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茨城 スーパーに危機? 物流の2024年問題回避へ 現場を取材

2024年問題 現場は今 その1 物流
  • 2024年04月04日

働く人の健康を守るため進められている働き方改革。時間外労働の適用が猶予されていた運輸、建設、医療の業種でも4月から規制が適用されました。一方、サービス縮小などの動きも相次ぎ、いわゆる「2024年問題」が懸念されています。NHK水戸放送局では「2024年問題 現場は今」と題して、複数回のシリーズで対策の現場を取材します。初回は「物流」。

「この時間に商品を持ってきてください、が成り立たなくなるー」。食品スーパーの担当者は危機感をにじませました。物流の「2024年問題」回避へ、茨城県では全国的にも注目される運送会社やスーパーを巻き込んだ取り組みが進められています。
(水戸放送局 記者 戸叶直宏)

NHKプラスで配信中 4/11(木) 午後7:00 まで

物流の「2024年問題」とは

全産業の平均と比べ長時間労働が続いていたトラックドライバー。

国は6年前に働き方改革関連法を成立させましたが、時間外労働の上限規制は「業務の特殊性」などを理由に猶予されていました。

一方、4月からは規制が適用され、上限は年960時間になりました。

あわせて1日の拘束時間も最大16時間から15時間に。

民間のシンクタンクによりますと、この影響で輸送能力は需要に対して6年後、約35%減るという試算もあります。

配送できない 危機に直面した農業法人

実際、影響は出始めています。

筑西市にある農業法人は約50品目の有機野菜を生産し、運送会社が県内外に出荷してきました。

ところが、去年春、「ドライバーの勤務時間短縮」という理由で、最大の取引先である大型スーパーに野菜が出荷できなくなる危機に直面しました。

「ドライバーの拘束時間が規定よりかなりオーバーしてしまうんで配送できないっていうようなことを言われました。私が『なぜ行けないんですか』って質問したら『2024年問題です』って言われてしまい…」農業法人レインボーフューチャーの大和田忠社長はそう語ります。

別の運送会社を見つけ大型スーパーとの取り引きは継続できましたが、運送コストは3割ほど増加。商品への価格転嫁が必要な状況です。

大和田忠社長
配送会社でもやっぱり遠いところには行かないっていうところがかなり多くなったので、また探さなくちゃならないっていうことで…。やっぱり配送のことは相当気にしてます。どうやってお客様に納得してもらい商品価格に乗せられるかがこれからの課題です。

物流効率化へ!運送会社やスーパーの取り組み

こうした中、業界の慣習を見直し、効率化を進めようという取り組みが県内で始まっています。

取材に訪れたのは桜川市にある食品スーパー「カスミ」の自社倉庫。全国でも注目の取り組みが進められています。

鉄板にチョークで書かれているのは競合他社名。ここでは他社の商品も保管されているんです。

業務を仕分ける

どんな狙いがあるのか、簡素化したイメージにしました。

これまでは、運送会社がそれぞれのスーパーごとに異なる物流倉庫を回って商品を降ろしていて、走行距離や勤務時間が長くなる要因でした。

今回の取り組みではまずスーパーの倉庫を運送会社が借りて、いったん他のスーパーの商品と一緒に、この拠点に集約します。その結果、県外など遠くからくる運送会社は、この拠点まで運べば済むようになり、ドライバーの勤務時間を短くできます。

拠点に集約された商品は、県内のそれぞれのスーパーの倉庫へ地域の運送会社と協力して配送します。

遠方から県内の拠点まで商品を運ぶ会社と、拠点からそれぞれのスーパーの倉庫へ運ぶ会社とで、業務を仕分けることで効率化しようというのです。

取り組みの仕掛け人、筑西市の運送会社「三共貨物自動車」の青木英樹さん。自身もドライバーとして働いてきた中で、非効率な業界の慣習を見直そうと考えました。

青木英樹さん

青木英樹さん
同じ場所に別々の会社のトラックが3台も4台も行くんです。それを効率化したいなと。要はその3、4社の会社を1社でいけば1回だけで済みますよね。効率化を求めて積載率を上げる。それができれば無駄がなくなるなと思ったんです。

といっても、この業界ではこれまで荷主の発言力が強かった上、それぞれの運送会社が配送計画を立てている中で、荷主の納品にあわせて運送会社どうしが効率的に稼働できるように「すりあわせ」をするのは一筋縄ではいきません。

10年ほど前に取り組みをスタートしたものの、軌道に乗り始めたのはここ数年だということです。

苦労して仲間の運送会社を集めていた状況を変えたのが、働き方改革の大波でした。

2024年問題という共通の課題の中で、青木さんの取り組みに参加する県内外の運送会社が相次ぎ、現在は94社に増えました。

この日は群馬県の運送事業者「北関東トゥエンティワン流通事業協同組合」の紺野匡宏さんが青木さんの元を訪れていました。この取り組みに参加して群馬からこの物流センターまでを担当するドライバーの勤務時間を短くすることができたと言います。

紺野匡宏さん
この業界ってまずは自分たちで解決する、とか、貸し切ったトラックでお客様の荷物を自分たちで完結して運ぶっていうのが従来の仕組みでした。ただ、こういう取り組みがあればコストも抑えられるし、労働問題の解決にもつながるから両方にとっていい。他のエリアにも水平展開で推奨していって頂きたい。

青木英樹さん
地元で農家さんとか小さい企業さんとかから配送ができないという声が多く寄せられています。2024年問題となって5年くらい前からが相談が増え始めて、ここ直近では去年今年が一番多い、ほとんど月に3、4件、相談がきてます。

「家族との時間が作れた」

取り組みによって効果も出始めています。

青木さんの会社に入社して5年目の五月女美保さん。

五月女美保さん

以前勤務していた別のトラック会社では、入社時の条件が守られず、1日16時間ほど働いていました。

五月女美保さん
ドライバーになろうと思ったのはやっぱり一番はシングルマザーになって、稼がなきゃって思って。稼ぎたいけど、15、6時間っていうのはできないです。夜は子どもが寝てる時間帯でしか帰れなかったんで、子どもからも『ママきょうも遅いの?』って言われてたのが辛かったです。

今は、平均で1日9時間ほどの勤務に抑えられていて、小学生の息子との時間も過ごせるようになったといいます。

五月女美保さん
この会社が無かったらドライバーという仕事を続けることはできなかったと思います。帰って食事作って子どもと一緒にご飯を食べて、短い時間帯で働けてるのですごく充実しています。

荷主側の協力は?

物流の効率化を進めるには、荷主となるスーパー側の協力も欠かせません。

「前はこのコーナーは前日発注だったんですけど、2日前発注に変わりました」

倉庫を貸した食品スーパーでは、日々の売れ行きをもとに商品を前日に発注してきました。

しかし3月から、多くの商品の発注を2日前に前倒ししました。これまでは前日の夜中に商品が搬入されるということが実情だったそうですが、夜中に働ける人が減る中、運送会社の配送計画を立てやすくして負担を減らそうというのです。

齋藤雅之さん

スーパーで物流部門の責任者を務める齋藤雅之さんは、ドライバー不足が深刻化すれば、いずれ商品が届かなくなることもあり得ると、環境の改善を進める必要性を強調しています。

齋藤雅之さん
今まではこの時間にこの商品を持ってきてくださいということを選べたんですけれども、それが成り立たないんです。「運送事業者が運べないよ」、「撤退されちゃった」とかそういう話も聞きますので、そうならないように、環境を変えていくしかない。

すでに影響が出始めている物流の現場。青木さんはネットワークを更に拡大したり、計画的な配送を支援したりするなど業界全体での連携が必要だと考えています。

青木英樹さん
運送会社どうしだけじゃなくてメーカーどうしでもなくて、農家さんだけでもなくて、みんなが一人一人協力してくれないと、運送業界が成り立たないんです。うちらも地元密着型って言ってますけど、まだまだ行けないとこがあるので少しでも配送に行けるように今、頑張ってる最中です。

専門家「消費者 決してひと事ではない」

流通業界に詳しい流通経済大学の大島弘明教授に今回の取り組みや物流の2024年問題について話を聞きました。

大島弘明教授

Qこの取り組みの評価は?

大島弘明教授
この方法を取り入れるには、経営者の大きな判断が必要だ。ネックになりそうなのは、運送事業者と荷主の関係性が従来の荷主優位で、運送事業者がもの申しづらい環境だと提案がしにくて改善が図れない。
青木さんのようにネットワークを広げて、違う会社の運行のことも考えて、パズルのように組み立てる人も必要で、1つの現場がずれたときのことも考えて対応する必要があり、発注に対応する仕事スタイルより多くの手間がかかるが、それ以上に効率が上がるメリットを考えてほしい。

地域の同業他社の商品を一緒に運ぶことに関しては、売れ筋情報がライバルに知れてしまうおそれもあるが、ぜひスーパー側には、この情報化の現代に、優先順位として販売情報よりも効率を上げることで下げられるコストに注目してほしい。「商売は競争、物流は共同」と考える時代ではないだろうか。現場が課題を提案する能力も必要だが、最終的には経営層が問題意識を持って判断することが必要になる。

Q消費者は、2024年問題をどう捉えるべき?

消費者にも影響がある問題で決して人ごとではない。輸送コスト増加分が商品価格に乗ってきたり、鮮度より効率重視になればとれたて野菜の鮮度が落ちる、消費地から遠い農家の有機野菜が届かなくなるなど、消費者目線では目に見えないけど、生活になくてはならないものがいつの間にか届かなくなったということが起きてくる。

日本で物が届くとき、国内貨物輸送量の重量ベースでいけば90%以上がトラック輸送なのだから、トラックドライバー不足や労働時間規制で目詰まりしたら、当然影響が起きる、という認識を持ってほしい。

茨城県は総農家数が全国2位かつ農業産出額3位、加えて工業も強く、大消費地の首都圏の一部でもあり、生産者としても消費者としても、両面で影響が避けられない。一般に農業は遠いところから届けるために2024年問題の影響が大きく、今回のVTRの農家のようなケースや運べなくなるケースがこのままでは次々に現れてもおかしくない。

NHKプラス配信終了後、動画の確認はこちら👇


 

  • 戸叶直宏(記者)

    水戸放送局

    戸叶直宏(記者)

    栃木県栃木市岩舟町出身。2010年入局。
    福岡→横浜→首都圏→社会部(文部科学省など教育担当)→週末に家族に会うため水戸に異動してきました。

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