アメリカ製兵器
もっと買え?

「私が大事だと思うのは、安倍総理大臣がアメリカから大量の兵器を購入することだ。アメリカは世界最高の兵器を生産している。(兵器の購入は)アメリカには雇用を産みだし、日本には安全をもたらす」 注目を集めた、初めて日本を訪問したアメリカ トランプ大統領の発言。防衛省幹部は、この発言に困惑の表情を浮かべ、「もっとアメリカの装備品を買えというのか。防衛は産業政策ではないのだが…」とつぶやきました。日本は、果たしてアメリカから兵器、防衛装備品を「大量購入」するのか? アメリカとの防衛装備品の取り引きの実態を追いました。
(政治部防衛省担当記者 ・西井建介)

安倍総理大臣は…

日米首脳会談後の共同記者会見でのトランプ大統領の発言に対し、安倍総理大臣は「アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しくなる中において、日本の防衛力を質的・量的に拡充していかなければならない」と述べ、具体的な装備品の名前をあげて「さらに購入する」と応じました。

安倍総理大臣の発言を聞いて、直ちに、防衛省幹部に取材しました。すると、幹部の1人は、「すでに決まっている購入計画に改めて言及しただけだ」と解説しました。

そもそも防衛装備品は、いつ、どうやって購入計画が作成され、決まるのでしょうか。

防衛省は、5年ごとに「中期防=中期防衛力整備計画」を策定し、重視する機能や能力に基づいて、防衛装備品の購入計画を立てています。今の計画は、平成25年12月に閣議で決定されました。つまり、今年度は5年計画のうちの4年目にあたり、基本的に来年度購入する装備品はすでに決まっているのです。

急増するアメリカ製兵器の購入

では、防衛装備品の購入の現状はどうなっているのか。

日本がアメリカから装備品を購入する場合、多くのケースで使われるのが「FMS」という調達方法です。「Foreign Military Sales」=「対外有償軍事援助」と訳され、企業ではなくアメリカ政府との取引で装備品を購入します。取引先は、商社やメーカーではなく、「アメリカ海軍省」や「アメリカ空軍省」になります。

この調達方法の動向を見ることで、アメリカとのおおよその取り引きの増減が把握できます。

防衛省のまとめによりますと、「FMS」による調達額は、平成23年度は589億円でしたが、昨年度・平成28年度は、4881億円。5年間で8倍以上に急増しています。すでに、安倍政権が発足して以降、アメリカから購入する装備品は大きく増えているのです。

どんな装備品を、「FMS」で購入してきたのでしょうか。

昨年度の内容を見てみます。

最新鋭ステルス戦闘機「F35A」 6機 1091億円
新型輸送機「V22」オスプレイ 4機 754億円(※関連経費含む)
新早期警戒機「E2D」1機 260億円
新空中給油・輸送機「KC46A」 1機 231億円
大型無人偵察機「グローバルホーク」 3機分の一部 145億円
(※価格はいずれも契約時)
最新鋭の高額な装備の導入が全体額を押し上げていることがわかります。

今後もアメリカ製の装備品を購入する見通しです。来年度・平成30年度予算案の概算要求に盛り込まれた主な装備品です。

戦闘機「F35A」 6機 881億円
新型輸送機「V22」オスプレイ 4機 457億円
最新の迎撃ミサイル「SM3ブロックⅡA」など657億円

さらに、地上配備型の新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」2基も導入する方針で、防衛省関係者は「1基800億円としても2基で最低1600億円。最新鋭のレーダーを採用すれば、価格はさらに上がる」としています。

この背景について、防衛省は日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増していることがあるとしています。核実験を強行し、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮や海洋進出を強める中国に対応するためには、アメリカが持つ高性能のミサイル防衛システムやレーダーに捉えられにくい戦闘機など最新鋭の装備を導入する必要があるというのです。

「FMS」の長所と短所

ただ、急増する「FMS」による装備品の購入には、メリットとデメリットがあるといいます。

メリットは、「FMS」での調達によって、ミサイル防衛システムや、最新鋭の戦闘機など、軍事機密性の高い装備品が入手できることです。

一方で、「FMS」では、価格をアメリカ政府が決め、提供する時期や契約内容も変わる場合があることが条件となっていて、主導権をアメリカ側に握られる側面があります。さらに、装備品を購入したあとの補修や整備も、多くの場合アメリカに送り返して行う必要があります。

防衛装備品の輸入が増えることは、国内の防衛産業にも影響を与えます。

防衛省によりますと、防衛装備品の輸入の比率は、平成23年度には、7.4%でしたが、平成27年度は、20.9%、昨年度・平成28年度には23.3%にまで増えています。

防衛省が、去年、防衛産業に関連する企業を対象にアンケートを行ったところ、回答のあった72社の7割余りにあたる52社が、「部品を作っていた下請けの企業などが事業から撤退したり、倒産したりした」と回答しました。

国内の防衛産業が縮小すれば、日本の防衛関連企業が外国資本によって買収される可能性も出てきて、情報の流出リスクも高まります。

小野寺防衛大臣は「装備品はアメリカとの『FMS』だけではなく、国内の防衛産業を支援する中で充実させることも重要だ」と述べ、国内の防衛産業ともバランスをとっていく必要があるという認識を示しています。

注目される次期「中期防」「防衛大綱」

トランプ大統領がアメリカの装備品のさらなる購入を求めていることについて、小野寺大臣は「自衛隊の装備は、防衛力整備の指針となる『防衛計画の大綱』と5年ごとの整備計画を示した『中期防衛力整備計画』に基づき、計画的に取得をしており、今後も着実に防衛力を整備していく」と述べ、あくまでも計画に基づいて装備品の購入を進めていくとしています。 現在の「中期防」は来年度で5年目を迎え、次期「中期防」は来年にも決定される見通しで、「防衛計画の大綱」も安全保障環境の変化にあわせ見直しが検討されています。

次の計画と大綱をめぐっては、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃に対応するための新たな装備の導入や海洋進出を強める中国を念頭にした装備の充実などが引き続き焦点となるものと見られています。 防衛費が過去最大を更新し、5兆2000億円を超える中、日本政府はトランプ大統領の要求通り、アメリカからの装備品をさらに「大量購入」することになるのか。議論の行方に注目したいと思います。

政治部記者
西井 建介
平成14年入局。甲府局を経て、政治部防衛省担当。甲府局時代にバーベキューインストラクター初級取得。