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松山市出身 俳人 神野紗希さんが選ぶ「切れ字“や”を使った俳句」

  • 2024年04月01日

4月の「俳句でポン!」では、兼題『切れ字「や」を使った俳句』に全国から304句寄せられました。松山市出身の俳人神野紗希さん選の俳句を解説とともに紹介していきます。

特選の特選

ふつくらと鳴く雉鳩や春の雲
松山市 媛小春

この句からわかるポイントは【切れながらつなぐ】です。ふっくらと鳴くキジバトだなあ、そして春の雲が浮いている、という意味です。「ふつくらと」は雉鳩の声の描写ですが、同時に春の雲の質感にも繋がっていきます。「や」で意味を切って地上から空へ場面を切り替えながら、同時に感覚もつなげておく、そんな風に「や」が使えたら、一句の余白がよりゆたかに語り始めてくれます

番組紹介句(神野さん選10句)

【五七五の切れ目で「や」を使った5句】
寒暁卒論綴じる紐固し 松山市 森 小畝
行く春一段減りし勤務表 松山市 夏村波瑠
私が旬だった頃  松山市 岡村理江
侘助戦火に叫ぶ子ら遠し 大洲市 ももりん
湯帰りの薄三日月日永し 松山市 渡部克三度

基本的には、「寒暁や」「行く春や」等、はじめの五音のところで使う場合が多いですね。たとえば一句目、提出ぎりぎりまで粘って卒論を仕上げたのでしょう、「ああ、あかつきがきたなあ」と思いながら、卒論をとじているのかな。ぎゅっと縛ったひもの固さと、寒暁の冷たさ・硬さとが、感覚的につながる取り合わせですね。あとは中七と下五の間に「や」を使うこともできます。五句目、日永の午後、温泉に行った帰りにうっすらと空に浮かぶ三日月を見つけたのでしょう。「や」をつけて、その発見の感動をこめました

【中七の途中で「や」が来る5句】

をちこちに句碑松山はうららけし 松山市  ピアニシモ
天ぷらの木の芽父の仏前に 西予市 中井ゆそし
九週目の腹鶯餅ほわわ 神奈川県 伊予素数
鶯の鳴く遍路の二人旅 久万高原町 青雪
菜の花の黄我が家まであと百歩 大阪府 島田和子

「や」はこんな風に途中でも使えるんだという例ですね。一句目、「あちらこちらに句碑があるなあ」ということに、まず「や」で感動を示して、そのあとにもっと大きな感想として「松山はうららかだなあ」と添えています。「や」があることで語りの転換が生まれています。途中に来ていても、「や」の前に感動がちゃんと置かれていますね。てんぷらの木の芽、妊娠九週目のおなか、鶯(うぐいす)の鳴く声、菜の花の黄色。感動のポイントを自分で理解することが、「や」を使いこなす第一歩です

添削

啓蟄や自宅で嬰児眠りけり 高知県 野中泰風

啓蟄のリビング嬰児眠りけり

✏添削のポイント
1つ目のポイントは【や・かな・けりは一句に一つ】です。
「や」は切れ字と呼ばれる感動を示す言葉で、「かな」や「けり」といった言葉も同じく切れ字です。この「や」「かな」「けり」は特に強い感動を表すので、基本的には一句に一つにしないと感動の中心がぶれると言われています。
〈啓蟄のリビング嬰児眠りけり〉
今回は「けり」を残して「や」を削りました。啓蟄であることよりも、赤子が眠っていることのほうが、きっと感動の中心ですね。「自宅」もちょっと範囲が広いのでね、リビングに。風景がよりくっきりすると思います

一列十七の子らや卒業す 愛媛県西予市 平田球坊

一列や十七人の卒業す

✏添削のポイント
2つめのポイントは【感動の中心を「や」で示す】です。
地元の小学校の卒業式で17人が卒業したそうで、卒業生が横一列にならんで卒業式に挑む姿を詠んだそうです。ここで一番言いたいのは十七人が「一列」で、というポイントですね。そこを「や」で際立たせましょう。
〈一列や十七人の卒業す〉
おお、一列に並んでいるなあ!十七人がいま卒業していくよ、という意味になります。ずらりと並んだ姿も、きりりと見えてきますね

佳作

初恋やブックエンドの菫草 松山市 梶原 菫
春雷や老猫の瞳に白き膜 千葉県 水須ぽっぽ
三月やエンターキーをポンと押す 大洲市 一本杉
囀りや漁師佇む能登の浜 松山市 徳永晴樹
菜の花や前だけを見て歩む今 今治市 茜
行く春や撥振りかざし時太鼓 松山市 もぐもぐ
寝そべるや青を遊びて初蝶来 東京都 迫久鯨
懐かしや城山桜吾と君 松山市 ひさくん
水銀の動き愉快や春の風邪 東京都 芝歩愛美
鮟肝を手放さぬ子や我に似て 松前町 松田夜市


次回の「俳句でポン!」の放送は、連休があるため、いつもの月曜日ではなく、5月7日(火)の放送予定です。
次回の兼題は「小さな生きものを詠んだ俳句」です。小さな命にも目をやることで、俳句の秘めた「命をとらえる力」を感じてみましょう。ぜひお寄せください。
応募は、ひめポン!のホームページからお願いします。
締切は4月19日(金)午後7時です。お待ちしています。

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