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ベア3万円のスーパー なぜ実現?

NHK岡山「もぎたて!」 リポート
  • 2024年03月13日

春闘で物価上昇を上回る賃上げを達成できるかが焦点となる中、岡山県に本部があるスーパーが3万円のベースアップを決めました。価格競争が厳しい業界だけに、大幅な賃上げに同業者などからは驚きの声もあがりました。なぜ、大幅なベアに踏み切れたのか?その秘訣を探りました。(岡山放送局記者 遠藤友香)

中四国で100店舗以上展開

スーパーの店内

中国四国を中心にスーパーを100店舗以上を展開するスーパー「ハローズ」。売り場面積は8割以上の店舗2000平方メートルほどで、生鮮食品や総菜などが並びます。同じ敷地内には、百円ショップやドラッグストアなどが隣接していることが多く、1か所でさまざまな買い物が済ませられるようになっています。売り上げは36年連続で増加していて、ここ数年は1店舗あたりの来客数も増加しているといいます。

来店客 50代女性
来店客 40代男性
来店客 20代女性

3万円のベア決定

岡山県早島町のハローズ本部

こうした中、この会社は正社員・嘱託社員およそ1400人を対象に、基本給をことし4月から月額3万円引き上げることを決めました。また、この春入社する新入社員の初任給も一律3万円引き上げることを決めました。スーパーなどの流通業界は、日々価格競争にさらされ、人件費にもシビアというイメージもありますが、なぜ大幅なベアを実現できるのか。経営トップに直撃しました。

(佐藤利行 社長)
モノの値段が上がって、特に食料品が上がって(物価上昇に)われわれは直面している。生活者の皆さんは大変だろう。従業員も生活者なので、それ以上の賃上げをしないといけない。ベースアップしないといけないだろうということで、3万円上げた。取引先も同業他社も『すごいな』『どうやって上げられたんですか』と言われる」

理由① 24時間営業の継続

その理由のひとつは、すべての店舗で行っている「24時間営業」。近年、多くのスーパーや外食チェーンなどが終夜営業をやめたり、営業時間を短縮したりする動きが相次ぎました。しかし、この会社はあえて24時間営業を続けることで、深夜・早朝の需要を取り込んできたといいます。

深夜まで営業しないスーパーだと、夕方になると売り切れる商品なども出てきます。しかし、24時間営業のこのスーパーでは、夕方になると逆に作りたてのお総菜が運び込まれ、つぎつぎと売り場に積まれていきます。

安田晴喜 店長

(ハローズ中庄店 安田晴喜 店長)
「他のスーパーでは夜になるにつれて総菜の品ぞろえがなくなっていくが、ここでは24時間しっかり品ぞろえができるように取り組んでいる。夜間のお客様に対して、しっかりとした商品を提供できているという点は他社さんに比べると強みなのではないか」

理由② 仕入れの効率化

2つめの理由は、「仕入れの効率化」です。売れ残りや廃棄する商品を減らすため、AIによる自動発注を導入。予測客数・気温・売り値・在庫・販売実績などをもとに、AIが店舗ごとの発注を自動的にはじき出します。本部で発注をコントロールしているため、各店舗が発注作業を行う負担も軽減されています。

自動発注の操作を行う

また、店のレイアウトや商品の配置などを2年かけて標準化しました。以前は、店舗ごとに品揃えの違いなどがありましたが、標準化によって品揃えの偏りがなくなり、AIによる分析・発注がしやすくなります。

こうした仕入れの効率化によって、売り上げを拡大しつつ、売れ残りや廃棄する商品をおよそ15%、金額にして数億円減らすことができたとしています。

理由③ 物流の効率化

香川県坂出市の物流拠点

3つめは「物流の効率化」です。去年3月、香川県坂出市に新たに物流センターがオープン。敷地面積およそ4万6200平方メートルのこの物流拠点では、常温・低温・冷凍の3つの温度帯の商品を、すべてカバーしています。

内部は機械化を徹底し、できるだけ人手をかけないようにしています。3つの温度帯のさまざま商品を1度にトラックに積み込み、店舗に運ぶことができます。結果的に比較的少ないトラックの台数で対応でき、配送にかかる費用を削減できるとしています。

以前、四国の店舗には、岡山県側にある物流拠点から商品を運んでいましたが、四国側にも拠点を設けることで、瀬戸大橋を渡るコストを年間数億円削減できたとしています。

深夜に商品の配送を行う

さらに、24時間営業をいかし、深夜帯に配送を行うことで渋滞などの影響も少なくなり、物流の効率アップにつながっているといいます。

こうした「24時間営業の継続」、「仕入れの効率化」、「物流の効率化」などが売り上げや利益の底上げにつながり、大幅なベースアップを可能にしたとしています。

(佐藤利行 社長)
「人をコストと考えるか。投資と考えるか。それを我が社は、投資と考えている。『ベースアップをしてよかったね』ではなく、さらに生産性を上がるように循環させないといけない。しっかり皆さん方にご利用していただいて、さらに好循環の社会を目指して頑張っていきたい」。

厳しい価格競争にさらされている一方、食品などの値上がりを敏感に感じている流通業界。さらに人手不足にも直面しているだけに、大幅な賃上げを「投資」ととらえ、生産性を向上させることで、景気の好循環につなげたいという言葉が強く印象に残りました。ことしの春闘は、大手企業では早期妥結・満額回答が相次いでいますが、地方企業や中堅・中小の企業の間で、賃上げの動きがどこまで広がるか注目されます。

  • 遠藤友香

    岡山放送局 記者

    遠藤友香

    2019年入局 岡山市政や県内経済などを担当

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