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“耳が聞こえないからバンドやってます”

  • 2024年04月18日

“耳が聞こえないからバンドやってます”
そう語るロックバンドがあります。

「BRIGHT EYES super-duper(ブライトアイズ スーパーデューパー)」は、メンバー4人のうち3人が聴覚に障害があります。

「耳が聞こえなくても音楽は楽しめる」と始めたバンドは、活動35年を迎えています。
ステージに立ち続ける姿や、ライブ活動にかける思いを取材しました。※記事末尾に動画
(NHK名古屋 記者 田川優)

手話ロックバンド「ブライトアイズ」

名古屋のライブハウスで、会場を盛り上げるこのバンド。
実は、ドラム以外の3人は耳が聞こえません。ボーカルは歌とともに手話で歌詞を届けます。

手話ロックバンド「BRIGHT EYES super-duper」。
バンド名には、“耳が聞こえなくても瞳がある”という思いが込められています。

集まった観客は、リズムに合わせて体をゆらしながら演奏を楽しんでいました。

観客
「楽しいです!」
「一緒に歌いたくなる気持ちがありました」

“先生、バンドがしたいです”

バンドの結成は、メンバーのろう学校時代にさかのぼります。

リーダーの木村正明さん(54)

リーダーでギターの木村さん。
10代のころ、テレビで見たミュージシャンの姿に憧れて、ギターに興味を持ちました。

“耳が聞こえなくても音楽を演奏してみたい”。
その思いが強まり、すぐに、名古屋のろう学校の友人を集めて音楽クラブを作ろうと動き出します。
学校側に“じか談判”したといいますが…

木村正明さん(リーダー)
「はじめに『音楽クラブを作りたい』って学校の先生にお願いしたら、『それは無理』って言われましたね」

それでも何度も働きかけ、条件の1つとして出されたのが、顧問の先生を見つけること。
生徒たちの思いに賛同してくれたのが、当時、教師としてろう学校に赴任したばかりの成田さんです。

ドラムの成田佳総さん(59)

活動を見守るうちに、自身もドラムとしてバンドに参加するようになりました。
唯一の耳の聞こえるメンバーです。

成田佳総さん(ドラム)
「僕は中学校から大学までずっとバンドをやってたんですが、ろう学校に赴任したから音楽とは関係のない学校生活なんだろうなって思っていたんです。そんなところに木村くんたちが“クラブを作りたい”って頼んできたのを覚えています。はじめは、聞こえないのに音楽をやりたいっていうのがあんまり意味が分からなかったけど、強い気持ちを感じて、引き受けることにしました。そしたら、クラブ活動は木曜日の1時間だけだったんですけど、彼らは毎日練習したいって言って、朝も夕方も部活みたいにやってましたね」

ろう学校時代の木村さん(左)

“ところで、どうやって演奏する?”

ただ、いざ演奏を始めてみると、リズムを合わせるだけでも苦労したといいます。
ドラムの成田さんを囲むようにして立ち、お互いの動きを目で見て確認します。

成田佳総さん(ドラム)
「はじめは、1、2、3、4って僕がカウントを数えながら、みんなが一緒に手の動きを合わせる感じで、リズムを覚えていきました」

さらに、メンバーが意識したのは「体で音楽を感じること」です。

ドラムやベースの低音の振動や、背中から感じる大音量のスピーカーの響きを手がかりに、少しずつ演奏の一体感を身につけていきました。
ボーカルの鈴木さんは、自分が歌う音程が正しいかどうかを、ドラムの成田さんとマンツーマンで確認し合い、メロディーを覚えていきました。

こうした作業を地道に続けていき、1曲を覚えるのに1年かかることもあったといいます。

ボーカルの鈴木俊祐さん(52)

ライブ活動を重ねるうち、“自分たちが楽しむ”だけでなく、“何を届けるか”も考えるようになり、聴覚障害者としての思いや、手話の楽しさを伝えるオリジナルの曲も制作しています。

活動は35年続いています。
成田さんは、メンバーと演奏をしていると、耳が聞こえなくてもそれぞれの感じ方で音を感じ取っていることが伝わってくるといいます。

成田佳総さん(ドラム)
「それぞれが音の感じ方を自分の物にしている。純粋に楽しいですよね。なんか、演奏がぴったり合ったとき『あー楽しい』って僕も思いますね」

手話ロックバンドが届けるもの

先月30日、バンドは能登半島地震のチャリティーライブに出演しました。
40分間のステージでは、力強い歌声と手話でメッセージを届け、大迫力の演奏を響かせます。

ベースの山本智久さん(51)

ライブ中には、観客に手話を教えるパートもあります。
「アイ・ラブ・ユー」や「友だち」などの手の動きを教わりながら、観客たちも手話で一緒に歌い、会場が一体感に包まれました。

ライブを企画した男性
「すごいね。おなかにドンドン来ましたよ。ガンガンきましたよね。ロックでした」

聴覚に障害のある観客
「元気をもらえるし勇気ももらえる。耳が聞こえる聞こえないに関係なく、自分のやりたいことをやって幸せになる権利があると思いました」

“35年も活動を続けられているのはなぜですか?”
メンバーへのインタビューでそう聞くと、「好きだから」「楽しいから」と話していました。
これからも、好きな音楽を、楽しく演奏していきたいといいます。

木村正明さん(リーダー)
「“聞こえないから音楽は無理”ではなくて、一緒に楽しめるということをみなさんに知ってほしい。あと10年、20年、30年、ずっと続けていくのが目標です」

動画でご覧いただけます。

  • 田川優

    NHK名古屋放送局 小牧支局

    田川優

    2021年入局。名古屋局が初任地で、愛知県警担当を経て小牧支局。地域の話題を幅広く取材しています。趣味は将棋。勝負の人間ドラマに魅せられています。

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