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専門家も驚いた 愛媛特産“はだか麦”のウイスキー

  • 2023年06月15日

専門家でさえ「聞いたことがない」と驚くウイスキーが愛媛で誕生しました。その原料は愛媛が36年、生産量日本一を誇る「はだか麦」。どのようなウイスキーなのでしょうか。

                     (NHK松山放送局 的場恵理子)

琥珀色に輝く液体の正体は

6月4日、大洲城の天守閣前で開かれたウイスキーの試飲会。
木の樽から取り出されたのは、琥珀色に輝く液体。
「はだか麦」を使ったウイスキーです。

 

すごくきれいな色ですよね。文字だけではお伝えしきれませんが、グラスにそそぐと何ともいえにない、甘く、よい香りが漂っていました。

試飲会には、愛媛県の中村知事も参加。
「はだか麦の香りが漂う若々しくてキレのある飲み心地だ。水割りにするとまろやかになるね」と評していました。

なぜ、はだか麦でウイスキーを

このウイスキーを手がけたのは、大洲市の酒店の社長と東温市の農業法人の代表、そして松山市のバーテンダーの3人です。
現在、国内で流通しているウイスキーの主な原料は大麦やトウモロコシで、はだか麦を使ったものはありません。
3人はなぜ「はだか麦」でウイスキーを作ることを思い立ったのでしょうか。

提供:ジェイ・ウィングファーム

はだか麦とは、西日本を中心に古くから作られている麦の一種です。
生産量は愛媛県が36年連続全国1位。
愛媛と聞くとみかんを思い浮かべる人が多いと思いますが、実は「はだか麦」王国でもあるのです。
そして、はだか麦はみそや麦ごはんの材料として使われることが多く、ウイスキーの原料で使われることは専門家でも聞いたことがないといいます。

 

開発メンバーのひとり、大洲市にある酒店の社長、小谷順一さんは「愛媛で勝負するウイスキーを作るなら、愛媛が日本一を誇るはだか麦しかないと思った」と力強く語っていました。

はだか麦でつくる難しさ

はだか麦でウイスキーをつくることは簡単ではありませんでした。
ウイスキーによく使われる二条大麦と比べると生産量は少なく、専用の設備があるわけでもありません。

そこで3人はさまざまな穀物を原料にウイスキー造りに取り組む蒸留所が新潟県にあると聞き共同開発を打診しました。

新潟に何度も通いながら、はかだ麦と大麦麦芽との配合などを研究。
試験蒸留を繰り返した結果、今回の試飲会にたどりついたのでした。

マッサンもはだか麦に目を付けた?

はだか麦のウイスキーは流通していないと説明しましたが、ある人物がつくった可能性があるという資料が残されていました。
それは、国産ウイスキーづくりに尽力した竹鶴政孝さん。あの“マッサン”です!

ウイスキー文化研究所の代表、土屋守さんによりますと、20代の竹鶴さんがスコットランドで修行中、残したノートのなかにはかだ麦を使ったウイスキーのレシピが記されていたのだといいます。

ただし、今からおよそ100年前の当時、麦の種類が今ほど詳しく分類されていたかどうかはわからず、現在のはだか麦を指しているかどうかは特定が難しいということです。
それでも、土屋さんは「竹鶴さんは広島出身。瀬戸内地域で栽培が盛んに行われていたはだか麦を知っていた可能性もある。はだか麦を使ったウイスキーづくりも学んだ可能性はありますね」と話していました。

クラフトウイスキーがブームに

ウイスキー文化研究所 土屋守 代表

さらに土屋さんが教えてくれたのは、“クラフトウイスキー”のブームです。
地元の麦など穀物を生かし、地産地消のウイスキーを造る。
「クラフトビール」人気の流れがウイスキー界にも広がりつつあるのだといいます。
国内では計画段階のものも含めると100か所ほどのウイスキーの蒸留所ができる見込みだそうです。
土屋さんは「地域の素材を生かした特色あるウイスキーづくりはまさに今のトレンドで可能性のある取り組みです」と指摘します。
しかし、30年以上ウイスキーに携わる土屋さんにとってもはだか麦を原料にしたものは聞いたことがなく、初めて聞いた時はびっくりしたそうです。
「ぜひ飲んでみたい。興味津々です」と商品化を楽しみにしていました。

今回完成したウイスキーは200リットルのたる2本分。
商品化するにはまだ十分な量ではありません。
小谷さんたち3人は、本格的な製造資金を集めるためにも、ことし秋にクラウドファンディングを行い、その返礼品としてウイスキーを送ることにしています。

はだか麦の需要を増やしたい

はだか麦の生産者からも期待が高まっています。
愛媛県によりますと県内のはだか麦の収穫量は、昭和20年代から30年代にかけて10万トンに迫る年もありましたが、去年は4340トンまで減りました。

プロジェクトメンバーのひとりではだか麦を生産する牧秀宣さんは、今回の取り組みに大きな可能性を感じると話していました。
はだか麦はみそや麦ごはんといった古くからの利用が主で、新たな用途の活用が課題となっていました。
ウイスキーという未開の分野に1歩を踏み出すことは、農家にとっても希望になっています。

かんきつの香りがする?

ほとんどの人が口にしたことがない、はだか麦のウイスキー。
どんな味なのか気になりますよね。
プロジェクトメンバーのひとり、松山市のバーテンダーの高橋宏典さんに改めて詳しく教えてもらいました。

試飲会では、高橋さんはウイスキーがどこまで仕上がっているか、正直不安だったそうです。
なぜなら、ウイスキーは木だるの中で熟成して味がつくられるので、どの程度熟成させるのがベストなのかまだ未知数だからです。
しかし、たるからウイスキーをすくい上げた時、色味も香りもよい仕上がりあったため高橋さんはほっと胸をなで下ろしたといいます。
「オレンジやきんかんのようなかんきつの香りも感じました」と味の特徴を表現していました。

試飲会の参加者からも「さっぱりした味だ」といった感想が多く聞かれました。
しかし、高橋さんは今回のウイスキーははだか麦がみせる可能性の1つを引き出したに過ぎないと捉えています。
ほとんど前例のない素材だからこそ、今後、配合や熟成度合いでさらにリッチでまろやかな味になるかもしれないと、期待していました。

マッサンも造ったかもしれない、はだか麦のウイスキー。
商品化に向け、大きく動き出しています。
“はだか麦王国”愛媛の挑戦は始まったばかりです。
 

  • 的場恵理子

    的場恵理子

    徳島局を経て2019年から松山局勤務。災害・伊方原発の取材を担当。 好きな食べ物は「から揚げ」。かんきつについて日々勉強中。

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