ランプは信じない! でも…

トランプ大統領が再選を目指す今年11月のアメリカの大統領選挙まで半年を切った。
アメリカ・ファーストで世界を揺さぶる異色の大統領を、日本人はどうみているのか。唯一の同盟国のアメリカと、この先どうつきあっていこうとしているのか。日米4人の識者と世論調査を読み解いた。
(政木みき、鵜澤正貴)

日本人に人気のある大統領は?

国際社会が注目する一大政治イベントを前に、今年2月から3月にかけてNHKは日本人のアメリカ観を深掘りする郵送世論調査を実施した。

まずグラフをみていただきたい。

第2次世界大戦後の歴代大統領のうち最も評価する大統領について聞いたところ、前職の「オバマ大統領」が54%で他を引き離し、「ケネディ大統領」が17%、「レーガン大統領」11%などと続くが、「トランプ大統領」は2%。連日のようにニュースに登場する現職が、この位置にとどまった。

トランプ再選で「悪い影響」

評価の低さは、“トランプ再選”に対する懸念にも通じる。

今年の大統領選挙でトランプ大統領が再び当選した場合の日本への影響を尋ねたところ、
「良い影響が大きい」が10%、
「悪い影響が大きい」が57%、
「特に影響はない」が32%で、
「悪い影響」が「良い影響」を大きく上回った。「悪い影響」が「良い影響」を上回るのは、男女、すべての年代で共通している。

支持政党別でみると、与党支持層でも「良い影響」が16%、「悪い影響」が45%、「特に影響がない」が38%で
「悪い影響」が「良い影響」を上回ったほか、野党支持層、支持なし層でも同じ傾向である。

現職のアメリカ大統領が再選することに、幅広い層が懸念をもっている。
(注・「与党支持層」=自民支持層、公明支持層、「野党支持層」=自公以外の政党・政治団体の支持層)

懸念の背景にあるのは、トランプ大統領が貫く「アメリカ第一主義」に対する違和感だ。

自国の利益を最優先するという「アメリカ第一主義」をトランプ大統領が掲げていることについてどう思うか聞いたところ、「良い」と答えた人が19%だったのに対し「良くない」という人は80%と圧倒的多数を占めた。

北朝鮮政策「期待していない」

北朝鮮をめぐる問題についても、トランプ政権に対して疑問符がつけられている。

トランプ政権によって、北朝鮮の非核化が進むことをどの程度期待しているか聞いたところ、「期待していない」(あまり+まったく)が65%で、「期待している」(大いに+ある程度)の34%を大きく上回った。
(注・選択肢の足し上げは実数で再計算するため単純な%の合計と一致しないことがある。以下同)

北朝鮮による拉致問題の解決に向けて、トランプ政権がどの程度頼りになるか尋ねた結果でも「頼りになる(非常に+ある程度)」という人は17%にとどまり、「頼りにならない」(あまり+まったく)と答えた人が82%に及ぶ。

北朝鮮問題については、アメリカと緊密に連携を図っていくというのが日本の基本的な方針だが、トランプ大統領の力量に対する評価は低い。

日米同盟肯定の背後に「見捨てられる恐怖」?

調査で明らかになったトランプ大統領への不信。しかし、日米同盟に対する態度は逆向きのものだった。

日米安保条約に基づくアメリカとの同盟関係を今後どうしていくべきかについては
「より強化していくべきだ」が18%、
「現状のまま維持していくべきだ」が55%、
「協力の度合いを今より減らしていくべきだ」が22%、
「解消をめざしていくべきだ」が3%だった。
「維持していくべき」と「強化していくべき」という、日米同盟の意義は認めているとみられる人を合わせると73%にのぼる。

男女、またすべての年代でも維持または強化すべきと考える人が半数を超えた。

支持政党別でみても
「協力の度合いを今より減らしていくべきだ」という人が野党支持層で34%、支持なし層で26%とやや多いが、
「現状のまま維持していくべきだ」という人が最も多い傾向は、与野党支持層、支持なし層で同様だった。

さらに、日本の安全保障のためにアメリカの核抑止力に頼る “核の傘”が必要かどうか聞いた質問では、「今も将来も必要だ」が39%、「今は必要だが、将来は必要ない」が25%などとなり、両者を合わせた、少なくとも今はアメリカの“核の傘”が必要だと言う人は60%を超えた。

日米同盟を肯定する人が多い一因として、安全保障環境に対する危機意識の高さがあげられる。
日本がテロに巻き込まれたり、他国から攻撃を受けたりする危険性がどの程度あるか尋ねたところ、
「非常に危険がある」が16%、
「ある程度危険がある」が69%で、
危険があるとした人が合わせて86%を占めた。

政治意識論が専門の同志社大学の飯田健教授はこう分析する。
「戦後日本の党派的イデオロギー対立は、欧米のように保守とリベラルの『小さな政府対大きな政府』ではなく、憲法9条や日米同盟を中心とした安全保障政策によって規定されてきたと言われているが、今回の調査ではその構図がずいぶん薄まっているように見える」

「一般的に危機にさらされている場合、有事の際同盟国が助けてくれないのではないかという見捨てられる恐怖が強くなり、同盟強化の方向の意見が強くなる。この意味で現在日本がテロや攻撃を受ける可能性に対する危機感が広く共有されているため、アメリカの戦争に巻き込まれる可能性があったとしても、アメリカとの同盟の維持を望む声が広がっているのではないか」

トランプ政権への違和感と、日米同盟を支持するねじれについてアメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」のピーター・ランダース東京支局長はこうみる。

「一人の大統領が75年間の積み重ねを一気にひっくり返すことは難しい。今になってトランプ大統領が日米同盟に対し否定的な見解を持ったり、日本がタダ乗りしているのではないかなどと言ったりしているが、日米関係によって日本が平和に過ごすことができた長年の積み重ねがあり、それだけで日米関係がダメになることはない。ほかの同盟国を見てもここまで強力に支持されている国はあまりない」

アメリカ政治が専門の慶應義塾大学の中山俊宏教授も、こう指摘する。

「誰が大統領であれ、やはり日本にとってはアメリカとの関係が一番重要だという認識が浸透している。日米同盟以外の現実的な選択肢がないということで、大統領に対する認識と日米関係の認識を切り離しているのがある種のリアリズムだと感じる」

一方、日米同盟に対する日本人の受け止めについて、識者が揃って注目したデータがある。

アメリカの日本に対する防衛義務を定めたうえで、アメリカ軍が日本で基地や施設を使うことを認めている日米安全保障条約によってどんな結果がもたらされたか、5項目に分けて尋ねた。

このうち「防衛費を抑制でき、日本の経済が発展した」については、「そうは思わない(「どちらかといえば」を含む)」という人が62%と否定する人が半数を上回り、「そう思う(「どちらかといえば」を含む)」の35%を上回った。支持政党別でみたところ、自民支持層でもそう思うという人は44%で、そうは思わないと答えた53%のほうが多かった。

同志社大学の飯田健教授はこう指摘する。
「保守側の有権者でさえ防衛費を抑制でき、日本の経済が発展したと考えていないことは、トランプ側の認識と大きく異なり、トランプ政権下の日米同盟にとってリスク要因になると考えられる」

アメリカ政治が専門の慶應義塾大学の渡辺靖教授の分析はこうだ。
「安全保障の多くをアメリカに担ってもらい、日本は経済発展を最優先課題にするというのは、まさに戦後の吉田茂首相が描いていた国家戦略でそれがうまく作用してきた。しかしトランプ政権になり防衛装備品の購入を迫られたり、米軍の駐留経費のさらなる上積みを求められたりする一方で、日本経済は伸び悩んでいる。本当に防衛費が抑制できているのか、経済発展にプラスになっているのか確信が持てない人が多くなっているということではないか」

「もっとも日本が享受している抑止力を自主防衛でまかなおうとすると膨大なコストがかかり、米軍のプレゼンスがあってある程度安全保障関係が安定しているからこそ経済活動や海外からの投資や円の価値が保たれているという側面もあるが、そのあたりは一般的イメージとして共有されていない」

防衛に関するコストをめぐって、調査では、トランプ大統領が日本に在日アメリカ軍の駐留経費、いわゆる「思いやり予算」の負担を大幅に増やすよう求めていることについて日本政府がどうすべきかも聞いた。

その結果、「負担を増やす必要はない」という人が81%と多数を占め、「負担を増やすのもやむを得ない」は17%にとどまった。

アメリカと中国との距離感のバランス

外交上、日本の立ち位置が議論されているアメリカと中国との距離感についても、日本人のバランス感覚が垣間見える。

アメリカや中国など各国にどの程度親しみがあるか聞いた結果、アメリカに親しみがあるという人は「とても」と「ある程度」をあわせて72%だった一方、中国に親しみがある人は22%で、親しみ度には大きく差がついた。

しかし、安全保障や経済の分野で激しく主導権を争うアメリカと中国のどちらをより重視すべきかと尋ねた質問では「両国とも重視すべき」と答えた人が55%で最も多く、「アメリカ」は34%、中国は3%などとなった。

親しみの度合いと、その国の重要性は別ものという結果だ。日米同盟の意義は認めつつ、多くの人にとって中国よりアメリカのほうが“近い国”であっても、アメリカ一辺倒ではなく、大国中国ともバランスをとってうまくつきあっていこうという意識が読み取れる。

「ウォール・ストリート・ジャーナル」のピーター・ランダース東京支局長は、アメリカの揺らぎが原因ではないかと指摘する。
「親しみがある人が多いのはアメリカのソフトパワーが依然として強いからだ。フェイスブック、グーグル、アマゾン、アップルなど、技術やソフトウェアの面でアメリカは指導的立場にあり、それを理由にアメリカに親近感を持つ人もいるだろう」

「しかし果たしてアメリカが偉大な国と言えるのか。トランプ大統領は『再び偉大な国にするのだ』と言い、本人に言わせれば大変成功していると言っているが、偉大なところもあれば逆に弱くなっているところもある。そのアメリカの矛盾が日本人の意識の矛盾に反映されているのではないか」

一方、慶應義塾大学の中山俊宏教授は日本人の心理をこう分析する。
「アメリカへの不安感を示す数字ではないか。隣国である中国とけんかばかりしていられないというのは当然で、そうしたなかでのバランス感覚だ」

「むしろ注意すべきは、『中国の方に傾斜すべきだ』だと言う人が1桁にとどまっていることで、背後には『日本は中国とは単独では向き合えない』という感覚があるとみられる」

これからのアメリカとの関係は

米中がしのぎを削り多極化する世界のなかで、日本はアメリカとの間合いをどうとっていくのか。

新型コロナウイルスの感染者、死者が世界で最も多くなっているアメリカでは、トランプ大統領の対応が日々問われ、11月の大統領選挙の行方も不透明になっている。

トランプ政権の4年でアメリカ社会の分断が進み、仮に民主党が政権を奪還したとしても“元のアメリカ”には戻れないだろうと今回取材に応じてくれた識者たちはそろって指摘した。

今回の調査は、そうした混沌とした世界の状況に目をこらし、国際社会のなかで賢くふるまっていきたいと望む日本人の意識の一端があらわれたような結果だった。

(今回の調査の単純集計結果はこちらから)

報道局選挙プロジェクト記者
政木 みき
1996年入局。横浜局、首都圏放送センター、放送文化研究所世論調査部を経て現在、政治意識調査を担当。
報道局選挙プロジェクト記者
鵜澤 正貴
2008年入局。秋田局、広島局、横浜局を経て18年に選挙プロジェクトに。