宇和島市 地域猫を守りたい
- 2024年02月13日
漁港を歩けば、猫がいる。ニャーニャーと鳴き、つぶらな瞳にモフモフの毛がかわいらしい。えさがほしいのか、足元にすり寄ってくると、思わず情が移る。一方で、増えすぎた野良猫は衛生面や騒音など人の暮らしにも悪い影響を及ぼす。猫と人が幸せに暮らすにはどうしたらいいのか。共生の道を目指す一人の女性に出会った。
(NHK松山放送局 宇和島支局 山下文子)
特集の内容はNHKプラスで配信中の2月9日(金)放送「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。
猫と人がともに暮らすために
「小さな命を守りたい」。宇和島市で15年以上、猫の保護活動をしている佐々木一恵さんだ。自らが子猫を保護したことがきっかけで、行き場のない猫たちを自宅に保護している。見ると、どの猫も片耳だけ、まるでさくらの花びらのように先がカットされている。
佐々木一恵さん
「さくらみみの猫って呼ばれてるんですけど、これは不妊去勢手術をした印なんですよ」
佐々木さんは、NPO団体を立ち上げ、野良猫たちに不妊去勢手術を施し、再び元の場所に返すという活動をしている。1匹につき、1万円から2万円ほどの手術費用がかかる。
野良猫の過剰繁殖は、日本全国の大きな課題だ。増えすぎるのを抑えるためには、手術は必要不可欠だという。猫は繁殖能力が高く、年に何度も出産し、放っておけば一匹のメスから一気に数十匹まで増えてしまうのだ。
「増えすぎるとどんな生き物でも問題になっちゃうんですよね。猫だと悪臭を放つだとか、ゴミをあさるとか、発情したりけんかしたりして騒音になっちゃったり、とにかく苦情が来るわけですよ。そうすると、猫たちも必死で生きてるだけなのに、人とうまく生きていけなくなるんです」
その始まりのほとんどは、人が飼っていた猫を捨てることだと佐々木さんは考えている。多くの猫ははじめから野良猫だったのではない。命を預かることの責任を一人ひとりが持ってほしいという。
「一番に言いたいのは、捨てないこと。捨てられた猫が増えてくんです。猫は、自分がぼろぼろの状態になっても子孫を残そうと子猫を産みます。子猫は育ててもらえない状況で、病気になったり、殺処分されたりしています。そんな状況を食い止めるには、一匹ずつ不妊去勢手術をやっていくしかないんですね」
増やさないためにやらなければならないこと
佐々木さんたちは、月に1回程度、獣医師に依頼して手術を行っている。市内の福祉会館の一室には、NPOのメンバーやボランティアらによって、20匹ほどの野良猫たちが集められていた。佐々木さんたちは、手術の前に猫の体重を量り、見た目の特徴や捕まえた場所などを記録している。術後、元いた場所に返し、経過観察をするためだ。
手術を行うのは、猫の不妊去勢手術を専門にしている高知県四万十市のクリニックの獣医師たちだ。全国に拠点をもっていて、専用の設備を備えた車の車内で手術を行う。狭いながらも、テキパキと2人で手術が進められていく。早ければ1匹15分程度。まだ麻酔が効いている状態で、手術を終えた印として耳の先をカットする。
「手術をしたことがわかるように、メスは左耳を、オスは右耳をカットしています。術後には化膿止めと痛み止めの注射をして、出血がないか確認して活動家さんたちに返します。わたしたちが目指しているのは、とにかく飼い主がいない猫が増えるっていう事態を収めたいということです。手術するのがかわいそうと言う人もいるけれど、望まれない命が増えていくことの方がかわいそうだと思うんです」
行政の支援が不可欠
佐々木さんたちの活動に理解が深まり、令和元年度から宇和島市が助成金を交付している。予算も徐々に増え、この5年間でおよそ860匹が手術を受けている。県内各地の自治体でも制度が整ってきていて、申請すればだれでも助成を受けられるという。中には全額負担する自治体もある。
「さくらみみの猫たちが、地域でかわいがられているというのを聞くと本当にうれしい気持ちになります。猫を嫌がる人たちもいるけれど、耳をカットしているのを見てもらったら、この子は一代限りの人生を全うするのだと温かい気持ちになってほしい。同じ地球に生きている存在なんだから、できれば共生していきたい」
取材後記
九島地区では、去年4月に50匹が手術を受けたという。なるほど、私が出会った猫はすべてさくらみみの猫たちだった。地元の人に話を聞くと、「ここならなんぼでも魚があるし、えさをやったらかわいくなるのよね。手術も受けとるみたいやし、わしらが生きとる間は面倒見てやれるわ」と話していた。猫の平均寿命は15年ほどだという。人と比べれば、短くてはかない。ほんのわずかな時間をともにする猫と人が仲良く幸せに過ごせたら、これほどの楽園はない。そのために継続している佐々木さんたちの愛ある行動を私はこれからも取材していきたいと思う。
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