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避難が難しい人を地域でどう支援する?

執筆者のアイコン画像沼田亮輔(ディレクター)
2023年07月28日 (金)

いば6でお伝えしている特集シリーズ「茨城の課題」。
6月~9月は「暮らしの安全」をテーマに取り上げます。今回は水害や地震などの際の避難についてです。一人では避難が難しいお年寄りや障害のある人などについては各市町村が「避難行動要支援者」としてリスト化して把握することになっています。
さらに、令和3年に法律が改正され、要支援者のそれぞれに個別避難計画を策定することが市町村の努力義務となりました。

この個別避難計画では要支援者の氏名や住所を把握し、避難方法などをあらかじめ決めておくことになっています。しかし、この計画の策定は進んでおらず、県内で策定が終わったのは3つの市と町にとどまっています(令和5年1月1日現在)。

 特に壁となっているのが避難を手助けする「支援者」がなかなか決まらないという課題です。

その現状を取材しました。 

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埋まらない「支援者欄」

常陸太田市の岡田町地区を訪ねました。地区には茂宮川が流れ、氾濫の危険がある場合には避難が必要になります。この地区では常陸太田市から依頼を受け、町会の会長と副会長、民生委員の3人で個別避難計画のとりまとめを行っています。

地区に住むおよそ300人のうち、1人では避難が難しいとして10人が要支援者になっていました。

 

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 常陸太田市はことしの3月にこの10人に向けて個別避難計画の作成を依頼しました。しかし、提出された計画を確認したところ、避難を助ける「支援者」が決まっている人は1人もいませんでした。 

20230728n_3.jpg岡田町会長の大津幸秀さんにお話を伺いました。

岡田町会長 大津 幸秀さん
(支援者の欄を)埋めづらかった、頼みづらかったという状況ととりあえず登録を最優先したいという気持ちがあったのではないかと思います。

地区のつながりがポイントに

支援者の欄が埋まっていなかったため、大津さんたちは、今月から10人の自宅をまわって「支援者」を決めてもらう作業を始めました。要支援者の1人、78歳の立原照美さんです。夫と2人暮らしで、自分で避難することに不安を感じています。

20230728n_4.jpg支援者が決まっていなかった立原さんですが隣に住むいとこやよく知っている近所の人に頼んで引き受けてもらえることになりました。ほとんどの住民が顔見知りだというこの地区ではお願いすれば快く支援者を引き受けてくれる場合が多いということです。

岡田町会長 大津 幸秀さん
最初の段階ではなかなか遠慮して見つからないと思っていたのですが、もう一押しすると大丈夫だよとかやってあげるよという方が実際にはいたということで非常に安心しました。おかげで全員支援者の欄を埋めることができそうな見通しです。

自治体が主導する守谷市

一方、個別避難計画の策定が進まないことに危機感を持ち、自治体が積極的に調整に乗り出す動きもあります。守谷市役所では市内をエリアごとに分けて、優先度を決め、住民側と直接話し合う取り組みを去年から始めました。

 

守谷市 社会福祉課 北川 香織さん
計画作成をすることは市も地域もやったことがないのでまず市役所や社会福祉協議会のほうで地域に入って一緒に作るなかで作成のノウハウを共有しながら進めていきたいです。

いま、守谷市が計画の策定を進めようとしているエリアがみずき野地区の一部です。みずき野地区は昭和の終わりから開発が始まった比較的新しい住宅地です。浸水被害が想定されている一帯にはおよそ2200人が住み、92人の要支援者がいます。

 

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難しい「支援者」選び

先週土曜日、守谷市が主催してこの地区の町内会の班長などを集めた話し合いが行われました。ここでも大きな問題となったのは支援者をどう選ぶかということです。

 

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みずき野町内会 会長 山下 勝博さん
みずき野はご存じのように北海道から九州までいろんな地域から集まった寄せ集めの町なんですよ。
参加者
問題は避難支援等の実施者ということで、ここをどうするかということですね。

地区の住民は移り住んできた人がほとんどです。支援者を引き受けることに重い責任を感じるという人もいました。

参加者
助けられなかったときにやっぱり自分を責めちゃうところも出てくるのかなと。自ら積極的に手を挙げるというのはなかなか難しいです。

守谷市は話し合いを通じて、まずは住民が地域で助け合う意識を高めることに期待しています。

守谷市 社会福祉課 北川 香織さん
要支援者個人にとどまる話ではなく、地域全体で災害時にどう対応するのかということをご検討いただくいい機会になるのかなと思いますので皆様でご理解いただければと思います。

地域での助け合いの重要性

筑波大学で住民の避難行動などを研究している川島宏一教授です。個別避難計画によって住民同士が助け合う重要性を指摘しています。

 

20230728n_7.jpg筑波大学 川島 宏一 教授
どんなに市場の経済が発達して、行政のサービスが充実したとしても大災害が起これば、物理的に寸断されてしまうので、その物流ネットワークとか行政サービスは来ないです。そういったことが起こりうるという前提で地域の中で助け合う、最後のセーフティーネットとして我々は常に地域の関係性が必要で、そういう社会にいるんだという認識が必要だと思います。

そのうえで地域や要支援者の実情にあった計画の策定方法を見つけていくことや支援者の役割について理解を求めていくことが重要だと言います。

筑波大学 川島 宏一 教授
地域の中で要支援者の実情を踏まえて、計画を作るためのコーディネーションをしていくのは誰がいいのかを考える必要があります。福祉の専門職の方なのか、民生委員なのかあるいは地域のリーダーなのか、その地域の社会関係性や個別の要支援者の置かれている状態に応じて対応していくことが重要です。

川島教授は、支援者はあくまでできる範囲で助けることになっていることや要支援者1人について支援者を複数登録することで支援者の責任を分散できることをわかりやすく示して支援者の役割について理解を求めていくことも大切だと話していました。

 

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