ひたちなか海浜鉄道 海浜公園南口新駅で早期延伸目指す
住野博史(記者)
2023年12月04日 (月)
人口減少が続くなか、地方鉄道としては異例となっている、ひたちなか海浜鉄道の延伸計画。
鉄道会社とひたちなか市は、工事を2段階に分け、まずは国営ひたち海浜公園の南口付近に新駅を整備し、先行開業する方針を固めました。
今後、国に工事の許可を求める申請を出し、着工してから早ければ5年後の完成を目指しています。
着工が2度にわたって延期されていた海浜鉄道の延伸は実現するのか、取材しました。
(NHK水戸放送局 住野博史記者)
廃線危機から一転、延伸へ
茨城県ひたちなか市の第三セクター、ひたちなか海浜鉄道の湊線。
全線がひたちなか市内を走る非電化・単線路線。一見してよくあるローカル線です。
ほかのローカル線の例に漏れず、10年以上前には利用者の減少で廃線の危機もありました。
危機を脱するために、通学に便利な新駅の設置や利用しやすいダイヤへの変更などで地域の需要を生み出し、利用の促進を続けた海浜鉄道。
その結果、地域の足として定着し、2017年には単年度で黒字化を達成しました。
路線をこれからも継続的に維持していくためには、どうしたらいいのか?
海浜鉄道が出した答えが「鉄道の延伸」でした。
いまの終点の阿字ヶ浦駅から、直線距離で1.5kmほど離れた場所には、丘一面を真っ青に染めるネモフィラの花や、コキアの紅葉などで有名な、国営ひたち海浜公園があります。
年間200万人前後が訪れる来園客に目を付けたのです。
こうして、途中駅を1つ設け、ひたち海浜公園のメインゲートとなっている西口までの3.1kmを延伸させる計画が持ち上がり、2021年1月には国から事業認可を受けました。
苦境に立つ地方鉄道 異例の延伸へ
厳しい経営状況が続く地方鉄道で、延伸が実現すれば極めて異例となります。
国土交通省が中小の民間鉄道や第三セクターの経営状況をまとめたところ、令和4年度は全国の95社のうち85社で鉄道や軌道事業が赤字になっていて、令和元年度の74社と比べて増加しています。
JR東日本では昨年度、利用が特に少ない62区間で赤字が648億円になると発表しているほか、JR西日本では広島県と岡山県を結ぶ芸備線の一部区間について、ことし・2023年に施行された法律に基づいて路線の存続やバスへの転換などを議論する協議会の設置が調整されています。
直近では、新型コロナによる需要の落ち込みも大きいものの、少子高齢化や人口減少によって地方の公共交通は苦境に立たされていて、2023年3月には北海道でJR留萌線の一部区間が廃止されるなど、路線の廃止も相次いでいます。
こうしたなか、国土交通省に記録の残る平成5年度以降では、路面電車やモノレールなどを除けば地方鉄道の延伸は例がないと見られます。
コロナ禍・物価高騰 計画変更で乗り越えへ
しかし、ひたちなか海浜鉄道もコロナ禍で乗客が減少し、昨年度までの決算では再び赤字になっています。用地交渉や建設に必要な交渉も十分に行えない状況が続きました。
さらに、物価の高騰が続くなか、当初予定されていた概算で78億円の建設費は、建設資材の高騰のほか、人手不足による人件費の上昇などで、増加が見込まれます。
このため、着工に必要な国への許可申請は、2度にわたって延期となっていました。
持続可能な形で延伸を実現させるために、今回、計画が変更される方針となりました。
工事を分割 一部を先行開業へ
変更後の計画では、もともと3.1kmすべての区間で1度に進める予定だった工事を、2段階に分け、一部の区間を先行して開業させることになります。
まず、いまの終点の阿字ヶ浦駅から、ひたち海浜公園の南口付近までの1.4kmの区間で工事を進め、この南口付近に新駅を整備。この駅をいったんの終点として先行して開業させます。
その後、終点として計画されている海浜公園の西口付近までの1.7kmの区間の工事を進める計画です。
『大きな環境変化』
「海浜公園周辺では今大きな環境変化が起きている。観光客だけでなく通勤需要も取り込めるー」
関係者は、計画変更について「環境の変化」を指摘します。
念頭にあるのが県の新たな工業団地の整備計画です。
2022年度、茨城県では県外の企業が新たに工場を取得した件数が40件で6年連続で全国最多となるなど、企業誘致が好調です。
このため、県は今年度の当初予算に事業費を計上して、海浜公園の南口付近で新たな工業団地の開発を進めています。完成は令和7年度を目指します。
さらに予定地近くでは大手企業による半導体関連工場の建設が進んでいます。
事業費高騰にどう対処するか見直しを迫られていた会社にとっては朗報でした。南口付近に新駅を作ることで、海浜公園へのアクセスを向上させて観光需要を増やすほか、工業団地への通勤、ビジネス関連の需要も見込めると判断したのです。
延伸計画 今後の進展は?
今後、会社は国に工事の許可を求める申請を出す方針で、まずは国から許可を得る必要があります。
その上で、海浜公園の南口付近までの区間は、着工してから早ければ5年後の完成を目指しています。
また、需要の見込みはあるものの、1期、2期でどの程度事業費がかかるのかは明らかになっていません。そもそも、建設材料費や人件費は高騰しているため、事業総額は当初計画の78億円を上回る見込みです。 工事を2段階に分けることで需要を取り込みつつ必要な事業費を分散させる現実的な手法で、延伸計画を進める意向と見られますが、大株主であるひたちなか市の費用負担のあり方がどうなるかなど、丁寧に説明していく必要もあります。
地方鉄道としては異例のひたちなか海浜鉄道の延伸計画。計画の変更によって、実現に向けた動きが進むか、注目されます。
市民からは期待の声
海浜鉄道の新たな方針について、ひたちなか市民からは歓迎や期待の声が聞かれました。
「最終的な延伸先の海浜公園西口でなくても公園までつながってくれれば子連れとしては便利です。フリー切符をよく使うので那珂湊駅で降りて買い物を楽しみたいです」
「車だと公園の駐車場が混むので公園付近に駅が出来れば利用しやすくなると思います」
「全国から多くの観光客が訪れるので、海浜公園への交通アクセスがよくなって、茨城県の魅力度向上につながって欲しいです。那珂湊で降りてお魚市場でビール飲みながらすしを食べて、それで鉄道で公園にいって大観覧車に乗れば楽しいと思いますよ!」