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沖縄 対馬丸 戦後生まれの語り部の誕生

  • 2024年03月01日

太平洋戦争中、沖縄から九州に疎開する人たちを乗せた対馬丸が鹿児島沖でアメリカ軍の潜水艦に撃沈され、800人近くの子どもを含む1484人の命が失われました。この悲劇を語り継ぐ活動を続けてきた沖縄県の対馬丸記念館に初めて戦後生まれの語り部が誕生し、語り部のデビューまでを取材しました。

(沖縄局アナウンサー/大谷奈央)

若き語り部の誕生 

2023年9月、沖縄県那覇市の対馬丸記念館で行われた、語り部の認定式。
記念館初となる戦後生まれの語り部・花岡麗華(はなおか・れいか)さんです。

花岡さんは、県内の小中学校で相談員として働きながら、沖縄戦の講話などの平和ガイドを行っています。

体験者でもない遺族でもない立場から話をするのは、やはり難しさもあるけれど、私はこう思っているよ、みんなはどう思う?というような同じ目線で話せたら。

沖縄戦の悲劇を語り継ぐ記念館

那覇市にある対馬丸記念館。
1484人が命を落とした疎開船・対馬丸の悲劇を繰り返さないことを目的に、2004年にオープンしました。

開館当時から行われているのが、語り部による講話です。

生存者や遺族で構成され、それぞれの体験をもとに対馬丸の悲劇を伝えてきました。
しかし、かつて10人以上いた語り部も高齢化の影響でいまでは6人に。
今後の語り部の継続が課題になっていました。

戦争を経験していない私が、戦争を知らない世代に伝える

記念館が募集した語り部の育成に賛同した、花岡さん。
半年かけて語り部たちの講話を学びました。

その中で、花岡さんがひきつけられた語り部がいます。

髙良政勝(たから・まさかつ)さんです。
4歳のとき家族で対馬丸に乗船し、両親と兄弟あわせて9人を亡くしました。
現在も語り部として体験談を伝えています。

花岡さんが胸を打たれたのは、懸命に息子の命を守った末、力尽きて亡くなった髙良さんの父親の姿でした。

髙良政勝さん
あの時台風が発生していましたからね、波が荒くていかだにすがっているのが懸命で。
4歳にしてあれだけ我慢していたんだ、我慢強いなと自分では最初思っていたんです。
ところが、あとで話を聞きますと、親父が後ろから支えていたんですね。

髙良さんの実体験や家族への思いを伝えたい。
花岡さんの大きな原動力になりました。

一方、髙良さんも戦後生まれの語り部の誕生に希望を感じています。

語り継いでいけるというのは、非常に私としても嬉しいです。

自分なりに伝えるにはどうしたらいいか。

模索の末、挑戦したのは、子どもたちが親しみやすいオリジナルの絵で表現することでした。

体験だけでなく、語り部の思いも正確に伝えようと数か月かけて書き上げました。

髙良さんの話を聞いて最初に印象を受けたのが、家族の愛。
またそれを同じように伝えたいなって。
大切なものを失うことになるんだよっていうのを表現したいんです。

語り部デビューの日

中学3年生およそ30人に向けて、思いを込めて作った物語を伝えます。

ぼくは、なんとかいかだにつかまって、夜は凍える空の下、昼は焼けつく太陽の下で3日間過ごし、助け出された。

でも本当は、ぼくは一人じゃなかった。
海に投げ出されたとき、

ずっと、ぼくの背中でぼくが沈まないように支えてくれていたお父さんがいたんだ。

お父さんはぼくが救助される姿を見ると安心したのか力尽き、海の中へと沈んでしまった。

およそ1時間の講話が終わり、花岡さんは語り部としてのスタートを切りました。

参加した生徒は

自分がその場にいたら混乱して家族に会いたくなると感じました。
私も語り部に興味があるので、これからもっと色々なことを調べてみたいと思います。

花岡さんに今後の思いを聞きました。

(無事に終わって)ほっとしています。
実際の体験者や遺族の方の生の声は重みがあるし、心にも伝わりやすいというのがあって、それには負けてしまうかもしれません。
それでも、私が話したことで一人でも二人でもいいから、その思いが伝わるというのが目標です。

取材後記

半年にわたって花岡さんにお話を伺ってきました。
戦争体験者が少なくなる中、「伝えたい」という強い意志と覚悟を持って対馬丸の悲劇に向き合う花岡さんの姿に胸を打たれました。
対馬丸記念館では戦後生まれの語り部の育成を今後も続けていくということで、次世代の語り部の活動をこれからも取材したいと思います。

  • 大谷奈央

    沖縄局・アナウンサー

    大谷奈央

    東京都出身
    2021年入局
    好きな沖縄料理は
    フ―チャンプルー

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