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「あのスポーツ」×「隠れた資源」=地域課題解決!?

大資本は要らないんです! 1人のアスリートの夢が意外な場所で実現
  • 2023年11月17日

プロ野球シーズンが終了し、サッカーJ2も幕を閉じた今日このごろ(ファジアーノ岡山・来季こそ悲願のJ1昇格を!)。「スポーツの話題は一休みだなぁ」と思っているあなたへ!
11月17日(金)放送の「コネクト」では最先端の「スポーツで町おこし」の現場を取材しました。

そうは言っても「スポーツが地域を盛り上げるなんて常識では?」と思いますよね。プロ野球やJリーグなどプロスポーツのチームがあれば、地元の人たちが一緒に応援したり、まちに誇りを持つようになったりします。さらにチケットや物品を購入したり、周囲の飲食店で「独自解説」を繰り広げるなかで地域が潤ったり、経済効果も少なくありません。

しかし、今どきの「スポーツで地域活性化」はひと味違います!メジャースポーツのように大資本をもとに球団などを立ち上げたり、競技場を新たに作ったりはしません。地域にある「隠れた資源」を有効活用しているんです。しかも「ひとりの熱意から始まった」ケースも。それが、なんと地域の抱える課題まで解決しちゃおうという動きまであるんです!

ダム湖でサーフィンすると世界的なリゾートになる!?

まず紹介したいのが広島県安芸太田町で行われている、ひとりの熱意から始まったスポーツです。町は広島市の中心から車で1時間ほどの県北部にあります。県内で最も人口が少ない町(約5,600人・10月31日時点)を訪ねると、山あいの町には見慣れないウェットスーツを着た、日焼けした人がいました。広島市出身の宮本幸博さん(49)です。

宮本さんに案内されたのが龍姫湖。温井ダム(2001年竣工)によってできたダム湖です。

ボードを足にのせたままダム湖に入った宮本さんはそのまま船に引っ張られ始めました。

ゆっくり船に引っ張られる宮本さん

スピードが出てくると両手でつかんでいたヒモを放し、船が作る波に乗り始めました。

見事な波乗りを披露する宮本さん

「ウェイクサーフィン」というアメリカ発祥のスポーツです。海で行うサーフィンの場合、波が来るのを待ったり、良い波の位置まで移動したりする必要がありますが、ウェイクサーフィンは違います。船の引き波は安定しているため、長時間にわたって波乗りを楽しめるんです。ここ数年、日本でも愛好者が増えていると言われています。

船の引き波に注目

実は宮本さんはプロウェイクサーファーとして活動するアスリート。かつてセミプロの大会で世界ランキング1位になったこともある実力者です。

以前は琵琶湖などで練習をしていましたが、龍姫湖は山に囲まれていてウェイクサーフィンに最適なスポットだと感動したと言います。

龍姫湖は風が吹いても湖面が安定していて、いつでも波に乗りやすい。奇跡のような場所!

宮本さんはことし6月に龍姫湖でスクールをオープン。今では10人以上の常連客がいるそうです。

そのひとり、広島市在住の平川晃さん(63)です。3年ほど前から始めたウェイクサーフィン。なかなかボードに立つことができず練習を重ねるうちに、すっかりハマったと言います。もともと痛めがちだった膝もウェイクサーフィンを続けるうちにどんどん強くなっていったそうで、宮本さんのスクールができてからは1週間に1回のペースで通い続けています。

ウェイクサーフィンは板から転んでもケガのリスクが少ない。特に龍姫湖は波の質も良くて最高!

20年以上「隠れた資源」だった龍姫湖

しかし龍姫湖でウェイクサーフィンを楽しむには課題がありました。実は生態系への影響などが理由で、エンジンつきの船を航行させることは許されていなかったのです。すなわち20年以上「隠れた資源」であり続けました。

そんななか5年前に龍姫湖の可能性に気づいたのが宮本さんでした。「龍姫湖でウェイクサーフィンがしたい!」と実現に向けて、実地調査に協力したり、ダムを管理する国土交通省の担当者や町、地域の人たちと話し合いを続けたり、地道な活動を続けました。

水質を影響が少ない船を輸入するなどして、エンジンつきの船の航行が許されたのは今年になってからです。ダムを管理する国土交通省・温井ダム管理所の藤原寛所長も「安全に、にぎわいを作ることができるならば」と湖面を活用したスポーツの促進に理解を示しています。

写真左:温井ダム管理所の藤原寛さん

龍姫湖でのウェイクサーフィンがやっと認められた宮本さん。今では、ボードの上に立ってパドルをこぐSUP(サップ)やカヤックなどを龍姫湖で行う事業者とともにイベントを開催したり、コロナがきっかけで休業が続く湖畔のホテルの再開をめざしたり、地域観光の活性化に奔走しています。

休業中のホテルを視察する宮本さん

宮本さんの熱意は、地域に古くから暮らす住民にも伝わっています。

佐々木克己さん(86)が生まれ育った自宅はダムの建設によって沈みました。30年以上前のダム建設当時から町おこしに関わってきました。温井ダムがにぎわいをもたらす場所になればとずっと考えてきたと言います。

若い人が減っている町で、町外から来た人がもたらしたヒントがウェイクサーフィン。長年望んでいた町のにぎわいがやっとできそうな気がしている。

ダムが作られたときに思い入れのある家を失った人もいる。そんな歴史も理解しながら、町の人たちを巻き込んでここを良い場所にしていきたい!

宮本さんの夢は安芸太田町をウェイクサーフィンの本場・テキサス州のようなリゾート地にすること。「山あいの町のダム湖をサーフィンの聖地にしたい」。宮本さんの挑戦は続きます。

リゾート地・アメリカのテキサス州にあるポッサム・キングダム湖

岡山県内に国内有数の低酸素トレーニング施設が!?

岡山県内でも「隠れた資源」を活用する取り組みがあります。そのひとつが美咲町の柵原鉱山跡です。

秘密めいた扉の向こう側にあるのが「ハイポキマイン・走路・やなはら」です。鉱山跡の坑道を利用したトレーニング施設です。

ハイポキマイン・走路・やなはら

もともと気密性が高いこともあり、当時坑道で作業する人たちのために酸素を送る必要がありました。30年以上前に閉山されてからは、逆転の発想として酸素量を調整することで「低酸素トレーニング」ができる場所にしました。標高1,000mから3,500mの高地の状態を再現できるとあって、住民の健康増進からトップアスリートの練習場所として使われています。

街なかの駐車場や商業施設でも! 注目はアーバンスポーツ

「あのスポーツで地域活性」の動きは街なかでも始まっています。市街地のちょっとしたスペースでもできるというアーバンスポーツです。

岡山駅からもほど近い岡山市役所です。庁舎の前にあるのは駐車場。

普段の市役所の駐車場

9月に同じ場所で開催されたのが自転車競技・BMXフリースタイルパークの全日本選手権です。

駐車場のスペースを一時的に競技会場にしてしまおうという発想。岡山市はアーバンスポーツで地域を活性化しようと取り組んでいて、3日間で2万人もの人が訪れたそうです。

BMXの試合だけではありません。期間中に近くのショッピング施設では「パルクール」というアーバンスポーツの体験会も行われたました。障害物を乗り越える技やスピードを競う競技で、将来のオリンピック競技としても期待されています。この体験会が開かれた場所も普段は物品販売などの催しをするスペースです。

催し物会場で見事なジャンプ!

パルクールの普及自体には広島県が力を入れています。日本体操協会が指定する強化選手(16歳以下)11人のうち8人が広島県の子どもたちです。広島市内にあるこのジムには60人以上の子どもが習い事として通っています。

住宅街にあるパルクールのジム

取材に訪れたこの日は、小学生から中学生までの7人が練習に励んでいました。

技を習得するのに一つ一つの基礎練習から積み重ねるパルクール。通っている生徒の保護者も「小さいころはどこでも跳んだりはねたりする子どもだったけれど、パルクールを習い始めて『危ないことは危ない』と分かるようになった」と習い事としてもおすすめだと話していました。

このジムも広島市の中心部から車で10分ほどの住宅地の中にあります。6年前にこのジムを設立した広島県出身の荒本英世さんは広島から世界に飛び立つ子ども達を応援し、地域のにぎわいを作っていきたいと語ってくれました。

荒本英世さん

広島がパルクールの聖地になってほしい。自分の力だけで障害物を乗り越えていくパルクールの文化が広島から世界に広がっていけば!

番組ゲストは“トップアスリート”!

他にも、いま中国地方でアツい女子野球など、スポーツで地域を盛り上げる活動を取材したこの番組。スタジオゲストは岡山シーガルズにも所属していたバレーボール女子・元日本代表の栗原恵さんです。地域を盛り上げるためにできることを一緒に考えました。キャスターの小野文惠アナウンサーとの「身長差ナイスコンビ」にもぜひご注目!

  • 山下汐莉

    岡山放送局 ディレクター

    山下汐莉

    入局4年目  スポーツを媒介にして盛り上がる地域の取材、お話を聞くだけでとてもワクワクしました

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