恵を受けることになるでしょう」とコメントしました。

IPC会長「24時間体制で協力」

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の新たな会長に選任された橋本聖子氏について、IPC=国際パラリンピック委員会のアンドリュー・パーソンズ会長は「会長就任を祝福します。橋本新会長はオリンピックに7回出場したオリンピアンとして、東京大会の担当大臣として大会環境をよく知っており、組織委員会に強力なアスリートの視点をもたらすでしょう」とコメントしました。

そのうえで「橋本会長は重要で困難なこの時期に会長として組織委員会に参加することになるが、IOCおよびIPCは24時間体制で協力し、この夏に安心安全な大会を提供します」としました。

橋本新会長を選んだ理由は

組織委員会が設置した「候補者検討委員会」が、橋本新会長を選んだ理由を公表しました。

その中でまず
▼橋本新会長はスピードスケートや自転車競技の選手として、冬と夏合わせて7回、オリンピックに出場し、1992年のアルベールビル大会では日本の女子選手として初めて冬の大会で銅メダルを獲得した、日本を代表するアスリートであることを挙げています。

さらに
▼オリンピックに深く関わりアスリートの立場に寄り添った活動を長年続けてきたことや
▼多くのスポーツ団体の役員を務め、スポーツ界に幅広いネットワークを構築していることも理由にしています。

そして
▼参議院議員として国の政治や行政の両面にわたって活躍し、
▼オリンピック・パラリンピック担当大臣として 政府の中で東京大会の準備に向けた各省庁との調整や東京都をはじめ地方公共団体との連携にあたり、特に新型コロナウイルスの対策の取りまとめに尽力してきたことも理由のひとつとしています。

さらに
▼女性の社会参画のさらなる拡大に率先して取り組み、
▼おととし9月まで組織委員会の理事として、東京大会準備の草創期から関与してきたことを挙げています。

こうしたことから「候補者検討委員会」は国や東京都、IOCなどの関係機関と円滑な関係を構築できる能力があり、スポーツに対する深い造詣や男女共同参画などへの理解など、新会長に求める資質があるとしています。

新会長 新型コロナなど直面する課題は山積

組織委員会の新しい会長に就任した橋本氏は、政界やスポーツ界での長年の関わりや実績に加え、オリンピック・パラリンピック担当大臣として組織委員会や東京都、IOCと向き合ってきました。

元オリンピック選手としてスポーツへの深い造詣はもとより、東京大会の経緯や準備状況を理解していることに加え、組織運営能力や大会関係者との調整力を備える人物として期待が寄せられています。

しかし、開幕まで半年を切ったタイミングで大会運営を担う組織のトップが交代するという異例の事態を受けて、橋本氏が直面する課題は山積しています。

来月25日にはオリンピックの聖火リレーがスタートし、4月には新型コロナウイルスの対策を踏まえたテスト大会が再開されます。

しかし、聖火リレーをめぐっては、島根県の丸山知事が17日、政府や東京都がコロナの感染拡大を抑え込めていないとして、県内の聖火リレーを中止したいという考えを表明し、新たな懸案として対応が迫られることになります。

さらに春には、大会の観客について上限の人数や海外からの受け入れをどうするかなど、感染状況やワクチンなどの対策を見極めながら決めなければならないという重大な局面を迎えます。

また、感染拡大の状況によっては、大会開催の可否についてもIOCや政府、東京都とともに判断を迫られる可能性があり、その場合は補償の問題など極めて困難な交渉が待ち受けています。

さらに、こうした実務的な課題を解決しながら、森会長の発言によって失ったボランティアやスポンサー企業といった大会を支える人たちの信頼回復や、ジェンダーの取り組みを含め大会が掲げる「多様性と調和」に沿って、国内外の理解を得ることも欠かせません。

組織委員会の幹部が「一刻の猶予も許さない状況」と表現する中、橋本新会長はコロナ禍で迎える世界的なイベントを運営する巨大組織のトップとして、その手腕が問われることになります。

菅首相「大会の理念実現を」

菅総理大臣は18日夕方、総理大臣官邸で記者団に対し、橋本聖子氏が東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の新しい会長に就任したことについて「橋本新会長には担当大臣として、一生懸命に頑張っていただいた。今回、新会長に就任をされるが、国民の皆さんや世界から歓迎される安全・安心の大会に向けて、全力を尽くしていただきたいと思う。政府としては、しっかり応援したい」と述べました。

そのうえで「橋本新会長は、女性活躍担当大臣でもあった。また、夏と冬のオリンピックに7回出場した経験もある。こうした経験も生かし、東京オリンピック・パラリンピック大会の理念をしっかり実現するよう頑張っていただきたい」と述べました。

小池知事「アスリートの目線で運営を」

森会長の後任となる東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の新しい会長に橋本聖子氏が就任したことを受けて、開催都市、東京都の小池知事はコメントを出しました。

この中で小池知事は「アスリートとしての経験も大変豊富で、アスリートの目線での大会運営も行っていただけると大いに期待している。オリンピック・パラリンピック担当大臣として、東京大会の開催に向けて大変な尽力をいただいた。女性活躍担当大臣も兼務しており、東京大会の理念である『多様性と調和』の具体化も図っていくものと思う」と期待を寄せています。

そのうえで「開催まで半年を切り、3月にはいよいよ聖火リレーのスタートを迎える。都は開催都市として、コロナ対策に万全を期し、アスリートや子どもたちをはじめ多くの方々が待ち望む安全・安心な大会とするため、引き続き、橋本会長をはじめ、国、IOC=国際オリンピック委員会、IPC=国際パラリンピック委員会などすべての関係者とともに一丸となって取り組んでいく」としています。

日本サッカー協会会長「会長にふさわしい」

組織委員会の理事を務める日本サッカー協会の田嶋幸三会長は「理事や評議員がしっかり議論した中で決まったことで、最後はみんな納得したということだ。橋本新会長はスポーツへの造詣は深いし、選手や強化に対する思い入れがすごくある人なので、ふさわしいと思う。期待することはシンプルで、大会まで5か月しかない中、コロナ対策など、さまざまなことを踏まえたうえで成功させることが大事だと思っている」と話していました。

専門家「国民の納得感を得られるかが課題」

大会組織委員会の新たな会長に橋本聖子氏が選ばれた過程について、スポーツ界のガバナンスに詳しい、弁護士で早稲田大学スポーツ科学学術院の松本泰介准教授(40)は「事前にどれだけ説明していたかが重要で、もう少しできることはあったのではないか。今後は国民の納得感を得られるかが課題になる」と指摘しました。

辞任した森会長による川淵三郎氏への後任指名が「密室人事」などと批判されたことを受けて、組織委員会は「透明性のあるプロセスにすべき」として、候補者を選ぶ候補者検討委員会を新たに設置しました。

しかし、8人のメンバーの名前や日時は明らかにされず、16日から3回行われた会議はいずれも非公開でした。

こうした選考の過程について松本准教授は「候補を選ぶうえでどんな議論を行うのかを事前に説明して、初めて新会長の資質や適性への納得感が生まれる。事前にどれだけ説明していたかが重要で、もう少しできることはあったのではないか」と情報公開の在り方に疑問を呈しました。

そのうえで、新たな会長に対しては「どのような過程で新会長が選ばれたのかは、今後も国民の意識に残る。コロナ禍で大会を開催するのかという重大な意思決定をするうえで、国民のそうした意識を払拭(ふっしょく)し、納得感を得られるかが課題になる」と指摘しました。

また、橋本新会長が大会の「安心・安全」を最も重要な課題に挙げたことについて「どの程度対策をとれば安心・安全か正解がない。こうしたから大丈夫だと結論だけ言われても疑問が残るので、国民の肌感覚での納得感づくりが最も重要だ」としています。

橋本新会長が性差別の問題について、今月中に新たな態勢を打ち出す方針を明らかにしたことについては「これからどれくらい具体的なアクションがなされるかを注視したい」としています。

橋本氏のハラスメント報道

橋本氏をめぐっては、7年前のソチオリンピックで日本選手団の団長を務めたとき、フィギュアスケートの男子選手とキスをした写真が週刊誌に掲載され、団長の立場を利用したパワーハラスメントなどと報じられました。

当時、橋本氏は「パワハラやセクハラではない」と否定しましたが、一時は、当時務めていた日本スケート連盟の会長を辞任する意向を表明する騒ぎとなりました。

この件を理由に、一部の大会関係者からは「会長として本当に適任なのか」と、今後の影響を心配する声もあがっています。