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愛知の「からくり時計」を徹底調査! 幻の映像も発掘!?

  • 2024年04月23日

今回、マチコエ調査班に寄せられた疑問はこちら。

「かつて愛知には『からくり時計』があちこちにありました。今も残っているんでしょうか。過去と現在の調査をお願いします!」(ペンネーム みゃえちゃん)

からくり時計というと、決まった時刻になると人形が動くあれ。公園なんかにあるイメージですが、名古屋生活3年目の私(記者)は見た記憶はありません…

からくり時計の“いまとむかし”を徹底調査してみました。
(名古屋放送局 河合哲朗)
※NHKに残る貴重なからくり時計の映像も動画で紹介します!

“からくり時計 見たことある?”

まずは名古屋・栄のまちなかで、情報収集です。

「ごめんなさい、全く見たことないかも…」
「お祭りのからくり人形ならわかるけど、時計ですか?」

年代が上がるにつれて「かつてよく見た」という声が聞かれました。

「30年くらい前かな、よく見た気がするね」
「デパートにあったね、人形さん出てくるの」
「今もあるよ大須に、おっきなからくり時計」

「今もある」という情報もいくつかあったので、まずは、“からくり時計の現在”から調査を始めてみようと思います。

 “もう肩 あがりません…”

まず向かったのは、名古屋・大須の「万松寺」。

足立淨佑さん

僧侶の足立さんが「ここです」と指さしたのは、本堂の3階部分。
1日5回、織田信長のからくり人形が出現するのだそう。
織田家の菩提寺(ぼだいじ)として建てられた万松寺らしい仕掛けです。

何度か来ていたが ここにあるとは…

正午ちょうど、思いのほか壮大な音楽が流れはじめ…

出てきました、信長公。
台座に乗りながら、ずずずと、前進してきます。

けっこう迫力あります

どんな動きを見せるのかと観察していると…
しばらく足踏みを続けて、そのままきびすを返し、元の扉の中へと戻ってしまいました。

記者

・・・

足立さん

実はこの人形、本来は手が動くんですよ。数年前から故障で肩が上がらなくなってしまって、今は手首しか動かない。

この場面は、父・信秀の葬儀に現れた若き信長が、位牌に抹香を投げつけたという歴史的なエピソードを再現しているそう。

人形が元気な頃は、投げつける手の動きに加え、抹香が舞う様子を表現したスモークの演出もあったそうですが、今の状態では、どのような場面かが伝わりづらい状況です。

なんとか手首は動かしていた

このからくり時計の設置は30年前の1994年で、10年後には故障が始まり、これまで何度も修理を繰り返しているそう。細かな不具合も含めると、もう100回以上にのぼるとか。

万松寺 足立淨佑さん
「ずっと野ざらしになっている状態なので、劣化も激しいのかなと思います。参拝者や商店街の方からは『続けてほしい』と言われているんですけど、モーターがすぐ壊れてしまったりするので、直したい思いもありつつジレンマもあります」

貝殻の中に隠れているのは…

続いて向かったのは、名古屋港水族館。

正面に到着すると、ひときわ存在感を放つ、巨大なハマグリのような物体が。

貝殻ということは、これ開くのか…

スマホで時報を鳴らしながら、そのときを待ちます。

「ポーン!(時報の音)」

あれ…

こちらはすでに動かないようです。
よく見ると「調整中」の貼り紙がありました…

ただ、港の管理組合に資料を探ってもらったところ、30年ほど前のビデオテープが見つかりました。

港を紹介するPRビデオ

まだ映像を見ていないという酒井課長と一緒に、ビデオを再生します。

予想どおり貝がパカッと開き、中から登場したのは…

出てきた!
記者

これは…浦島太郎?

酒井さん

はい、みなさんご承知の浦島太郎のおとぎ話をモチーフに、貝殻の中からからくり人形が飛び出すかたちで。
手に玉手箱を持ってますから、おそらく“帰り”ってことですかねこれは。

煙が出て 顔が老人に早変わりする仕掛けも

7年前に貝殻や人形を動かす制御部分が故障してしまい、以来、そのままに。
修理も検討されていますが、見積額は2000万円ほどにのぼり、なかなか手が付けられないそうです。

名古屋港管理組合 酒井直樹 水族館事業担当課長
「財政難でなかなか修理に至っていないのが現状で、浦島さん、長らく閉じ込んでいただいているかたちになります。
ただ、コロナ禍を経て入館者も増えてきています。今後修理ができれば、水族館に来る方々に楽しみをもたらすことができるので、早期に直るといいなと考えています」

わずかなすき間が切ない

街を見守り続ける人形も

一方、こちらは逆に、“出っぱなし”です。

藤が丘(名古屋・名東区)の駅前で妖精の楽団と踊るのは、地元ゆかりの戦国武将、柴田勝家。

戻っていく人形たち

かわいらしい演奏を披露したあと、人形たちが時計台の中に戻っていきますが、柴田勝家だけは…

戻らず

この“出っぱなし”の不具合、ことしになってからだそうです。商店街の山田理事長に聞くと、修理費に加え、直せる業者が近くにいないという問題もあるのだとか。

ただ、意外とポジティブにとらえていました。

山田理事長

藤が丘中央商店街振興組合 山田直之 理事長
「人形の劣化とか日焼けは心配になりますけどね、ほかの人形とは違って柴田勝家だけが出てるっていうのも、街のシンボルっていうことで、まあいいかなと。“勝家くんは絶えずみなさんを見てる”ということで」

【動画】今も残るからくり時計の雄姿

教えて!からくり時計の歩み

もっと知りたくなってきたので、強力な助っ人をお願いしました。愛好家の白石さんと竹田さんです。

左:白石廉さん(22) 右:竹田翔悟さん(23)

からくり時計のあるところ全国どこにでも足を運び、巡った数は600か所以上。からくり時計の調査・研究サークル『はまなす団』としても活動しています。

実はおふたりの後ろに見える、「御園座」の隣にあるからくり時計。おととし行われた大規模な修理にも2人が携わっていて、1年がかりの修繕で建設当時の動きを取り戻したそうです。

御園通商店街「白浪五人男」(名古屋・中区) 1992年設置

ただ、こうして残っていくものはむしろ珍しいといいます。

ふたりによると、1984年に東京・有楽町につくられた「マリオンクロック」が火付け役となり、バブル期から90年代にかけて全国でからくり時計ブームに。
しかし、のちに故障の時期を迎えると、維持費などを理由に撤去されるケースが増えたといいます。

最も多いときには全国に1200ほどあったといいますが、今も残っているのは「400弱くらいではないか」とのこと。

白石さん

2000年代のリーマンショックの頃には新たな設置もほとんどなくなったので、もはや減っていく一方。“少子化”みたいなものですね。

竹田さん

同じ時期にたくさん作っちゃったから、同じ時期に寿命を迎えてしまう。今となっては見られなくなってしまったものの方が多い状況です。

【動画】貴重映像!全国のからくり時計たち

発掘!愛知のからくり時計たち

もう見られないからくり時計、見てみたい…

そこで、NHKの過去のニュース映像に写っていないか調査することに。おふたりもかなり興奮しています。

白石さん

テレビ局以外で記録が残ってそうなところはおそらく調べ尽くしてるので、どんなものが出てくるのか…

調べてみると、90年代までは「街にからくり時計が誕生」といったニュースが数多く放送されていました。

【動画】おぼえていますか?愛知のからくり時計たち

◆【名古屋駅前】「テリヨン」(1992年放送)

こちらは、1986年に名古屋駅前の「名古屋ターミナルビル」(今はJRゲートタワーのある場所)に設置されたからくり時計、通称「テリヨン」です。

竹田さん

名古屋の名所がせり出してきて、いろんな人形が出てくるっていうコンセプトのからくり時計ですね。作曲は小森田実さん。SMAPさんにも楽曲提供している有名な方です。

◆【名古屋 栄】ウォッチマン カメラ電気館(1990年放送)

名古屋・栄の中心、量販店の外壁に巨大なからくり時計の姿が。これまで愛好家の間でも、白黒写真1枚しか資料が残っていないとして、“伝説”とされてきたものだそうです。

竹田さん

でかい!これ作るのに1億6000万円かかったとも言われてるんですよ。

白石さん

高さ10メートルくらいあるんですけど、5年間ほどしか存在していなかったとされていて、それだけ資料も少ない。かなり貴重な映像ですね。

◆【愛知 豊橋】ユメックスビル(1992年放送)

2人にとって特別なからくり時計の映像もありました。

豊橋市のビルに設置され、長年動かないまま、去年2月に取り壊されたもの。まだ元気に動いていた頃の映像です。

竹田さん

実は自分たちで修理しようかっていう話もあったんですけど、惜しくも撤去されちゃって。オーナーさんに頼んで、人形は僕らが回収したんです。

回収した人形たち
竹田さん

これが外された直後の人形ですけど、完全に真っ黒ですよね。
いつまでも当たり前にあると思ってちゃいけないんだなって思います。

ふたりは、各地で姿を消しつつある今こそ、からくり時計の前で足を止めてほしいといいます。

名古屋 大須観音の「宗春爛漫」

白石廉さん
「今の時代ってけっこう、時間の余裕がなかったりせっぱ詰まったようなところがあると思うんです。そういう中でも、気持ちの余裕みたいなものが、からくり時計を知ってもらうことで少しでも生まれてもらえればなって。一歩足を止めてみたら、おもしろいものがあると思います」

【おまけ】からくり時計名鑑 

今回の記事で登場した、名古屋に今も残るからくり時計たちのプロフィールを紹介します。ぜひ足を止めてみてはいかがでしょうか。

《万松寺「信長」》
織田信長の歴史的な場面を再現する二場構成。第一場の「抹香事件」は不具合があるが、桶狭間の戦いを前に「敦盛」を舞う信長を再現した第二場は比較的調子よく動いている。人形の制作は、江戸時代から尾張のからくり文化を発展させた人形師の玉屋庄兵衛氏(八代目)が手がけた。

(演出時間:10時/12時/14時/16時/18時)

写真提供:名古屋港水族館

《名古屋港水族館前「浦島太郎伝説」》
※現在は休止中
1992年、水族館のオープンとほぼ同じ時期に、複数の地元企業からの寄付金を受けて名古屋港管理組合が設置した。設置費用は1億3500万円。こちらも人形制作は八代目・玉屋庄兵衛氏。復活したらぜひその姿を見てみたい。

《藤が丘駅前「メモリアルタワー」》
1994年設置。費用はおよそ5000万円。タワーから柴田勝家と妖精の楽団が登場して音楽を演奏する。街のシンボルとして長く親しまれている。

(演出時間:9時~21時の毎時0分)

みなさんの“マチコエ”お待ちしています!

このコーナー「マチコエ」では、みなさんの疑問を投稿フォームで募集しています。 
「これってどうして?」「調べてほしい!」という疑問がありましたら、ぜひ声をお寄せください。
あなたの「マチ」のあなたの「コエ」が取材のスタートです。

  • 河合哲朗

    NHK名古屋放送局

    河合哲朗

    2010年入局。前橋局・千葉局を経て、2015年から科学文化部で文化取材を担当。文学、音楽や映画、囲碁・将棋などを取材。2021年から名古屋局。遊軍キャップ。
    趣味は地方のサウナとレコード屋巡り。泊まり勤務明けに名古屋市内のレコードの入荷状況をパトロールしています。

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