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女性7人の「とべりて」 愛媛の伝統工芸 砥部焼の魅力を伝え続ける作り手たち10年の歩み

  • 2023年12月07日

落ち着いた色合いのものから、華やかなものまで、作家ごとに違った表情を見せる愛媛を代表する伝統工芸の砥部焼。こちらは砥部焼をPRする女性作家グループ「とべりて」の作品だ。白磁に青い呉須で模様を施した伝統的な印象の器とまたひと味違った魅力がある。グループの結成からことしで10周年を迎えるが、砥部焼の魅力を伝えたいという変わらない情熱とともに歩んだこの10年についてメンバーたちに話を聞いた。

(NHK松山放送局 宇和島支局 山下文子)

女性目線の砥部焼を「とべりて」結成

愛媛の伝統工芸品、砥部焼の歴史は古い。240年あまり前の江戸時代から伊予砥石の産地として知られていた。現在、砥部町には100軒ほどの窯元があるという。窯元の妻や元教師など、経歴も作風もさまざまな個性あふれる7人の女性たちが2013年に結成した「とべりて」。『砥部焼の作り手』という意味を持つ。もともと窯元は男社会だったと振り返るメンバーたち。かつて女性は窯元である夫をサポートする存在で、自らを作家と名乗る人はほとんどいなかったという。

愛媛を代表する伝統工芸品 砥部焼

とべりての代表を務める「きよし窯」の山田ひろみさん。佐賀県出身で、窯元である夫との結婚を機に染め付けを始めたという。

グループの代表 山田ひろみさん

「女性目線の砥部焼があってもいいんじゃないかと思ったんですね。そういう時代じゃないですか。昔は窯元の妻どうしでお茶やお酒を飲む機会なんてなかったそうです。それをこうやって砥部焼の魅力を広めたいという同じ志を持った7人が集まった。10年一緒にやれるなんて本当に奇跡みたい。うれしいです」

結成して間もなく、大きな仕事が舞い込んできた。JR四国が食事ができる観光列車を走らせることになり、車内で使われる食器をつくってほしいと依頼があったのだ。愛媛らしい特別感を味わえる華やかな列車のイメージに7人の個性が光るデザインがぴったりだと採用されたのだ。

山田さん

「一番最初で、今でも最大の仕事ですよね。一つの窯で何百という数を作らなければならないっていう。心臓が止まりそうなくらいの注文で、みんなでおそろいの同じ形ですが、それぞれ7人がそれぞれのデザインで絵付けをしていくという感じでした」

2014年にデビューした観光列車「伊予灘ものがたり」は、現在も乗車率は9割を超えるほどの人気ぶりだ。県産の旬の食材を楽しめる食事にはかかせない器。コーヒーカップやティーポットも、客ひとりひとりに装いの違う食器が運ばれてくる。どんな器でくるのかな?私も、そんなわくわくした気持ちになる。

JR四国の半井真司会長も「まぎれもなく、とベりての器は食事の時間をいっそう楽しいものにしている」と賛辞を述べる。

JR四国 半井真司 会長

「とべりての誕生が観光列車の構想時期と近かったこともあり、彼女たちの作品を見たとき柔らかくてぬくもりがあると感じました。列車のコンセプトにぴったりはまると思いました」

とべりての活動は器をつくって納めるだけにとどまらない。メンバー自身も列車に乗り込み、絵付けの乗客に絵付けを体験指導する特別ツアーも開催した。あの手この手で砥部焼の魅力を伝えようと熱心に活動した結果、効果も少しずつ現れ始めた。

とべりてメンバー・松田知美さん
「列車の中で使ってた器を見て、工房に訪ねて来られた人もいました。窯元は閉じた世界というか工房にこもってひたすら作るっていう感じなんですけど、それがいろんな外の世界を見せてもらって、いろいろな人とつながっていって、いい経験になったと思います」

広がる「とべりて」の活動

JRとのコラボをきっかけに多方面から引き合いが増えたという。銀行の記念品や百貨店とのコラボ商品。仏具店からも発注があった。同じ砥部町のホテルからあった依頼は、大胆なものだった。「ホテルを1室づつまるごとプロデュースしてほしい」という内容だ。

プロデュースした部屋の1つ

客室で天然温泉も楽しめる砥部町のホテル。3階の9つある部屋すべての内装をとべりてに任せた。7人がそれぞれ一部屋ずつ感性が赴くまま、デザインに取りかかった。森と動物をイメージしたり、伝統的な砥部焼の青をモチーフにしたり、はたまたみかんをモザイクで壁に展示したり、思い思いの1室が完成した。浴槽のタイルや手水鉢もそれぞれ世界に一つだけのデザインだ。残りの2部屋はメンバー全員によるプロデュース。どの部屋に泊まろうか?こちらもまた、わくわくが止まらない。ホテルの大川勢津子支配人はこのように話す。

ホテルていれぎ館 大川勢津子 支配人

「砥部焼を知らなかったお客様が部屋に入って初めて砥部焼に出会うという体験をされています。個性あふれる部屋なんですが、陶板一つにしてもお客様に喜んでほしいというおもてなしの心づかいが見え隠れします」

とべりて自身も、まるで1両の列車だ。中心となるエンジン役もいれば、物事を前に進めていくアクセル役もいる。時にはブレーキ役もいる。そんな7人7様のメンバーが一つになって、前に進んでいるのだという。個性豊かなメンバー、一人ひとりに、この10年について振り返ってもらった。

とべりてメンバー・郷田裕佳子さん
「自分1人だったらできないようなスケールの大きなことを7人でやってきて、本当にすごいなと思います。長い付き合いですけど、みんな本当に好みがばらばらで、着物一つにしても、全員違う模様の柄を選んだりすると、こんなに違うんだなって思います」

とべりてメンバー・白石久美さん
「10年ってあっという間やったけど、この10年で若い世代の人たちもどんどんと頭角を現してきているなと思います。みんな力をつけてきていて、負けないようについていかなくちゃって思ってます」

とべりてメンバー・大西三千枝さん
「一つの窯では経験できないような仕事にもたくさんあって、チャレンジをしているというのが私にとってすごく大きなことです。自分自身のスキルアップにもすごくなったと感じています」

窯元でのパート体験をきっかけに、本格的に陶芸の道を歩み始めたメンバーもいる。

とべりてメンバー・中川久留美さん
「私が工房を始めるのと、とべりてができたのが同じ時期だったので、初めてのことばかりで、泥まみれのスタートでした。いろんなアイデアがあっていい、というとべりてだからこそ自分の作りたい形にも挑戦できるようになりました」

こちらのメンバーはギャラリー兼カフェを経営している。そこではすべてのメンバーの作品を展示販売しているそうだ。

とべりてメンバー・佐賀しげみさん
「とべりてに加わって、みんなと定例会をするようになって話すたびに世界が広がってきました。観光列車がリニューアルするときは、コロナ禍でしたけど、器を全部一新するということだったので、新しい絵柄をリクエストされたりして。プレッシャーでしたけど、どんどん作品は増えていきました」

砥部町出身の映画監督・大森研一さんがメガホンを取った「未来へのかたち」。作品の舞台は砥部町だ。作品誕生の舞台裏には、実はとべりての貢献があった。大森監督がメンバーに「砥部焼をテーマに映画を撮りたい」と打ち明けたところ、「愛する砥部焼を映画にできるなら、何でも協力する!」と惜しみない協力を申し出たという。監督もその情熱に感動したそうだ。

映画監督 大森研一さん

「とべりてのみなさんは、そもそも伝統を背景にしながら新しいことをしようとする人たち。周りが嫉妬するくらい砥部焼の感動を伝えたいという情熱がすごかった。映画作りには欠かせない存在でした」

あふれんばかりのエネルギーはどこから来るのか。器を作るというシンプルな行動の中にも、器を使う人のことに思いをはせているのではないか。砥部焼の器はいくつあってもいい。メンバーと接していると、その手仕事のひとつひとつがいとおしくなるから不思議だ。日々の食卓に、特別な空間に、砥部焼は作り手のぬくもりと一緒に、いつも近くにあってほしい。

(特集の内容はこちらの動画でもご覧いただけます)

  • 山下文子

    山下文子

    2012年から宇和島支局を拠点として地域取材に奔走する日々。 鉄道のみならず、車やバイク、昭和生まれの乗り物に夢中。 実は覆面レスラーをこよなく愛す。

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