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四国中央市「豊受山」 やまじ風との関わり

「えひめふる里山歩き」その(5)
  • 2023年09月29日

愛媛県内の身近な里山の魅力を紹介するシリーズ「えひめふる里山歩き」。
5回目は四国中央市の「豊受山」です。実はこの山「日本三大局地風」のひとつ「やまじ風」と深い関わりがあります。山と風の関係を探ってきました。

(NHK松山放送局 野口琢矢 気象予報士 
岡部馨 カメラマン)

豊受山(とようけやま)

豊受山の標高は1247メートル。
四国中央市から新居浜市にかけて東西に伸びる、法皇山脈の山の一つです。平地から尾根まで突き上げるような「急な傾斜」が特徴で、市内から見上げると、市街地のすぐ南側に「壁」があるかのように感じられます。

そして地元では、山の上にある岩穴から「やまじ風」が吹き出すと信じられてきました。

「やまじ風」とは

「やまじ風」は豊受山がある東予東部を中心に局地的に吹く風で、四国山地を越えてきた南からの風が法皇山脈の急な傾斜に沿って一気に吹きおろす現象です。 岡山の「広戸風(ひろとかぜ)」、山形の「清川だし(きよかわだし)」とともに「日本三大局地風」のひとつに数えられることもあります。

「やまじ風」は主に春と秋に発生し、最大瞬間風速が60メートルを超えることもあります。これは大型トラックを横転させるほどの強い風で、建物が壊れたり、収穫前の稲が倒れたりするなど、一帯に被害をもたらします。

「やまじ風」知らせる現象

地元の人たちは、風が吹く前に見られる特徴的な現象を捉えることで「やまじ風」に備えてきました。そのひとつが法皇山脈に雲が笠(かさ)のようにかかる現象「けた雲」です。

この写真を撮影したのは、四国中央市の職員で気象予報士の資格を持つ高橋芳清さんです。
高橋さんによると「この雲は高知県側から吹く南風が山に向かって集まっている証拠で『けた雲』が現れると数時間のうちに『やまじ風』が吹くことが多い」そうです。
(※雲の形は流動的で、見え方は写真と異なる場合があります)

また、豊受山のふもとに長く住んでいる80代の女性は「昔は風に弱い住宅も多く、山に『けた雲』がかかると窓に板を打ち付けるトンカチの音が町に鳴り響いていた」と話していました。

三島南中学校 気象部

訪ねたのは、豊受山のふもとにある三島南中学校です。県内で唯一だという「気象部」の部員たちが元気いっぱいに出迎えてくれました。

気象部 米本羽琉希 部長

気象部では「やまじ風」が起きる原理を解明しようと、校舎の屋上に設置した風速計で風のデータを集めています。 
3年生の米本羽琉希部長に記録を見せてもらうと、ことし6月21日、最大瞬間風速24.2メートルの非常に強い風を観測していました。

米本さん

「南寄りの24メートルを超える風 これは「やまじ風」と言えます!」

こうした気象部による観測は、昭和26年から70年以上も続けられています。そして、部員たちが観測した記録は香川大学などに共有され、「やまじ風」の研究に大きく貢献しています。

 

米本さん

「現在はまだ、風のおおまかな時間しか予測できませんが、それが何時何分に吹きますとか、より正確な情報を地域に提供できるように、研究に役立てて欲しいと思います」

豊受山の「風穴祭り」

地元で「やまじ風」が吹き出す山と信じられてきた豊受山。
ふもとの住民たちは古くから「やまじ風」と向き合ってきました。その一つが「風穴祭り」です。

山頂にある豊受神社では、神様にだんごをお供えして「やまじ風」の被害を封じるように祈る神事の「風穴祭り」が年2回行われています。

2023年9月10日。
山に登って「風穴祭り」を行うため、豊受神社の氏子たちが集まりました。気象部の部員たちも参加します。

豊受山へ

この日は、朝から小雨が降るあいにくの天気でしたが、登山開始前にはほぼ雨も上がって、大きな虹もかかりました。
豊受山の登り口は複数ありますが、今回は翠波高原から林道を車で30分ほど進んだ先にある、標高およそ800mの場所から登ります。

「やまじ風」生む地形

登り始めると、すぐに険しい上り坂が待ち受けていました。元気いっぱいの中学生について行くのは本当に大変です。

豊受山の急な斜面に備えて皆さんが用意していたのは「荒縄」です。靴の上から縛ることで、滑り止めになるそうです。

「私もつけてもらうことに。すると荒縄がしっかりと斜面をつかみます。 ぬかるんだ場所でも安心して足を前に進めることができました」

荒縄の力も借りながら登っていきましたが、山はさらに険しさを増します。 
実は、この急な斜面が「やまじ風」の発生に関わっているんです。
南から北へ、山の尾根を越えてきた空気は山を駆け下りるように吹き降ろします。
豊受山の切り立った地形が「風の加速装置」となり「やまじ風」を生んでいることを実感しました。

「やまじ風」吹き出す「風穴」

登山口から1時間半ほど歩くと豊受神社に到着しました。そして、社殿の奥には大きさ1メートルほどの岩穴がありました。「やまじ風」が吹き出すとされている「風穴(かざあな)」です。

米本さん
「今回は秋なので、この秋にとれた新米をだんごにして風穴の中に投げます」

風穴祭り

「風穴祭り」が始まりました。氏子たちは365個、一年分のだんごを穴の中へと投げ入れて「やまじ風」の被害がないよう祈願します。

この神事は1300年以上続いているとされ、その起源は飛鳥時代の7世紀後半までさかのぼります。
そして「豊受神社風穴祭り」は四国中央市の無形民俗文化財に登録されています。

米本さん

「やまじ風をもう吹かさないでくれ。できるだけ強めないでくれという心で投げました」

豊受神社 合田慶守 宮司
「この祭りを続けることで、神様によって大きな災いを少しでも小さなものにして頂けるのであれば本当にありがたいです」

豊受山の頂へ

最後に、山の頂へ向かいました。
山頂からは風上となる四国山地の山並み、そして「やまじ風」が吹き降ろす四国中央市の両方を望むことができました。

今回は「やまじ風」という特異な気象現象と「風穴祭り」という地域の風習が密接に絡み合っていることを実感する登山になりました。

1句詠んでみた

コーナー恒例の「里山ハイク」です。 わたしも1句詠んでみました。

やまじ駆る峰の御社穏やかに

やまじ風よ!どうかこの豊受山で勢いを抑え、穏やかに山を下りてください。
そう祈りを込めて詠みました。

豊受山について

所在地:愛媛県四国中央市
標高:1247m
備考:登山口までは市内から翠波高原を経由して車でおよそ30分ほど。細い林道を通りますので運転には十分に注意して下さい。

 

「えひめふる里山歩き」のコーナーでは皆さんおすすめの山の情報を募集しています。
山の魅力や思い出など、エピソードも添えて、下記のリンクからお寄せ下さい。

  • 野口琢矢

    野口琢矢

    松山放送局「ひめポン!」のお天気コーナーを担当する気象予報士

  • 岡部馨

    岡部馨

    NHK山岳カメラマン。ふる里山歩きのコーナーを担当。

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