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名古屋・今池に“もういちどミニシアターを”

  • 2024年04月09日

「今池で、もういちどミニシアターを始めます」

名古屋・今池にこの春オープンした「ナゴヤキネマ・ノイ」
去年、40年の歴史に幕を下ろした老舗ミニシアターの元スタッフらが、“もういちどこの街で映画館を始めたい”と、開業を決めました。

街なかの小さな映画館の、新たなはじまりです。

(名古屋放送局 記者 河合哲朗)

「ナゴヤキネマ・ノイ」がオープン

3月16日、名古屋・今池の雑居ビルの2階には、朝からオープンを待つ人だかりが。

ミニシアター「ナゴヤキネマ・ノイ」の開業日は、満員のお客さんであふれました。

「今池から映画館がなくなったことがすごく残念だった」
「絶対に復活すると思ってました」

それぞれが、この映画館を特別な思いで待っていたようです。

街から映画館がなくなっていく

名古屋・今池には個性的な店がたくさんあります。
たくさんのライブハウス、新・古書を扱う書店、ひと息つける喫茶店。
そして、40年以上愛された「名古屋シネマテーク」という映画館がありました。

1982年、全国のミニシアターの“草分け”として開館。
ヨーロッパのアート映画、社会問題を扱うドキュメンタリーなど、大手の映画館が扱わない多様な作品を届けてきました。

多くのファンに“特別な場所”として愛されましたが、去年7月、経営難を理由に、41年の歴史に幕を下ろしました。

「今池のアートシーンのシンボルのような存在」
「学校みたいな場所でした」

長年のファンは口々にその存在の大きさを語り、惜しんでいました。

ミニシアターが上映する多様な作品の中には、興行的には集客が望みにくい作品も多くあります。
配信サービスの台頭など、映画の鑑賞方法も多様化する中、経営環境は厳しさを増しています。

名古屋では去年、ミニシアター「名演小劇場」も閉館。全国を見ても、東京の「岩波ホール」や大阪の「テアトル梅田」など、歴史あるミニシアターが相次いでなくなっています。

時代の変化の中で、今池も「映画館のない街」になろうとしていました。

“もういちどミニシアターを”

2023年12月 開業発表の説明会

ニュースが飛び込んだのは、閉館から4か月がたった頃でした。

運営法人を新たにして、もう一度、同じ場所で映画館を始めると、元スタッフらが決断したのです。

背中を押したのは、街の人たちのことばでした。

ナゴヤキネマ・ノイ 共同代表 永吉直之さん
「この4か月の間ずっと、『やらないのか』『始めないのか』『映画館がないとさみしい』という声を多くいただいたことが後押しになりました。
一方で、また同じようなこと(経営難)が起きるんじゃないかと、危惧されていると思います。ごもっともだと思います。ただ、多様な映画を見ていただく場所は必要だと思っています。何万人ものお客さんが楽しむ作品もあれば、ミニシアターで1日に10人が楽しむような映画もあります。ナゴヤキネマ・ノイは、そういう多様な映画環境の中に入っていける場所でありたい」

開業にあたって立ち上げたクラウドファンディング。
全国の映画ファンから思いが届きました。

当初の目標額1000万円を大きく超え、2700万円余りが集まり、老朽化が進んでいた内装や設備の改修費用に充てられました。
音響設備は、地元のライブハウスのスタッフがメンテナンスを施すなど、たくさんの人の思いがかたちとなって、映画館が生まれ変わっていきました。

「多くの方の期待がこうして形になっていくことで、“みなさんの映画館でもある”という気がしてきます。映画館は、いろんな人の気持ちの重なり合いの中にあるもの、社会の中にあるものだということをより強く感じるようになりました」

張り替えられた座席 フレームは再利用した

オープン2日前、うれしいサプライズもありました。

名古屋駅・西口の老舗ミニシアター「シネマスコーレ」の木全代表が激励に訪れました。
名古屋の街の東西で、ともに映画文化を担い続けてきた存在です。

「ちょっと見させてもらいますよ」

そういって館内を見て回り、真新しくなった座席の感触をうれしそうに確かめていました。

シネマスコーレ 木全純治さん
「いや、うれしいというより、それを通り越して『よくやったな』って思いますよ。お互い、魅力ある場所として存在していかないといけない。これからもライバルとして切磋琢磨(せっさたくま)していきたいと思います」

“予想しないものとの出会いを”

「ナゴヤキネマ・ノイ」、初めての営業日。

訪れたお客さんたちが話していたのは、“この場所を大切にしていきたい”という思いでした。

「またここで、映画見られるとはね。大事に“育てる”っていうと、なんかあれですけどね。でも、そういう気持ちでいます」

「一度失ってしまったものがまた戻ってきた以上、もう二度と失ってはいけないという気持ちはすごく大きいです」

初回の上映時刻、午前10時50分。
永吉さんたちスタッフは「ごくふつうに始めましょう」とだけ確認し合い、開業のあいさつはせず、映写室へ入りました。映画館のある日常が街に戻りました。

名古屋・今池で、もう一度歩みを始めた小さな映画館。
その名前「ノイ」の意味は、ドイツ語で「新しい」です。

ナゴヤキネマ・ノイ 永吉直之さん
「映画を見るというか、映画と出会っていただく場所であってほしいです。見たいものと出会える場所であり、予想をしないものと出会う場所でもあってほしいと思うんです。
ここからが本番なので、いい映画をたくさん見ていただけるようにしたいと思います」

映画文化を担うミニシアター

ミニシアターのスクリーン数は、国内の映画館全体の6.5%にすぎません。
一方、国内で公開される作品のうち半数以上は、ミニシアターでしか上映されていません。
※コミュニティシネマセンター刊『映画上映活動年鑑2022』より。

つまり、全体のわずか6%ほどのミニシアターが、公開作品の半数を紹介しているという実情があるのです。

ミニシアターが街に1つあるということは、その地域の文化にとって、とても大きなことです。
そうした場所は、“当たり前にある”のではなく、映画館を営む人たちや、そこに通う人たちの強い思いによって存在しています。

  • 河合哲朗

    NHK名古屋放送局

    河合哲朗

    2010年入局。前橋局・千葉局を経て、2015年から科学文化部で文化取材を担当。文学、音楽や映画、囲碁・将棋などを取材。2021年から名古屋局。遊軍キャップ。
    趣味は地方のサウナとレコード屋巡り。泊まり勤務明けに名古屋市内のレコードの入荷状況をパトロールしています。

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