改正種苗法が成立 新品種の
海外無断持ち出し規制へ

国に、新品種として登録された果物などの種や苗を海外へ無断で持ち出すことを規制する改正種苗法が、2日の参議院本会議で可決・成立しました。

種苗法の改正案は、2日の参議院本会議で採決が行われ、賛成多数で可決され、成立しました。

改正種苗法では、国に新品種として登録された果物などの種や苗が海外に流出するのを防ぐため、開発者が輸出できる国や国内の栽培地域を指定でき、それ以外の国に故意に持ち出すなどした場合は、10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金が科されます。

このほか、農家が収穫物から種や苗を採って次の作付けに使う「自家増殖」の場合も開発者の許諾が必要になることなどが盛り込まれています。

政府は、先の通常国会での成立を目指していましたが、新型コロナウイルスの対応などで十分な審議時間が取れず継続審議となる中、一部の農業関係者などからは慎重な審議を求める声が出ていました。

このため、衆参両院の農林水産委員会の付帯決議では、改正によって、農家が新しい品種を利用しにくくならないように、種や苗が適正価格で安定的に供給されるような施策を講じることや、農家に対して制度の見直しの内容について丁寧に説明することなどが盛り込まれています。

この改正種苗法は、一部の規定を除き、来年4月に施行されます。

加藤官房長官「農産物輸出促進へ大きな意義」

加藤官房長官は、午前の記者会見で「優良な品種の海外への流出を防止する措置を講じるもので、政府が取り組んでいる、農産物の輸出促進を図っていくうえでも、大変大きな意義がある」と述べました。

そのうえで「改正により、農業者が『自家増殖』を行う場合に、品種開発者の許諾を得る手続きが必要となる。農業者の過度な負担になるのではないかといった懸念については、農林水産省が分かりやすく対応し、引き続き丁寧に説明していく」と述べました。

背景にブランド果実などの海外流出

今回の種苗法の改正の背景には、国内で開発されたブランドの果物などが海外に無断で持ち出される事例が後を絶たないためです。

例えば、ぶどうの高級品種「シャインマスカット」は、国の研究機関が33年の歳月をかけて開発しました。

甘くて皮ごと食べられるのが特徴ですが、農林水産省によりますと苗木が海外に無断で持ち出されて中国では、「陽光バラ」などの名称で栽培され、タイなどに輸出されているということです。

このほかにも、いちごの「紅ほっぺ」や、さくらんぼの紅秀峰などが中国やオーストラリアで無断で持ち出されましたが、今の種苗法には、海外への持ち出しを規制する条項がありませんでした。

果物などの輸出拡大を農業の新たな成長戦略として位置づける日本政府にとっても痛手になることから今回の法改正では、開発者が輸出できる国や国内の栽培地域を指定できるようにするとともに、農家から流出するのを防ぐために、収穫物から種や苗を採って次の作付けに使う「自家増殖」の場合も開発者の許諾を得ることが必要となります。

農林水産省は、今回の改正によって、種や苗の流通を厳しく管理し、開発者の権利や利益を守りたいとしています。

新品種を開発する農家は歓迎

今回の改正について、新たな品種の開発を手がける生産者からは歓迎の声があがっています。

岡山市のぶどう農家、林慎悟さんは100種類以上のブドウを生産するとともに、新品種の開発にも取り組んでいます。

新品種の開発には、さまざまな品種のぶどうをかけあわせて選別していく作業が求められ、1つの品種を開発するのに最低でも7年、長い場合には20年から30年ほどかかるといいます。

しかし、新品種を開発しても、購入した農家が収穫物から種や苗を採って次の作付けに使える「自家増殖」を行うことができました。

このため、新品種の開発者に金銭的なメリットが少なく、種や苗が流出するリスクもあったといいます。

林さんは今回の改正で、開発者の権利が守られ、産地やブランドの向上につながると期待しています。

林さんは「自分の手元を離れてしまうと、いつどのように品種が流通しているのか追い切れず、流出の心配も常にあります。国内で管理できていれば、海外で無断で生産されることはなく、輸出によって日本の農家が利益を上げられると思います。悪い意味での制限ではなく、品種をうまく使うためのルールだと受け止めて使っていくことが重要だと思います」と話していました。

自家増殖の許諾に懸念の声

今回の法改正によって、国に登録された新品種では農家が収穫物から種や苗を採って次の作付けに使う「自家増殖」する場合に開発者の許諾が必要になります。

このため農家の負担が増えるとして、懸念の声が上がっています。

栃木県佐野市の稲田健さんは、60種類ほどの野菜やコメ、それに小麦などを育てています。

稲田さんは、農薬や化学肥料を使わない有機栽培に取り組んでいて、みずから育てた作物から種を採って育てる「自家増殖」も行っています。

しかし、今回の法改正によって、国に登録された新品種を「自家増殖」する場合は、開発者の許諾が必要となるため、稲田さんは、手続きが煩雑になり、許諾料の支払いが農家の負担になることを懸念しています。

稲田さんは「許諾料が農家の負担にならないような体制を作ってもらわないと、農家がやっていけなくなる。種を採って育てることは品種を守るための尊い行為だと思って、これまでやってきたが真逆の価値観に変わって行くのではないかと危機感を抱いています」と話していました。