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外国人の高校教育 拡大への模索

執筆者のアイコン画像今井求紀(ディレクター)
2023年11月21日 (火)

茨城の学校に通う外国人の子どもの数は年々増えており、
10年前と比べておよそ2倍になっています。

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こうした中、県立高校で始まった支援の動きを取材しました。

3割が外国人? 県立高校で受け入れ拡大の動き

結城市にある結城第一高校。

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地域で100年以上の歴史がある県立高校ですが、1・2年生176人のうち、およそ3割にのぼる51人が外国人(令和5年9月1日現在)。いま、茨城の県立高校で外国人の受け入れを拡大する取り組みが進められています。

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茨城県が主導するこの取り組み。

以前から茨城の県立高校には、一般入試とは別に「外国人特例選抜」と呼ばれる入試方法があります。外国人を対象に英国数3教科と面接のみで試験を行い、枠は各高校で2人程度です。

県は昨年度から、この特例選抜の枠を40人に増やす試みを2つの高校で始めました。

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そのねらいは、多くの外国人に高校で学んでもらい、将来、地域を支える人材になってもらうことです。

茨城県教育庁 高校教育改革推進室 増子 靖啓室長
生活の支援と学習の支援をしっかりとやっていき、将来地域の担い手として活躍していってもらいたいということで行っています。
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「日本で暮らしていく」 支援求めて入学した生徒

特例選抜で入学した生徒は高校で、日本人の生徒と肩を並べて学んでいます。
その1人、スリランカ国籍を持つ1年生のラミカ ランウィンさんです。

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去年6月、茨城の食品工場で働くことになった親とともに日本にやってきました。
日本語があまりできないまま、すぐに高校受験を迎えることになりました。

ラミカ ランウィンさん
受験した時は、漢字が読めなかったです。日本語が難しくてどうしたらよいか分からなかったです。

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不安が大きかったラミカさんですが、特例選抜の制度を活用して無事に入学。
この高校で学び、将来は日本で働きたいと考えています。

日本が好きだから日本にはずっといたいです。大学に行って、英語の先生になって、英語が苦手な日本人や外国人、みんなを助けてあげたいと思います。

 

支援体制をどう築いていくか

受け入れの拡大で入学しやすくなったのは、日本に来て間もない生徒たち。
彼らが授業についていけるよう、高校には支援を充実していくことが求められます。

複数の教員で教える授業もあり、生徒たちを個別にサポートします。
生徒同士でもわからないところを積極的に教えあうように促しています。

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校内の掲示物なども必要に応じて各国の言葉に翻訳し、学校生活がスムーズに送れるように配慮しています。

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限られた教員で支援

そして、もっとも重要な支援が日本語の習得です。

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外国人の生徒を対象に、放課後、日本語を教える授業を行っています。
生徒によって日本語の能力が異なるため、3つのレベルにクラスを分けています。

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ただ、教える教員は1人で対応しているため、1日に1クラスしか行うことができません。
また、放課後に行っているため、生徒の家庭の都合などによって早く切り上げざるを得ない日も多いといいます。

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教員の数が限られる中で、どのように多くの外国人に教えて行くかが課題となっています。

結城第一高校 日本語クラス担当 吉江恭子さん
1クラス、例えば初級クラスのなかでも5~6人いるなかでレベルの差が出てきてしまっていて、生徒にどうやって寄り添っていったらいいのかというのが今後の課題だと思っています。
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今後の対応は

 外国人の子どもたちに高校教育の門戸を広げた茨城県。
今後さらに支援を充実させていくためには課題もあります。

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その1つが、人手不足です。日本語の支援が必要な生徒の数が大きく増えた結城第一高校ですが、1人の講師が増員されただけでした。
筑波大学や民間のNPO法人に委托して、日本語能力の測定や保護者とのコミュニケーションの支援を行うなど県からのサポートを受けているものの、受け入れの体制をどうしていくのか、現場ではいまだ模索が続いています。

また、茨城全体に取り組みがどう広がっていくのかにも注目が集まります。

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今回の取り組みで特例選抜の枠が拡大された高校は結城市と常総市の2校。
この2校だけでは、県央地域など県内の多くの地域からの通学は難しいのが実情です。

県では、外国人生徒の教育支援について現場でノウハウを積み重ねていくことに期待しています。

茨城県教育庁 高校教育改革推進室 増子 靖啓室長
手探りでいろいろやってるところもあるので、しっかりとノウハウを蓄積して行き、蓄積されたノウハウをほかの県立高校にも広げていければと思っています。

 

取材後記

人口減少が進み、地域によって外国人の存在が欠かせなくなっている茨城。外国人がますます身近になっていけば、今後「どうやって外国人とともに暮らしていくのか」に向き合っていく必要も増していきます。

取材した結城第一高校は、地域で暮らす外国人が増えている現状に目を向け1歩踏み出した現場でした。
今回取材で出会った生徒たちがこれからどんな選択をし、社会に羽ばたいていくのか。高校はどのように生徒の成長を支えていくのか。引き続き注目していきたいと思います。

 

いば6 11月8日(水)放送

いば6では、今年度、「シリーズ茨城の課題」として、茨城の皆さんの生活に身近なさまざまなテーマを深掘りしていきます。
10月~12月は「国際化に向き合う」をテーマに取り上げます。

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