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2020年9月27日

コラム 「STARS展」によせて 森美術館・片岡真実館長インタビュー "世界"とは何か

9/27放送では現在東京・六本木の森美術館で開催中の「STARS展」に出品している6人の作家(草間彌生・李 禹煥・宮島達男・村上 隆・奈良美智・杉本博司 ※姓のアルファベット順)の豪華な対談とインタビューを中心にお送りしました。日美ブログでは森美術館館長・片岡真実さんへのインタビューをお届けします。

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撮影:伊藤彰紀

森美術館・片岡真実館長インタビュー

Q. 展覧会のサブタイトルは「現代美術のスターたち―日本から世界へ」ですが、なぜ彼らは世界へ出ていったのでしょうか?

まず、「世界とはどこなのか」という問いがあります。仮に西洋を世界と考えるなら、現代アートの分野でその中心・頂点に向かって行きたかったんだろうと。もうひとつは、日本という狭い世界から出て、別の広い世界に行きたかったという意味もあるかもしれません。李禹煥さんが言っていたのですが、基本的に本展出展アーティストは皆「無限」という世界を見ていると。宇宙的なスケールに向かって制作しているという考え方は面白いと思います。

また杉本博司さんは「人間の眼は生まれて死ぬ時に目を閉じるまでが露光時間。その間、人間は世界と自分との距離を測り続ける」といった主旨のことをおっしゃっています。ある意味この言葉は今回の展覧会と通底しています。つまり世界とは「それぞれの人が一生をかけて目指している何か・どこか」であって、そこに向かって成長や挑戦を続けていくのではないでしょうか。

Q. アーティストにとっての世界との闘い方は時代ごとに違いがあるでしょうか?

1990年代で大きな転換点があったと考えています。明治以降、近代化を目指す中で日本にとっての国際化とは西洋化と同義であり、美術においても西洋を中心に考えられ、その中に自分たちの活動をどう位置づけていくのかということが求められました。
ただ90年代以降、多文化主義の時代になって、西洋にならっていればそれで良いということではなく、それぞれの地域の社会的政治的文脈のもと、独自の美術が育っているかどうかが問われる時代となりました。自分の出自についてきちんと掌握していることが作品をつくる中で重視されるようになり、その上で世界とどう対峙していくか、というふうに変わってきています。

Q. 「日本的」であることは必要?

個別的に見る限り、必ずしもそうではないという気もしています。例えば杉本博司の初期の作品である『ジオラマ』『劇場』『海景』といったシリーズは70〜80年代に認められましたが、日本製ということが前提として評価されたわけではなかった。その後、杉本さん自身が日本の古美術への知識を作品に反映していくようになったので、そういう意味では自ずと日本的な要素が作品の中に入ってきたということはあるでしょう。

李禹煥さんも、かつて東洋的・禅的だという言葉によって評価され続けた時期が長くありましたが、諦めずに自分の表現を続けたことで、30〜40年経った後に日本的・東洋的というよりも固有の評価がなされるに至ったという経緯があります。

村上さんの場合は、世界とは西洋の美術の世界であると考える前提のもとで大変明快に日本的であることについての戦略を持っていました。自身の文化的なルーツを江戸の大衆文化まで遡りながら、さらにそれを現代のアニメや漫画の文脈に重ね合わせ、同時にそれを欧米でいうところのポップアートの流れの中に乗せていくという非常に高度な文脈をつくって「スーパーフラット」という概念を打ち出しました。

Q. 改めて今回の6人の作家から見えてくる、日本の現代アートとは?

日本という枠組みにしてしまうと難しいですが、今回6人の作家による構成としたのは、日本を起点にしたスターでありながら、いかにひとりひとりが独自の道を歩んだのかについて感じていただきたかったからです。日本的な美学としては、江戸時代初期に創建された日光東照宮と桂離宮がしばしば比較されます。大陸的で豪華絢爛な装飾が特徴の東照宮に対し、ミニマルな機能美を追究した桂。そのいずれも日本です。STARS展の6人の中には、大衆文化の鮮やかさをうまく美術の文脈の中に融合させている日光東照宮的な美学を持った作家もあれば、桂離宮的な美学を感じさせてくれる作家もいます。前衛と伝統の両方を持ち合わせた表現という点は大変興味深く、世界から見ても日本文化が持つ稀有な良さと感じられるのではないでしょうか。

Q. これから日本の現代アートはどうなっていくのでしょう?

現代アートとは今起こっている社会の様相を投影するものなので、パンデミックの状況であればそういったことも作品に投影されてくるでしょうし、政治的社会的に複雑な時代になれば、またそれも作品の中に表れていくでしょう。
したがって、これからの日本の現代美術がどうなるかは、日本という国がどういう方向に進んでいくかということと関係してくると思います。不確定な時代にあって先を読むのは難しいですが、1つ言えるのは現代の美術を知るには、自身の国の歴史や社会について深く学んでおく必要があるということ。また、かつてのように欧米との関係だけを見れば良いわけではなく、近隣のアジア諸国とのあいだでどのような歴史が紡がれてきたのかとか、日系ブラジル人の歴史に見るように日本と南米との関係とか、「日本の中にある多様性」について、より目を向けていかないといけない。多様な文化との関係において自分たちが成立しているということへの自覚がより問われる時代になっていくでしょう。
国という枠組みを超えてどういう共通のテーマがあるのかということを世界の人々と議論をしていく「トランスナショナル」な時代が来ますから、そのためにも日本の中から、これまで対峙してこなかったことについてきちんと社会全体で学んでいく必要があると考えています。

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村上 隆
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年 
撮影:高山幸三

 STARS_02.jpg李禹煥
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年
撮影:高山幸三

 STARS_03.jpg草間彌生
《Infinity Mirrored Room―信濃の灯》(部分) 2001年 所蔵:松本市美術館(長野)
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年 
撮影:高山幸三

STARS_04.jpg宮島達男
《「時の海—東北」プロジェクト(2020 東京)》 2020年
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年
撮影:高山幸三

STARS_05.jpg奈良美智
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年
撮影:高山幸三

STARS_06.jpg杉本博司
《時間の庭のひとりごと》 2020年
映像:鈴木 心
英語字幕:ジャイルズ・マリー
制作:小田原文化財団、森美術館
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年
撮影:高山幸三

記事中の画像提供すべて:森美術館


◎「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」
7月31日~ 2021年1月3日
森美術館(東京・六本木)