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宮崎の不思議な地名「トロントロン」その由来を辿る

  • 2023年08月03日

視聴者から寄せられた疑問、質問に答える「てげ探」。今回の質問はこちらです。

横浜市 中野さん
「川南町の『トロントロン』という地名は、いつ頃、どういう経緯で名付けられたのか」

なんとも愛らしい響きの印象的な地名。県外から来た人は「そんな地名が本当にあるの?」と思ってしまう地名の謎を解き明かします。

まずは川南町で聞き込み!

まずは、川南町へ。この町の中心部が「トロントロン」と呼ばれる地区です。町を巡ると、いろんな所にトロントロンの文字が。

まずは町の人に聞き込みです。

いい名前ですよね。トロントロンという響きが。

昔はこの坂がタラタラとした坂で、“トロントロン”と上っていった説を聞いたことがあります。

生まれたときから(トロントロン)なのでなんの疑問もない。正式かどうか分からないけど、信号のちょっと先の左側に石碑みたいな感じでトロントロンのいわれみたいのがあります。

36年前に建てられた石碑に記されたふたつの説

早速、教えてもらった場所に向かいました。

この石碑によると、二つの説があるということです。

36年前に建てられた石碑に記されていたのは、江戸時代の参勤交代で大名が水を飲む休憩地として有名になり、 湧き水の「ドロンドロン」という音が「トロントロン」となった説。

西南戦争で、西郷隆盛の軍がこの地で休息を取った際に高い所から流れ落ちる湧き水の音を聞き、それが「トロントロン」となまって伝わったという説。

ふたつの説に共通しているのは「湧き水」です。湧き水が出そうな場所はないか。観光マップを見てみると。

ありました!トロントロン地区から1キロほど北に「川南湿原」の文字が。早速、訪ねてみました。

"トロントロン"と水が沸く川南町

湿原を管理する松浦 勝次郎さん。水が湧き出している場所を案内してくれました。

柳原記者

どこから湧いているんですか?

松浦さん

フェンスのすぐ先です。全体で1分間に約1トン弱湧いています。水量が非常に豊富なので、植物だけじゃなく生物もたくさんいるんですね。

川南町では尾鈴山系の地下水に恵まれ、各地で湧き水が出ているということです。豊富な湧き水のおかげで、ここにしかない希少な植物や虫たちを見ることができるんです。

町によると、この湿原からトロントロン地区へはゆるやかな坂になっているため、地区のほうにも地下水が流れ、湧き水となっていた可能性があるということでした。

実は、先祖が250年前から川南町に住む家系だという松浦さん。「トロントロン」について、こう証言をしてくれました。

松浦さん

私が先祖から聞いてるのは、湧き水があって、それがトロトロ流れていたと。それでトロントロンという地名が付いたと聞いています。昔の人の表現でしょうね。豊かな表現のしかただと思います。

今回、街なかにあるトロントロン地区で湧き水が湧いている様場所は確認できませんでしたが、松浦さんはアスファルトで舗装されたり、住宅などが建ったりする以前、実際に湧き水が出ているのを見たことがあるということでした。

湧き水の音が関係していることはどうも間違いなさそうです。

ただ、石碑で紹介されていた「きっかけ」については、懐疑的な見方もあります。

たとえば西南戦争に関しては、当時の資料から、薩摩軍は逃げるのに必死で、ここで湧き水を見ながらゆっくり休憩することはなかったはずだという指摘があります。

いつから「トロントロン」と呼ばれていた?

では、いつから「トロントロン」と呼ばれていたのでしょう。その答えの手がかりを求めて役場に向かいました。

川南町総務課情報統計係  中村 憲一郎 係長に見せてもらったのは、1908年、明治41年に当時の川南村議会に出された文書。

中村さん

川南村の区長規定を設ける議案が出されたという記録が残っているんですが、第十四区の中に『トロントロン』という地区を含みますよ、ということが記載されています。公的な資料で私たちが追えたところで一番古いのがこちらになります。

町によると、当時、トロントロンは正式な地名ではなかったものの、この地域を示す通称として、すでに町の公文書にも記載されていたということです。

こちらは、大正6年の警察署の管轄を記した文書です。漢字表記が多い中、「トロントロン」と書かれています。

またこちら。郵便局や電報など通信に関する住所などを記した国の文書でも「トロントロン」の記載がありました。

結局いつからトロントロンと呼ばれるようになったのかはわかりませんでしたが、1908年には公文書に記述があったためこれよりもかなり前から根付いていたとみられます。

この「トロントロン」と呼ばれている地区ですが、実は、現在の正式な字名は川南や平田などとなっています。

ただ「トロントロン」の名は自治会組織の名称として残り、地元に愛され続けているようです。

地元に愛される「トロントロン」

さらに、川南町では、この「トロントロン」という特徴的な地名を活用し、まちおこしにも取り組んできました。

こちらは、その代表格とも言える「トロントロン軽トラ市」です。毎回、出店台数は100台を超えて、日本一の軽トラ市と言われています。

また、トロントロンの名前を使って商品もたくさん作られています。そのひとつを生産している場所を訪ねました。

柳原記者

“トロントロン”にまつわる 商品を作っていると、お聞きしましたが。

三浦さん

このトロントロン牛乳とトロントロンヨーグルトというトロントロンという名前が付いた商品を作っています。

川南町の牛の生乳のみを使用したこだわりの商品です。味見をさせてもらうと。

柳原記者

非常に甘みがあって飲みやすいですね。トロントロンしているような気も・・・

三浦さん

“トロントロン牛乳”という名前を見ただけで珍しくてお客さんが寄ってきます。展示会に行くと、必ずお客さんがやってきて、『1杯飲ませて下さい』とか『食べさせて下さい』となるので、“トロントロン”という名前はかなり強いと思います。“トロントロン”という名前を胸に県外、全国、海外もできればやって行きたい。

川南町では口てい疫で一時、すべての牛が処分されました。三浦さんは復興に向けて、地元の酪農家と二人三脚でトロントロン牛乳を製造してきたそうです。

町の歴史とともに語り継がれ、まちおこしにも一役かってきたトロントロンという地名は、今後も多くの人に 愛され続けるだろうと、取材を通じて感じました。

  • 柳原 章人

    宮崎コンテンツセンター

    柳原 章人

    前任地は上海支局。日本語(関西弁)、英語、中国語の3か国語を話せます。

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