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「今だから語る本音」愛媛FC 石丸清隆監督

  • 2023年12月11日

愛媛FCを率いてJ2復帰を果たした石丸清隆監督の2024年シーズン続投が決まりました。
昇格を決めた今シーズンは何を大切にチーム作りを進めてきたのか。
そして決め手となったのは何だったのか―。
“今だから語れる本音”を聞きました。

(NHK松山放送局アナウンサー 杉岡英樹
ディレクター 白石陽亮)

知らなかった“優勝”の瞬間

昇格を決めたのは2023年11月11日。
FC今治を1対0で破り、J3優勝を同時に果たしました。

杉岡

最高の結果でシーズンを終えたと思うんですが、改めてお気持ちは?

石丸監督

まだ優勝したって感覚はないんですけど、皆さんに「よかったね」とか言われるとちょっとずつ実感がわいてきたかなっていう状況ではあります

伊予決戦で決まった瞬間は思い出せますか?あのときのホイッスルを聞いて

勝って「昇格」が決まったんだなと思ったら、ちょっと周りのテンションが違うなと。そうしたら「2位の鹿児島負けた。優勝ですよ」って。ちょっと乗り遅れた感が相当あるんですよ。(鹿児島の途中経過は)スタッフが僕に伝えるのを、止めたらしいんです

スタッフに言っていたのですか?「途中経過を伝えるな」とか

いえそんな事何も言ってないですよ。ただこの試合どうするかっていうだけしか考えないです。後々どっちみち分かるじゃないですか。だから「シャットアウトしろ」も言ってないですし、「伝えて」とも言ってないです。この試合に何とか勝つっていう事だけしか考えてなかったので。
正直言うと次の試合で優勝が決まればなっていうぐらいの心づもりだったんです。それが、鹿児島さんが負けたのでちょっと早まったっていう。僕としてはちょっとあまり考えてなかったことが起きて、周りのテンションにちょっとついていけてないっていうのが正直なところですね

迫られた大きな方針転換

石丸監督が指揮をとったのは昨シーズン。
J3に降格したばかりのチームを託されました。
J2への復帰を目指すには、大きく方針転換が必要でした。

「優勝したい」とか「(J2に)戻りたい」とかみなさん言うじゃないですか。けどグラウンドに立った瞬間は「上がれるチームではないな」って瞬間的には思いましたね。みんなどことなく逃げていて、向き合っている感じはなかった。自分がうまくなろうとか。
去年1年やってみてどうしようかってなったときのメンバー編成は、ある程度クラブとの話し合いの結果、若返りを図ったほうがいいだろうっていう。どちらかというと結構動けるとか、シンプルにそっち側に振れ幅をふったほうがいいのかなっていう部分がありました

そこで目指したのは「試合終了まで走り続けるサッカー」。
開幕前に獲得した15人中12人を24歳以下にするなど、若い選手をそろえました。
運動量で相手を上回って、そこにテクニックを備わせることができれば、チームとして上を目指せると考えたのです。

成長することが(昇格には)大前提?

大前提でしたね。それは何かと言うとトレーニングをしようというシンプルな考え方です。今までの実績というのは通用しないリーグだと思ってたので、トレーニングありきのほうに振り幅を変えました。完全に。だから練習は本当にしんどかったと思います

成長というのは?

今まで持っているものを壊すっていうか。「今までこうやって来ました」っていうのが一番面倒くさい。壁を作っている状態が成長を妨げている。
僕はちょっと背中を押す役割なのかなって。「ちょっとやってみろよって、こっちのほうがいいでしょう」って。ミスするのは怖くないし、負けるのがめちゃめちゃ悪いわけでも実際ない。失敗しないとなかなか成長するのは難しいから。どんどん難しいことにチャレンジしないと成長はないのかなって思っています。だから前向きにプレーをさせて、迷ったらやってくださいって。前向きなトライとかっていうのをどんどん推奨していて、もしミスったとしてもまたみんなで取り返せばいいじゃんって。
例えばバックパスが多いとやっぱりメンタル的に後ろ向きになると思うんですよ。「ゴールは向こうにあるよ」って。「前に」「ゴール」を目指した方が絶対いい。ミスったとしてもチャレンジしている感覚はあるかなって。逆にバックパスは、ほぼ成功すると思うんですよ。でもたくましくないじゃないですか。「なるべく前に」っていうシンプルな考え方ですよね。
マインドを前向きにするとプレーも前向きになるのかなっていう、それも要求していましたね

ハードな練習が実を結んでいく…

石丸監督は練習でよいパフォーマンスをしたメンバーを積極的に試合で起用。
互いに切磋琢磨せっさたくまできる環境を作りました。

 

ちょっとでも抜いてるって言ったらおかしいですけど、ちょっと出来ていないとか、「ここをサボるんだ」っていう選手はなるべく代える。勝ったとしてもそこは過去のことなんで。きょうの練習でできていなかったら明日はまた代えないといけないという状況の繰り返しです。そういうことはちょっと言ってました。選手には。成長した選手はどんどん使っていくべきで、なおかつそこでやっぱり成長を得られるじゃないですか。試合の中でもそうだしっていう。そういう部分では僕もチャレンジしないといけないなっていうか、みんなうまくなりたいっていう気があったし、チームのためにみんな本当に毎日思って取り組んでくれたのかなっていうのは思いますね

これまでの監督のキャリアの中でいうと、今年の愛媛FCはどういうチームだったのですか

ある意味「素直」ですよね。あのきつい練習、みんな文句言いたくなると思うんですよ。でもよくやったなって。去年もやったのですが、やりきれなかった。
ことしも選手はすごい嫌な顔していましたけど、やっぱり結果が出てくるとちょっと自信にもなる。最後足が止まらないとか。それがひょっとしたら逆転勝利につながった可能性もあるし、相手チームの運動量が落ちている時に、僕たちはまだ走れるとか。途中出場の選手が活躍するとかも含めて、それがちょっとうまい具合にいったのかなって思いますね

シーズン中、練習での取り組みが現われた印象的なプレーがありました。
疲れが出る試合の後半。
MFの石浦大雅選手が相手のバックパスをしつこく追いかけてキーパーまで迫ります。
キーパーは慌ててパスを出そうとしましたが、その足下に石浦選手がスライディング。
ボールは石浦選手の足に当たり、そのまま跳ねてゴールに入りました。

守備のところもゴールを奪うっていう目的が自分でもすごく分かってきたのかなって。「行ってもとれないじゃないですか」っていうマインドが強かったと思うんです。(石浦)大雅とかは大分変わりましたね

鍵となった試合は?シーズンを振り返って

石丸監督に今シーズンを振り返ってもらいました。

まずはホームで迎えた開幕戦。
大敗を喫しました。

こたえますよね。ことしはいけるっていう感じでの臨んだゲームだったんで。チーム作りとしては、結構プレシーズンで結構いい内容で勝てたりはしたんですよ。実際言うと1週間前に今治と試合して、1-0で勝っていて、そこそこ「なんかちょっと今年はできるかな」っていうのもあったんですよね。そんなに悪くなかったっていう部分もあったんで、本当にそれがスタメンを入れ替えるのがいいのかどうかっていうふうなかたちには相当悩みましたよね

2試合目はスタメンを5人変更して引き分け。
その後は柔軟にメンバーを入れ替えながら勝ち星を積み重ねていきました。

そして石丸監督がチームとしての強さを実感したのは第17節の富山戦です。
2点を先制されながらも、諦めず戦い続け、最終的に4対3で逆転勝利をもぎとりました。

前半戦最後の3連戦も全て逆転勝利。
首位で折り返しました。

逆転勝利って勢いには乗りますよね。すごい若いチームだから

そして後半戦も好調を維持。
第21節の岐阜戦では大胆に前の試合からスタメンを8人も変更して臨みました。

逆に言えばトレーニングしている選手たちの内容がよかったりとかしてたんで、どこかで変えようっていうタイミングをちょっと見計らってたっていう状況ですよね。判断は相当前迷いました実際。で気がついたら8人変わるっていう。向こうもびっくりしてましたね。Bチームかって

このまま勢いに乗って首位独走するかと思われていましたが、石丸監督は反対に一抹の不安を感じていたといいます。

逆に怖さがあったんですよずっと。負けたときにすごいチームが落ちるんじゃないかとずっと思ってて

その不安は的中します。
第28節からの上位チームとの2連戦。
今季初めて連敗を喫してしまいました。

若いチームが勢いでやっていたのが、だいぶしんどいんじゃないかなって。(優勝を見据えて)いつもよりメディアの方がめちゃめちゃ来るようになってきたんですよ。だんだん固くなってしまった。なんか選手たちが“優勝”って初めて感じちゃったのかなって

チーム内に重たい空気が漂う中、救ってくれたのはベテランの存在でした。
元日本代表の森脇良太選手が試合前のミーティングの場でメンバーに向けて語りかけました。

森脇選手

とにかくおれがみんなに伝えたいのはとにかくプレッシャーを感じるんじゃなくて楽しんでもらいたいなと。みんな一丸となって勝利目指してがむしゃらに戦ってひたむきに戦っていきましょう

そこでなんかチームがふっきれたのかなって。「(プレッシャーを)解放できたらもっと力出せんのにな」って森脇は理解してたのかな。楽しもうぜって話を言ってくれたのは大きかったかなと思います

カギは「チームワーク」

最後に、今シーズンの愛媛FCを表すキーワードを挙げてもらいました。

「チームワーク」かな。誰か1人に依存しているわけじゃなくて全員で本当に勝ち取ったものかなっていうのは本当に思っていて。コミュニケーションの良さから全員を理解してお互いを認め合った結果かなって。“チームから離れているな”っていう感じの選手は誰1人いなかったんじゃないかなと思いますね。チームのためにってことを言ってくれてるらしくて、選手たちもそういうのは今年のチームは違うところかなって

インタビューを終えて 杉岡の感想

語り口が「穏やか」。でも、話の内容は「熱い」。
インタビューを終えての感想です。
普通、熱い話をする時って声が大きくなったり早口になったりしますよね。でも石丸監督はそういう感じにあんまりならないんです。聞き手の私が理解しているか確認しながら、穏やかに楽しそうにじっくり話してくださいました。インタビューが始まる時、私自身緊張していたのですが、気が付くといつの間にかずいぶんリラックスしていました。きっと選手がのびのびプレーする環境は監督のこういう空気感が作るんだろうな、と勝手に想像していました。

来季はJ2、今年以上に厳しい戦いが待ち受けていることは間違いありません。
石丸監督がどんなチームを作っていくのかほんとに楽しみです。

  • 杉岡英樹

    杉岡英樹

    2022年より松山局。Jリーグ・野球などのスポーツ中継を担当。

  • 白石陽亮

    白石陽亮

    NHK松山放送局ディレクター。愛媛出身。ディレクター歴10年以上。これまでスポーツや戦争、インフラなど、四国各地で取材。

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