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2020年12月 6日

コラム 大原美術館の"社会還元精神"

12/6放送「いつもそこに“名画”があった」、いかがでしたか? 日美ブログでは大原美術館を創設した大原家が貫いてきた“社会還元の精神”に焦点をあてます。こちらもあわせてどうぞ。

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大原美術館のトレードマークとなっている神殿風の本館建築。設計した建築家は薬師寺主計。薬師寺も児島虎次郎と同じく、大原奨学金に支えられて学ぶ環境を与えられた一人だった。

大原孫三郎の社会事業家としての功績 

大原美術館を設立した大原孫三郎自身は児島虎次郎と出会う前もそれ以降も、西洋美術に対してさほど関心はなかったようです。それが本当に人々のためになるのか、孫三郎にとっては大事なのは自分の好みよりそこでした。今を生きる人々にとって意義があり、明日を生きようとする力になると見極めたならば金を散ずる。実業家・大原孫三郎にあったのは企業経営者として得た利益を公に還元する精神でした。 

その原点は日本で最初の孤児院を岡山で作り、“児童福祉の父”と呼ばれた石井十次との出会いにあったと言われています。医学を志していた自身の将来を投げ売って孤児救済に人生を掛ける石井の情熱に強い感銘を受け、私事のためでなく世のために財を使う使命をかき立てられたようです。

倉敷紡績(現クラボウ)に入社してからは初等教育すら受けられていなかった行員のため工場内に小学校を設立。また孫三郎の父・大原孝四郎が設立した奨学金制度(大原奨学会)を、学びたくても資金がない地元の子弟のために活用しました。児島虎次郎と出会ったのも、この奨学金制度の適用を頼みに虎次郎が孫三郎のもとを訪れたのがきっかけです。虎次郎は孫三郎からの援助のもとヨーロッパに留学することが叶いました。その中で当時の西洋美術の“本物”に触れ、画家として自身が薫陶を受けるのと同時に、なんとか祖国の人たちにもそれらを見せたいと孫三郎の協力を得ながら絵の購入に邁進。それらの作品が1930年の大原美術館設立の礎となったのは番組でもお伝えした通りです。
ちなみに大原美術館のトレードマークと言っても良い、ギリシャ神殿のような外観をした本館の建築。こちらを設計した薬師寺主計(かずえ)もまた、建築家としての道に進む過程で大原奨学会のサポートを受けていました。

大原孫三郎が行った事業の社会的功績を挙げれば枚挙にいとまがありません。現在の中国銀行の前身となる銀行や、中国電力の前身となる発電所の設立。今も市民の健康を支えている倉敷中央病院(設立当時は倉紡中央病院)や託児所の開設。石井十次が始めた孤児院は、石井が亡くなった後も支援しました。

また美に関連したところでは大原美術館以外に、東京・駒場にある日本民藝館への支援が知られています。創設者は柳宗悦ですが、大原孫三郎の寄付によって実現しました。

継承されていく“社会貢献”のこころ

孫三郎の息子で大原美術館2代目理事長となった大原總一郎も多くの社会貢献をしています。たとえば沖縄の伝統的な織物のひとつ・芭蕉布再興のきっかけをつくったこと。第二次大戦中、沖縄の若い女性たちが本土に招集され、倉敷紡績の関連工場で軍事飛行機を組み立てる仕事に従事していましたが、その後終戦を迎えすぐに沖縄に戻ることのできない彼女たちに織りの技術を教えました。そして沖縄にようやく帰れることになった暁には「沖縄の織物を守り育ててほしい」との言葉を贈りました。いったんは途絶えてしまっていた芭蕉布でしたが、彼女たちは總一郎からの言葉を胸に、原料を育てるところから始めて見事復興させました。

また大原美術館の隣接する倉敷国際ホテルのロビーには1963年のホテルの開館に合わせてつくられた、棟方志功が手掛けた作品の中でもっとも大きく、木版画として世界最大とされる大作(幅12.84m・高さ1.75m)が残っていますが、棟方と親交の厚かった總一郎からの依頼によって実現したものです。民藝運動との連携は孫三郎の代からありましたが、濱田庄司やバーナード・リーチなどが飾られている陶器館、芹沢けい介染色館、棟方志功板画館などを大原美術館に加えたのも(現在の工芸館のもとになりました)、また大原美術館の近くに倉敷民藝館を開設したのも總一郎の功績です。

それから倉敷と言えば美観地区で知られていますが、まちなみ保存をいちはやく訴えたのも總一郎でした。 

總一郎の後を継いだ3代目理事長・謙一郎、そして当代の大原あかね理事長は「まちに開かれた美術館」の定着に一層の努力を注ぎ、子どもたちから会社の経営層まで多様な人が大原美術館を訪れ、美から学ぶ機会を積極的につくってきました。

大原孫三郎の口癖は「自分は勉強しない代わりに、他人に勉強してもらう」だったそうです。大原美術館は類まれなる文化財によって私たちに勉強する機会を提供し続けてくれています。


◎大原美術館
岡山県倉敷市中央1-1-15
開館時間:9時~17時(入館は16時半まで)
休館日:毎週月曜日/12月28~31日
※休館日が祝日、振替休日と重なった場合は開館。