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NHK長崎 世界新三大夜景ではなくなる? 坂の町と人口減少

  • 2022年11月10日

夜景観光の足元では

長崎市に観光に来たら、日中は出島やグラバー園、中華街を散策し、日が暮れたら夜景を見に稲佐山など高台へ・・・。
そんなイメージはありませんか?

世界新三大夜景の1つにも選ばれている長崎市の夜景。
ですが、人口減少が大きな課題となっている長崎では、人口が減れば夜景にも影響が出るのではないかと指摘されています。

坂の町として情緒あふれる長崎ですが、その反面、そうした坂が人口流出につながっている側面があります。
坂の町の実態を取材してみました。

人々を魅了する夜景

観光客に人気の長崎の夜景。
香港やモナコと並んで世界新三大夜景にも選ばれ、長崎市の重要な観光資源の1つになっています。

鍋冠山から見える夜景

長崎港を囲むようなすり鉢状の斜面地が奥行きをもたらし、この景観を作り出しています。

家族旅行

「すばらしいです」
「本当にきれいです」。
「北海道から来たんですけど、函館も見てますし、
 札幌の藻岩山の夜景もきれいでしたが、長崎も素晴らしいですね」。
「港があるのがいいと思います」。

長崎市在住

「何十年も前は見たことあるけど、こんなにきれいだったんですね。
 とてもきれいです。長崎を自慢できますね」。

ところが、この夜景の明かりが減ってしまう可能性が指摘されています。

人口減少で夜景の明かりが減る?

東京大学と長崎大学の共同研究では、2040年までの30年間に斜面地の街灯が7割から8割減るという結果が出ています。

その原因は、人口減少です。

長崎県内の人口の3割余りを占める長崎市の推定人口はことし初めて40万人を切りました。
死亡した人の数が生まれた子どもの人数を上回る「自然減」が多いほか、
転入より転出が多い、いわゆる「社会減」の割合も、直近の5年で全国の自治体の中で1位から3位までに入っています。

観光資源である長崎の夜景について、まちづくりなどに詳しい専門家はそうした人口の変化を反映していると指摘します。

「シンクながさき」菊森淳文理事長

「シンク長崎」菊森淳文理事長
「夜景の形が長崎市の人口の形とも言えるわけになるので、反映しているということも言えるわけなんですね。どうしても人口が集中するところが明るくなるということも否定できないということで、今後、人口動態を反映してその明るいところが移転していくという可能性は否定できないと思います」。

夜景を作る斜面が逆に・・

なぜ、長崎の人口流出は深刻なのでしょうか?

市街地のおよそ7割を斜面地が占める長崎市。
人口流出の原因の1つに平地が少ないため、平地の家賃が高いことが指摘されています。

斜面に建ち並ぶ住宅

また、高齢化が進む中、高齢者にとって斜面地での暮らしは足腰に大きな負担となります。

「シンク長崎」菊森淳文理事長。
「かなり階段と坂が多いので、どうしても高齢者には住みづらい環境になってしまうと思うんですね。私自身もそう感じているぐらいですから、もっと高齢の方はそうだと思うんですね。
ですから、ある程度、長崎市内に移動、移住、つまり平地に移住ですね、あるいはその他の市・町に移住したいという欲求があってもですね、それも不思議はないかなと思う時もあります」。

斜面地が直面する現実

少子高齢化も進む中で、斜面地の現状は深刻です。

立山1丁目の自治会長を務めている井村啓造さん、76歳です。

井村啓造さん

父親に続いて親子2代で自治会長を務めるなど、この地で生まれ育ちました。

井村さんが子どものころは周りも子どもが多く、映画のない時代に幻灯会をしたり遊戯会をしたり、にぎやかだったといいます。

しかし・・・。

井村啓造さん
「眺望はいいけれども、実際に生活するとね。もう、言い表せないですね。
 この辺もみんな空き家ですね。そこも空き家、空き家、空き家。
 予備軍と言ったら悪いですけど、もう75歳以上の人も多くて、この地区は10年、15年したらほとんど、もう厳しいんじゃないかというところですね」。

少子高齢化が進む中、今では小学生は10人未満となり、高齢者の割合がその多くを占めています。
この地域は急傾斜の階段や車が入れない細い道が多く、買い物や病院通いも大きな手間がかかります。

急傾斜の階段

ごみ出しも、可燃ごみは近くのごみステーションに出せるものの、そのほかのごみは自分で遠くの収集所に持って行く必要があるなど、どうしても暮らしにくい側面があるといいます。

昭和40年頃には200世帯あまりあったものの、今では半分以下に減り、転出者が後を絶ちません。
取材に訪れたわずか3日前にも、井村さんのご近所さんが引っ越していったといいます。

井村啓造さん
「この方は駐車場から50メートルくらいと近かったが、それでも健康に不安だと。引っ越し先の場所からは市の中心部まで出てくるのに1時間かかって不便だって言いながら、それでもそちらの方が安心して老後を迎えられると。そういう安心をやっぱり求めるんでしょうね。やはり、車が入らないところはだんだん、くしの歯が欠けるように住人が減っていきますね」。

子どものころからこの地域で暮らしてきた井村さん自身、老後を考えるとこのままこの場所で暮らしていくのは厳しいと、市内の平地にマンションの1室を購入しました。
2、3年後に建設工事が終わったら坂を下り、今の家はゲストハウスなどとして活用したいと考えています。

井村啓造さん

井村啓造さん
「若い時はね、こんな坂はどうでもないなと。子どもの頃はもう跳んで行ってたんですけど、だんだん、年をとってくると、特に70を過ぎると、おっくうになってきますね。できれば住み続けたかったけど、それも限度がありますから。夫婦そろってずっと仲良く生活するということを考えたら、やっぱり中心部で、車いすでも生活できる場所がいいかなと」。

【取材後記】

取材で訪れた立山の公民館から見える長崎港は絶景でした。
ですが、周りはすぐ下に降りるのも一苦労、というような厳しい傾斜の階段ばかりです。

取材の中で、斜面地では階段を降りる方が楽なので、買い物の後は自宅より高い場所にあるバス停で降り、階段を下って家まで帰ると聞いて驚きました。

今回は夜景を切り口にした取材だったので、井村さんにも「人口が減ると夜景もなくなる」説について尋ねてみました。
返ってきた答えは、「付け焼き刃で街灯をつけて夜景を保つより、斜面地に生活用の道路を通すとか、もっと市民の暮らしに沿った政策をしてほしい」という、切実なものでした。

確かに長崎の夜景は美しく、見た人の心を楽しませてくれます。
ですが、少子高齢化が進む中で、その夜景を作り出している人々の営みは深刻な状況にあるのだと、突きつけられた取材でした。

今回は人口減少の課題ばかりを取材しましたが、今後、人口減少対策につながる取り組みも取材していきたいと思います。

  • 小島萌衣

    NHK長崎放送局 記者

    小島萌衣

    2015年入局
    沖縄局、佐世保支局を経て 現在は長崎市政や原爆・平和関連の取材を担当

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