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岡山発 お年寄りに人気 AIタクシー配車

NHK「もぎたて!」ゼロへのAction~なくそう交通事故死~
  • 2024年03月18日

高齢者が運転免許の返納後に移動手段をどう確保するか課題となっています。この課題を解決しようと久米南町ではAIを活用した乗り合いタクシーが人気を集めています。
(岡山放送局 記者 内田知樹)

大人気の乗り合いタクシー

岡山県の中央に位置する久米南町は、人口4,300人ほど、その半数近くが65歳以上で県内でも高齢化が進む地域です。

この町で、毎日、朝から夕方まで運行されている乗り合いタクシーが、「カッピーのりあい号」です。
町が年間4,200万円を地元のタクシー会社に出して運行しています。
令和4年度には、のべ1万8,000人が利用しました。人気の秘密を探るため、週3日ほど乗っているという女性を訪ねました。

町の中心部から6キロ離れた地区で1人で暮らしている景山金子さん(88)は、5年前、高齢を理由に警察官に勧められて免許を返納しました。返納後は、3歳年上の夫が運転する車で出かけていましたが、その夫も3年前に亡くなりました。景山さんが暮らす自宅のまわりは、坂道が多く、年をとって足腰が弱ってきた景山さんは、近所を歩くのも一苦労です。

(景山さん)
筋肉も体力も落ちて、坂道ではふんばりがきかなくなった。ここで歩こうと思っても、足が滑ってしまって平らな場所まで止まらない。

乗り合いタクシーは、生活に欠かせません。直前の予約になっても15分から1時間ほどの待ち時間で迎えに来てくれるといいます。

予約が入るとAIが配車

このタクシーは、配車システムにAI=人工知能を活用しています。
町には、5台のタクシーが走っていますが、予約が入るとAIが利用者の近くの車両に配車を指示します。目的地までのルートもAIが計算し、車両に備え付けられたタブレットでドライバーに伝えます。また、走行中に新たな予約が入った場合、ルートを計算しなおして、別の人も乗せて、「乗り合い」で、目的地に向かうこともあります。

どこに行っても1回300円

運賃の安さも人気の秘密です。
景山さんがこの日、向かったのは、自宅から6キロほど離れたドラッグストアです。一般のタクシーなら2,000円ほどかかります。でも、この乗り合いタクシーは町内、どこに行っても1回の乗車賃が300円。景山さんは免許返納をしているので、さらに割り引きが受けられ、1回150円で利用できます。景山さんは、このタクシーなしの生活は考えられないといいます。

「乗り心地は最高です」

(景山さん)
このタクシーは、まさに、私の『足』です。事前の予約を忘れていて直前の電話でもすぐに来てくれるし、運賃も安いのでとても便利です。いつも助けてもらっています。感謝です。

AI活用で町内どこでも利用可能に

町では、かつて、町内を5つのエリアに分けて、それぞれの地域と、役場やスーパー、JRの駅などがある町の中心部との間を決まった時間に決まったルートで乗り合いタクシーを運行していました。
しかし、目的地まで遠回りのケースや午前中と昼過ぎの便に希望が集中するなど課題がありました。
ほとんど利用者がいないのに、タクシーが走るという場合があったのです。

AI導入で利用者は右肩あがり

それが4年前にAIを導入したところ、利用者の希望に合わせた配車をしても、車両が足りなくなることはなく、町内のどこにでもいくことができるようになりました。さらに、乗車率の偏りも解消したことから車両を1台減らし、その経費で運行時間の延長と休日の運行も実現し、さらに利用者が増えるという好循環が生まれました。AI導入前の令和元年度にのべ8,700人だった利用者は2倍以上に増えました。
町の担当者は、山間部が多い久米南町で運行する意義を強調します。

久米南町総務企画課
大家健吾 上席主幹

(大家 上席主幹)
山あいの町なので、高齢者が徒歩や自転車で移動することが難しく、自家用車に頼る状況になってしまう。免許を返納したくてもできないという方の受け皿になればいい。

免許返納進まない現状に一石を投じるか

警察のまとめでは、去年1年間に県内での交通事故で49人が死亡していますが、このうちの4割にあたる65歳以上の人が起こした事故でした。
一般的に年をとると、▼まわりの状況を把握する「認知力」、▼進もうか、止まろうかなどの「判断力」、▼ブレーキやハンドルの「操作能力」が低下し事故を起こしやすくなります。
警察は、運転に不安を感じるドライバーの相談に応じたり、場合によっては免許返納を促したりしています。運転免許を持つ65歳以上の高齢者は、去年12月末時点で、県内に36万2,100人余りと過去10年で最も多くなっています。
県内では、年間でおよそ7,000人の高齢ドライバーが免許を自主返納をしていますが、あとの生活を考えると、返納したいけどできないという人も多いのではないでしょうか。
久米南町で人気の乗り合いタクシーが各地の自治体に普及し、免許返納が進まない現状に一石を投じるか注目されます。

  • 内田知樹

    NHK岡山放送局 記者

    内田知樹

    2021年入局
    事件・事故や西日本豪雨の取材を担当

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