「フィリピンパブ」で“多文化共生”描く映画 舞台は春日井
- 2023年12月11日
愛知県春日井市の市政80周年を記念して公開された映画、『フィリピンパブ嬢の社会学』。
撮影の多くが春日井市で行われました。
舞台は「フィリピンパブ」。
そこで働く女性との恋を通じ、「多文化共生」のあり方を描いています。
実はこの物語、春日井市の男性の実話なんです。
その思いを取材しました。
(NHK名古屋 記者 田川優)
映画『フィリピンパブ嬢の社会学』って?
物語の主人公は、春日井市の大学院生。
研究テーマに「日本で暮らすフィリピン人女性の現状」を選びます。
日本での暮らしぶりを知ろうと、たどりついたのが・・・
フィリピンパブでした。
通いつめるうちに、主人公は1人の女性と恋に落ちます。
共に時間を過ごす中で、日本で暮らすフィリピン人女性が抱える問題や、たくましく生きる姿を知っていく物語です。
この映画…実話なんです
この主人公、モデルがいるんです。
原作者で春日井在住の中島弘象さん。
フィリピンに興味を持ったきっかけは、2009年。
春日井市にある中部大学の3年生だった時、「多文化共生」を学ぶゼミで「高蔵寺ニュータウン」に住むフィリピン人女性たちと出会ったことでした。
中島弘象さん
「出会ったのは、“ふつうのおばちゃんたち”だったんですけど、外国人であるが故に、例えば、在留資格の問題やことばの問題、子どもが通う学校とのコミュニケーション、仕事を見つけるのが難しいことなど、今まで僕が日本人として生きてきた中では感じたことのない“壁”を感じているようでした。自分が全然知らない世界が、まだたくさんあることを知りました」
そんなある日、高校の先輩に連れられて行ったのがフィリピンパブでした。
中島弘象さん
「はじめは『そんな危ないところ行きたくないな』って思ってたんですけど、先輩に『だまされたと思って、いいから行こう』と言われて、いざ行ってみたら楽しくて」
研究のためにと、通い続ける中で出会ったのが、後に妻となるミカさんです。
ミカさんとの交流を通じて知ったのが、日本で暮らすフィリピン人女性の現実です。
フィリピンの家族に仕送りをするため、異国の地でさまざまな問題に直面しながらも前向きに暮らし、女性どうしで支え合いながら生きる姿だったといいます。
中島弘象さん
「雇用主との契約で、月の給料は6万円、休みは2回で、『外出しちゃダメ』とか。目の前にいる小柄な彼女がそれを背負っているなんて、信じられないなって思いましたね」
時間を重ねる中で、交際に進展した2人。
当初は、周囲に「フィリピンパブの女性とつきあった」と伝えると、「だまされているのではないか」と反対の声もあったといいます。
家族や友人には、ミカさんを直接紹介しながら、理解を深めていきました。
中島さんが伝えたい「多文化共生」のかたち
中島さんは、こうした自身の体験を1冊の本にまとめました。
その原作を読んだ白羽弥仁監督が映画化を熱望し、春日井市の「ご当地映画」としての製作が決定。
地元の企業も出資するなど地域が一丸となった作品が、11月、全国に先駆けて愛知県で公開されました。
上映イベントで白羽監督は、「“かわいそうな存在”として描かれがちな日本で暮らす外国人労働者を、ふつうに生活や恋愛を楽しむ、“ひとりの女性”として描いている。多文化共生のリアルが伝わる物語だ」と思いを語っていました。
映画の中で主人公の男性は、自分がかつて抱いていたフィリピンの女性たちへのイメージが、正しいものではなかったと、心境の変化を語ります。
「“悪い日本人にだまされたかわいそうなフィリピンの女の人たち”というイメージとあまりにかけ離れているかと思います。そう思うことがもう差別しているんじゃないかと。彼女たち、明るいし、たくましいです」
(映画「フィリピンパブ嬢の社会学」より 主人公のせりふ)
英語字幕も付いた上映回では、フィリピン人のお客さんの姿も目立ちました。
映画を見たフィリピン人女性
「フィリピンの家族のために、日本で頑張って働く。私も映画の中の『ミカ』と同じ気持ちです。フィリピンパブで働いているというと、悪いイメージを持たれることもあるけど、そんなことないと理解してほしい。この映画が作られたことははありがたい。いろんな人に見てほしい」
映画を見た日本人男性
「僕たち日本人も、日本で暮らす外国人のことを、わかっているようでわからないまま、表面的なところだけを見ているのではないかと感じました。日本で苦労されている人や、しんどい思いをされている人がいるのを理解して、共に生きていかなくちゃと真剣に思いました」
中島弘象さん
「“わからない”ことに対して、1つのイメージを持って、まとめて考えてしまうところって、やっぱりあると思います。知らず知らずのうちにバリアーみたいなものを張ってしまうこともあると思うんですけど、一歩踏み出してみると、わからないと思っていたものの本当の姿が見えてくる。世の中にはいろいろな人がいて、中には自分のことを大切に思ってくれる人もいる。一歩進んだ先に見えるものを大事にしてほしい」