初めの1歩は耐震診断 命を守る住宅の耐震化
能登半島地震を機に改めて注目が増す「住宅の耐震化」。
一方で「改修工事には高額な費用がかかるのでは!?」と二の足も踏む人も多いはず。そこで、初めの1歩としてお勧めしたいのが、耐震診断。近年は国や自治体も助成に力を入れ、無料で実施できるケースも少なくありません。診断を受けることで、耐震化にかかる費用の総額が抑えられたり、耐震改修以外の選択肢が生まれたりすることも。
でも耐震診断ってどんなことをするの?どこに相談すれば…?
耐震診断に関する素朴な疑問にお答えします。
(クローズアップ現代取材班)
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耐震診断のメリット 「総額」を抑制できる
耐震診断とは、建物が地震の揺れにどれだけ耐えられるかを調べることです。診断には、大きく2つのメリットがあります。
➀耐震化の総額を抑制できる
耐震改修工事は、木造住宅(平屋もしくは2階建て)の場合、100万円~150万円で行われることが最も多く(※1)、決して少ない金額ではありません。いきなり耐震改修に踏み切ってしまうと、工事の途中で新たな必要箇所が見つかったり、工事をやり直したりすることにもなりかねず、結果的に費用がかさんでしまうこともあります。そのため、事前に診断をすることが必要なのです。
耐震診断は一棟につき10万円から40万円程度が相場とされています。(※2)多くの市町村では助成金が出たり、無料(全額助成)で受けられたりする場合もあります。耐震診断を経て耐震改修工事を行う方が、助成の割合や上限金額を高く設定している自治体もあります。
※1 日本建築防災協会作成のパンフレット「耐震改修工事費の目安」より
※2 家の設計図など資料の精査と目視で行う「一般診断」の場合。ただし地域性やサービス提供者、建物の形状や築数などによって差異は大きいため、あくまで「参考」と考えてください。また多くの自治体では耐震改修にも支援制度があり助成が出ます。
➁耐震改修より低コストで済む選択肢が生まれる
耐震診断をすると、その建物の中で、地震に対して比較的「強い部分」や「弱い部分」がわかります。仮に耐震改修に踏み切れなかった場合でも、寝室を「比較的地震に強いところ」に変更するなどの対応をとることができます。また、耐震診断をすれば耐震改修にかかる費用の概算もわかります。「ある程度の費用は出せるが全額は難しい」場合には、より安価な耐震シェルター(※3)という選択肢もありえます。最近では、耐震シェルターに対して支援制度を設ける自治体も増えています。
※3 耐震シェルター:住宅が倒壊しても一定の空間を確保することで命を守る装置。一部屋型とベッド型がある。上記写真の左、一部屋型は、設置費込みで46万円(税別)。右のベッド型は、本体価格25万円(税別)のほか、組み立て工事費5.5万円(税別)
まずは市町村の窓口に相談! 助成金は先着順のケースも…
耐震診断を実施したいと思ったら「まずはとにかく区町村の窓口に問い合わせる」のが鉄則です。助成金を受け取れるかどうかにも関わる、3つの理由があるからです。
➀市区町村には相談窓口が必ずある
「耐震改修促進法」のもと市区町村は、住民の耐震化に関する相談に乗ったり情報提供したりする窓口を設けることが求められています。日本建築防災協会のサイトには、全国の都道府県、政令指定都市、そして、ほぼ全ての市区町村の耐震診断・耐震改修に関する窓口と電話番号が掲載されています。
日本建築防災協会 耐震診断・耐震改修に関する地方公共団体窓口一覧👇
(https://www.kenchiku-bosai.or.jp/srportal/srcounter/
まずは市区町村の窓口に、万が一、市区町村の窓口がない場合は、政令指定都市もしくは都道府県に問い合わせましょう。
➁助成金は「先着順」の場合も・・・
各自治体は、耐震化に関する支援制度を年々充実させています。しかし制度にかかる費用は各市区町村の予算でまかなわれるため、自治体によっては制度の利用に限りがあるところもあります。すなわち先着順です。その意味でも早めに 市区町村の窓口に問い合わせるのがよいでしょう。
➂事業者を紹介してもらえる可能性がある
実際に耐震診断を行うことにした場合、最も悩ましいのが「どの事業者に依頼したらよいか」です。サイトやチラシには様々な事業者の情報があふれていて、詐欺も気になりますよね。事業者の選定に関しても、ほとんどの市区町村では情報提供を行っています。また支援制度を利用するためには、その自治体が指定する事業者に依頼しなければならなかったり、そもそも自治体が事業者を派遣したりすることもあります。
耐震診断って何をするの!? まずは資料の準備から
耐震診断は、基本的に耐震診断資格を持つ建築士が行います。
耐震診断の内容は、木造住宅か非木造住宅かによって違いますが、現地調査の前に資料を確認する予備調査を行うことは共通しています。この際には構造計算書や設計図、検査済証や地盤調査に関する資料などが必要になります。もし資料がない場合は、現地調査の際に実測する必要が生まれ、その分の手間や時間、費用がかかってしまう可能性があります。
木造住宅の耐震診断
木造住宅の場合は「一般診断」と「精密診断」の2種類があります。それぞれ説明していきましょう。
「一般診断」
基本的に目視確認で、天井や壁をはがしたりする「破壊調査」は行いません。基本的に耐震改修を前提とせず、耐震改修の必要性そのものを判定することを目的とした診断という位置づけです。所要時間は2~3時間程度とされています。
「精密診断」
部材やそれらの接合部に関する詳細な情報に基づき、改修の必要性を判断する診断で、壁や天井の破壊調査も必要に応じて行います。その他、全ての柱や壁の強度も調査します。所要時間は半日から1日程度とされています。
非木造住宅(鉄骨造・鉄筋コンクリート造)の耐震診断
鉄骨や鉄筋コンクリートなどで作られた非木造の住宅では、1次診断法から3次診断法までがあり、段階が上がるほど精度が高くなります。
「1次診断法」
比較的簡易な診断法で、建物の詳細な調査を行わなくても設計図面さえあればできるケースもあります。ただ1次診断の結果だけでは、補強設計を的確に行うことができないため、耐震補強を検討する場合は1次診断は行わず、最初から2次診断を実施することをお勧めします。
「2次診断法」
柱や壁のコンクリートの強度、鉄筋の粘り強さも考慮し耐震性能を算出します。学校や役場の庁舎など公共建築物でよく利用されている診断方法です。前述のとおり、住宅の耐震改修を行う場合には、この2次診断の結果を基に補強個所や補強方法などを検討していきます。
「3次診断法」
2次診断の要素に加えて梁の強度も加味し、建物が地震の横揺れにどれだけ耐えられるかを算出します。主に高層建築や鉄骨造が対象となる診断法です。
耐震診断 費用の相場
自治体や業界団体のサイトや、いくつかの事業者の情報によると、耐震診断の費用は、木造住宅では一棟につき一般診断で5万円~40万円程度、精密診断は最低でも15万円以上。非木造の場合は延床面積によって異なり、2次診断の場合、鉄筋コンクリート造(RC構造)では1000~2000円/平方メートル程度、鉄骨造(S構造)では1500~3000円/平方メートル程度が相場と言えそうです。
しかし建物の構造はもちろん、地域や事業者によっても費用の差が小さくないため、金額はあくまで参考です。ポイントは複数の事業者に見積もりを出してもらい比較すること。あなたの家、あなたの地域の相場が見えてくるでしょう。
助成金はいくら出る!?
支援制度の対象項目や助成金の額や上限は、市区町村によってそれぞれ異なります。支援を受けられる住宅の対象範囲も違います。そのため市区町村に問い合わせることが、ここでも重要です。
参考事例として、東京で最も人口の多い世田谷区の支援制度の一部を紹介しますが、決して世田谷区が全国的な標準というわけではありませんので、留意してください。参考までに耐震診断だけでなく補強設計や耐震改修工事に関する支援も掲載します。
木造住宅の場合
木造建築の耐震診断に関して世田谷区の支援制度では、制度の利用者が事業者を探す必要はなく、区が派遣してくれます。対象は昭和56年6月から平成12年5月の間に新築された2階建て以下の住宅です。該当しない場合は、住宅の所有者が自ら事業者を探す必要があり、費用も全額自己負担となります。
非木造住宅・分譲マンションの場合
非木造住宅や分譲マンションの耐震診断に関して世田谷区の支援制度では、制度の利用者が事業者を探し、選定します。対象は昭和56年5月31日までに着工した建築物で、分譲マンションの場合は3階建て以上。該当しない場合は全額自己負担です。
耐震診断判定書 数値でわかる倒壊の可能性
耐震診断を受けると事業者から耐震診断判定書(※4)が渡されます。様々な数値が記載されていますが、注目すべきは木造の場合「上部構造評点」、非木造の場合は「Is値」です。
※4 自治体や事業者によって名称は異なる場合があります
上部構造評点(木造の場合)
上部構造評点とは建物の耐久力を示す値で、震度6強程度の大規模地震の揺れに対して、その建物がどのくらい耐えられるかを数値によって示します。1.0以上が国の耐震改修の最低基準となっています。
Is値(非木造住の場合)
Is値とは鉄筋コンクリートなど主に非木造の建物の耐震指標として扱われる数値で、木造の場合と同じく震度6強の揺れに対して、どの程度の安全性があるかの目安となります。ちなみに文部科学省では学校の耐震強度として、Is値0.7以上を保つように求めています。
上部構造評点やIs値は絶対的なものではありません。例えば上部構造評点が1.0未満だから必ず倒壊する、1.0以上だったら絶対に倒壊しないという保証にはなりません。過去の地震データや研究によって類推しているだけなので、あくまで一つの目安ととらえておくことが必要です。
2つの意識を新たにして耐震化を進めてほしい
最後に、防災行政に長年携わってきた静岡大学の岩田孝仁さんに、住宅の耐震化を社会全体で進めるために必要なことは何か、お聞きしました。
岩田さん
私は2つの意識を新たにする必要があると思います。
まず一つ目は所有者・居住者の意識です。私が静岡県庁の職員として耐震化を進めていたとき、特にお年寄りに納得してもらうことが大変でした。経済的には問題なさそうでも「子どもは実家を離れ、もう戻ってこない。どうせ、この家に手をかけても…」という方がとても多かったのが印象的です。しかし、今年1月に発生した能登半島地震では倒壊した住宅が道を塞ぎ、避難や緊急車両の行く手を阻むケースもあったといいます。もし、あなた自身や、あなたの親が「どうせ・・・」といった考えをもっているのならば、「地域の命を守るため」という意識を新たに持ってほしいと思います。あなたの家や、あなたの実家の耐震性は、あなたたちだけの問題ではないのです。
もう一つは行政の意識です。年を追うごとに住まいの耐震に関する支援制度は拡充されてきましたが、未だに支援の対象範囲を旧耐震基準の木造住宅に限っているケースが多いのが現状です。しかし熊本地震でも今回の能登半島地震でも、新耐震基準の住宅が、かなりの数で倒壊していて、支援の対象範囲を広げていく必要があります。住宅の倒壊を防ぐことは個人の責任だけではなく、公共的な役割も非常に大きいと私は考えます。行政には今一度、意識を新たにし、社会全体で住宅の耐震化を進めていってほしいと思っています。
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