染防止に接触者広く検査
墨田区保健所の取り組み

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために今、求められているのが検査の強化です。しかし、感染者の増加で業務がひっ迫する保健所も多く、検査をどこまで拡充できるかが大きな課題となっています。そんな中でも、濃厚接触者に限らず感染者の周りを広く検査し、拡大を食い止めようという取り組みが出てきています。

東京 墨田区の保健所は、第一波の時に、2つの病院で感染者の集団=クラスターが発生したことを教訓に、PCR検査の対象を拡大しました。

今月から、大勢の人が利用する施設で感染者が出た場合、濃厚接触者だけでなく、接触した可能性のある人にも広く検査を実施しています。

そのための体制も整えてきました。

6月から所内には、医師と保健師などがメンバーのクラスター対策チームを3班配置。

独自にPCR検査室を整備し、1日100件ほどの検査を可能にしました。

医師免許を持つ保健所長みずからもクラスター班の一員として活動しています。

墨田区では今月(8月)2日、中学校で生徒1人の感染が確認されました。

保健所は、今回初めて濃厚接触者だけでなく、接触のあった生徒30人余りに対してもPCR検査を実施。

その結果、生徒3人の陽性が判明し、さらに対象を広げて6日までに、およそ160人にPCR検査を実施しました。

墨田区保健所の西塚至所長は「クラスターが起こる前に、その芽を摘むことが何より重要だ。クラスターを抑えられれば、それだけ保健所の負担も減るので、徹底した検査にマンパワーを投入している」と話しています。

しかし、広く検査を行うには体制の強化が必要です。

墨田区では先月から感染者が増加し、検査の陽性率も5.3%と徐々に高まっていて、保健所の業務がひっ迫し始めています。

保健所では現在、区役所などから65人の職員の応援をもらったり、電話相談の一部を外部に委託するなどして体制を強化してきましたが、調査などの場面で、すでに人員が不足している厳しい状況にあるといいます。

西塚所長は「2度クラスターが起こらないよう徹底した検査を続けるためにも、保健所の体制を見直すことも必要だと感じている」と話しています。

「検査の対象を広げて」

新型コロナウイルスの感染が再び拡大する今も「検査の対象を広げてほしい」という声が相次いでいます。

関西に住む20代の男性は、今月、勤務先の店舗で一緒に働くアルバイトが感染していたことがわかりました。

男性は、その1週間前にマスクを着用したうえでアルバイトとともに品出し作業を行い、業務の引き継ぎなどで30分以上、会話したということです。

このため会社の指示で自宅待機していましたが、その後、保健所から「マスクを着用していて濃厚接触者には当たらないので、PCR検査の対象にはならない」と告げられました。

男性は高齢の父親と同居し、自身も内臓疾患などがあり、かかりつけ医からは「もし感染した場合は重症化するおそれがある」と言われているといいます。

市役所の窓口に相談しても「不安ならば車中泊してください」などと言われたということです。

近所の医療機関にも検査が受けられないか相談しましたが「症状が無く、保健所の指示が無いと検査はできない」と言われ、今も検査は受けられていません。

男性は「自分も父親も感染したら重症化するリスクがあるので、とにかく早く検査を受けたい。陰性なら安心できるし、陽性なら入院かホテル療養をして、ウイルスをうつすリスクを抑えたり、重症化を防ぐ治療を受けられる。なぜ検査が受けられないのか不安と怒りしかない」と話しています。

厚労省「濃厚接触者以外でも行政検査の対象に」

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、検査の対象を濃厚接触者以外に広げた東京 墨田区の取り組み。

厚生労働省も先月(7月)、濃厚接触者ではない人も、保健所の行政検査の対象にできることを全国に通知しています。

これまで多くの自治体では、国の実施要領に基づいて、感染者と濃厚接触者を対象に検査を行ってきました。

感染が再び拡大して各地でクラスターが相次ぐ中、厚生労働省は、より積極的な検査が必要だとして先月15日(7月)、保健所が「特定の地域や集団でクラスターの連鎖が生じやすい」と判断した場合には、濃厚接触者以外でも、自治体の行政検査の対象にすることができるという通知を出しました。

ただし、濃厚接触者以外にどこまで広げて検査を行うかは、それぞれの自治体の判断に委ねられています。

埼玉県は先月(7月)28日から、濃厚接触者ではない場合でも、同じフロアや建物にいた人は検査の対象にすることを決めました。

しかし感染の拡大によって各地の保健所の業務がひっ迫する中、検査をどこまで実施するかは、自治体によってばらつきがあるのが現状です。

専門家「クラスターの連鎖を断つためにも重要」

東京 墨田区の保健所の取り組みについて、感染症対策に詳しい東北医科薬科大学の賀来満夫特任教授は「クラスターの連鎖を断つためにも濃厚接触者だけでなく、より広い範囲で接触者の検査をしていくことが非常に重要だ。これを1つのモデルケースとして、全国でも実施していくことが感染拡大防止につながっていくのではないか」と評価しています。

そのうえで「感染が拡大している中で、保健所の業務は非常に多岐にわたって大変になっていて、自治体は努力しているが限界がある。人的な資源や物的な資源も含めて、国がしっかりと支援していくことが地域の検査体制を拡充する上で不可欠だと思う」と話していました。