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愛媛FC 森脇良太選手 プロ20年目への思い

  • 2024年02月20日

サッカーJ2愛媛FCに所属する森脇良太選手。ことし(2024)4月に38歳を迎える元日本代表選手です。
森脇選手は、J1・J2・J3すべてのカテゴリーで優勝を経験。さらにJリーグカップ・天皇杯・アジアチャンピオンズリーグと、Jリーガーとして獲得可能なすべてのタイトルを手にしました。まさに「タイトルに愛された男」。なぜこれだけのタイトルを獲得することができたのか?そしてプロ20年目を迎える新たなシーズンへの思いを聞きました。

(NHK松山放送局アナウンサー 杉岡英樹)

準備を怠らない

朝6時50分、日の出前のクラブハウスに森脇選手の姿が。
全体練習の開始2時間以上前に、森脇選手の1日は始まります。
まず向かうのは、お風呂。

練習前の入浴にも目的が!

「風呂の中でストレッチするのがメインですね。特に冬だと体を温めないと体が起き上がらないんですよね。年齢を重ねたせいかな」

プロ生活20年目の森脇選手。
全体練習に向かうのは、筋トレやマッサージに多くの時間を費やしてからです。

マッサージを入念に受ける森脇選手

「結構、準備しないと不安な自分もいるというか。練習をちゃんと100%でやりきる、そういう意味で早く来て、準備は怠らずにやるっていう感じですね」

森脇選手の持ち味は、大きな声とガッツあふれるプレーです。常に若手を鼓舞し、チームを引っ張ります。

大きな声が練習グラウンドに響く

愛されるムードメーカー

一方、練習が終わると森脇選手の役割は一変。いわゆる「いじられ」役に。

石丸監督らに突っ込まれる森脇選手
石丸監督

「朝、(撮影のために)結構髪型キメてきたでしょ?」 

森脇選手

「いやいや、寝ぐせのままです」

佐藤諒選手

「そのヘアバンドいる?モリくん」

深澤佑太選手

「どこ留めてんの?」

次々に突っ込まれます!

年下の選手からの呼び名は「モリくん」。
いつも選手や監督らから「いじられ」ています。常に明るく、愛されるムードメーカーです。

「多くの人からポジティブ・明るいねって言われるんですけど、でも根はめちゃくちゃネガティブだと思ってるんですよね、僕の中で。ネガティブとポジティブが両方こう毎回毎回ケンカしてバトルしているような、どっちが勝つんだって。でもポジティブが勝たなくちゃいけないだろうって。自分自身、戦っているところがあると思ってるんです」

何度も味わった挫折

森脇選手の「常にポジティブ」という思い。その背景には、何度も味わった挫折がありました。
広島県生まれの森脇選手はJ1サンフレッチェ広島の育成組織で中学・高校時代を過ごしました。特にユースチーム(高校生年代)のチームメイトは、全国でもトップレベルの選手ばかりでした。

「小学校中学校ぐらいは、まあ、自分でいうのもおかしいですけど、そのチームで一番目立った存在ではあったと思うんですけど、広島ユースは、本当に僕らの世代くらいからすごいメンバーが集まっていたので、別世界だと。初めて僕の中で挫折。全寮制なので、早く家に帰りたい、すぐホームシックになりました。プロになるためにサンフレッチェユースに入りましたが、このままでは生き残っていけないとネガティブな方に向かっていたのは覚えていますね、プロとか全く意識できなかった」

森脇選手は、厳しい競争の中でサンフレッチェ広島のトップチームに昇格します。「プロになる」夢がかなったのです。

「ユースチームからプロに6人あがりました。でも当時のサンフレッチェ広島の強化部長に、『6人トップにあげたけど良太は6番目だ』と。『もっともっと努力しないと、大変だよ』って言われました。6番目って言われた時には、自分の中では納得の6番目。よくプロになれたなっていうのが率直な感想です。プロに上がるだけでも幸せという感じでした」

Q:プロ1年目、どんな感じでしたか?

プロ1年目を振り返る森脇選手

「もうこれ衝撃でした。プロってこんなにレベルが高いんだって。寮生活で練習場までバスで1時間ぐらい。あー、もう練習場ついちゃうよと。このままUターンして帰りたいなと。そういう思いになった時も正直、ありましたね。
忘れられないのは、1年目のJリーグ杯川崎フロンターレ戦。相手にブラジル人のアウグスト選手がいたんですけど、ちんちんにされた。ほんとに子ども扱いされて、1試合で5回くらい股抜きされましたもん。最後の方はひざがガクガクしちゃって、正直、早く試合終わってくれと思ってたのは覚えていますね。あの頃は、プレー中はもう“チーン(沈黙)”ですね。『おい森脇!ピッチにおるんか?』って思われるくらい、ピッチの中でシーンとしてましたね。当時はどう声を出していいかも分からなかった」

つらいプロ1年目を過ごしていた森脇選手。さらに追い打ちをかけるように、2年目はカテゴリーが下のJ2愛媛FCへ期限付き移籍をすることになりました。

「あー、プロ1年目、もうこれクビだと、戦力外通告を食らったんだなっていうのを、めちゃくちゃ、感じましたね。ショックはめちゃめちゃ受けました。それを言われた時は、見てられなかったと思いますよ。負のオーラがすごすぎて」

移籍した愛媛でメンタルはV字回復

しかし、移籍した愛媛の地で森脇選手は、一気に立ち直ります。

「愛媛に加入して、最初の練習がスタートした時には完全に気持ちは切り替わっていた部分はあったかなと。そこからはもうやるしかないと、自分はここで結果を残さないとプロサッカー選手として生き残っていく道はないという思いで、本当にぎらつきながら練習していたんじゃないかなと思っています」

愛媛での日々を支えたのは、広島から見守る家族のエールでした。

両親からの言葉が支えに

「段ボールにご飯とか詰めて仕送りをしてくれるんですけど、そん時に毎回うちの母親は手紙を入れてくれていて『良太、気持ちで負けないでね、ここからまたJ1に戻ってくるんだよ』っていう、それは僕にとってはものすごく励みになったというか、一つのモチベーションになった部分ではありますね」

愛媛で2シーズン、主力として活躍した森脇選手は、本来のポジティブな自分を取り戻しました。

「もう愛媛時代は、メンタルV字回復してましたね。当時愛媛FCの望月監督が我慢強く試合に使ってくれて、試合する喜び、負けた責任を背負える喜びを感じることができた2年間でした。愛媛はもう特別な存在ですよ。広島でもうプレーヤーとして死んだような選手をもう一回よみがえらせてくれた。愛媛での2年がなければ今の自分は絶対なかったと思います」

ついた異名は“ロスタイムの男”

愛媛で過ごした2年の後、森脇選手はJ1広島に復帰。さらに浦和レッズ・京都サンガ・再び愛媛でプレー。J1・J2・J3で優勝、天皇杯やJリーグカップ優勝。日本代表にも選ばれました。

森脇選手のポジティブな考えが表れている数字があります。森脇選手はリーグ戦で通算28得点。そのうち8点が、いわゆるロスタイムのゴール。試合終盤の劇的なゴールです。そこからついた異名が「ロスタイムの男」。

「1点でも返せば絶対逆転できるっていう、もうその思いは常に持っているんで、やっぱり気持ちは大事だなっていうのはありますね。
余談ですが・・・、浦和時代、スリーバックが森脇・那須・槙野。前半0対3で負けているハーフタイム、僕たち3人がみんなにかけた言葉『絶対1点取ったら変わるからな、ここから俺たち逆転するんだぞ!』と。FW陣は、『お前らDF陣が3失点くらっとって、よーそんな声かけられるな』って。でも3人でそれくらいエネルギー出して、実際、4点取って4-3で逆転した試合もあるので、やっぱり気持ちは大事だなと思いますね」

Q:なぜこれだけのタイトルを手にできたのか?

森脇選手がタイトルに愛された理由は?

「僕が聞きたいくらいです。本当に分からない・・・。ただ、一つ言えるのは本当に人に恵まれたなと。チームメイトもそうだし、監督・コーチ、スタッフもそうだし、本当に素晴らしい方々がいたなっていうのは率直な僕の思いというか感想ですね。そうあるために、どんな時でもポジティブでいる、それは自分自身もそうだし、チームに対してもそういう思いを伝染させる、少しでもポジティブエネルギーを充満させることがタイトルに近づく要因だと思っているんで、そのことを意識しながら常にやってきました。それがまぁタイトルに近づけてくれた、取らせてくれた要因かなとは思っています」

プロ20年目への思い

プロ20年目の思いを色紙に

「『集大成のつもりで』ですね。今シーズンでサッカー選手、終わりだとしても何の後悔もないように、愛媛FCを契約満了になったとしても、何の後悔もないように1年間戦いたいなと、そういう思いでこの言葉を選びました」

杉岡の取材後記

 「常にポジティブ」な森脇選手。とはいえ、インタビュー中「これで大丈夫かな?」って、なんども不安と戦っていました(笑)。
誰でも気分にムラはあるし、落ち込むときもありますよね。それでも自分を奮い立たせてポジティブな姿を見せ続ける。もしかしたらサッカーのレベルアップ以上に大変なことかもしれません。森脇選手が話していた通り、それをやり続けることができたから、これだけのタイトルにたどり着いたのかなと私も感じました。今、森脇選手は2度目の愛媛FC所属で活躍中です。前回いたときから全く立場が変わり、現役選手の中で年齢は上から2番目。多くの経験を伝える役割のはずですが、良い意味で、若い選手にもスタッフにも大いに「いじられ」ながら、チームの良い空気感を作っています。
愛媛FCはJ3からJ2へ昇格し、今季はより厳しい戦いが待っています。でも厳しい状況の時ほど、森脇選手のスーパーポジティブな力が発揮されるに違いありません!ぜひ、今シーズンの森脇選手・愛媛FCに注目してください!

  • 杉岡英樹

    杉岡英樹

    2022年より松山局。Jリーグ・野球などのスポーツ中継を担当。

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