なぜ『車移動に、1キロ37円支給?』政務活動費ルールを調査
- 2023年04月13日
仕事で自家用車を使って移動した場合、1キロ37円を支給される・・・というルールがあったらみなさんはどう感じますか。車によって燃費はさまざまですし、感じ方はいろいろだと思います。
これ実は、みなさんにとって意外と身近な人の活動のルールの一部なのです。
その名も「政務活動費」。地方議員に支給される経費の一部なのですが、全国でもそのルールはまちまちなようで。
私たちは思い切って全国47都道府県議会に聞いてみました。
(NHK松山放送局 的場恵理子/後藤駿介)
政務活動費とは
みなさんそもそも「政務活動費」って知っていますか。地方議員が調査や研究を行うために支給される費用のことで、議員報酬とは別に支給されます。
専門書を購入したり、研修に参加したりとその用途はさまざまです。
金額は自治体によって異なりますが、愛媛県議会は月額33万円が支給されています。
この政務活動費は、使い道が具体的に分かるよう、「領収書」の提出が議員に義務づけられています。
ただ、政務活動費は、全国的に不正受給が相次いでいて、透明性の確保が大きな課題となっています。
進む「領収書」のインターネット公開
こうした中、今回の取材で全国である動きが進んでいることが分かりました。
透明性を高めようと、24時間誰でも政務活動費の「領収書」を確認できるよう、インターネットでの公開が進んでいることが分かったのです。
ことし3月時点で、予定を含めると半数を超えていました。
【領収書のネット公開している議会】
22/47議会中
宮城・秋田・群馬・東京・埼玉・新潟・富山・福井・静岡・三重・京都・大阪・兵庫・奈良・島根・山口・鳥取・徳島・高知・大分・宮崎・沖縄
【ことしか来年、ネット公開予定】
3/47議会中
山形、神奈川、香川
【領収書のネット公開していない】
22/47議会中
北海道・青森・岩手・福島・茨城・栃木・千葉・山梨・長野・岐阜・愛知・石川・滋賀・和歌山・岡山・広島・愛媛・福岡・熊本・佐賀・長崎・鹿児島
四国で唯一ネット公開を決めていない愛媛
しかし、まだ「領収書」のネット公開を決めていない議会があるのも実情です。
実は四国では唯一、愛媛だけが決めていません。
そうなれば、「領収書」を確認するには、議会に出向いて閲覧したり、情報公開請求をしたりしなくてはいけません。
ただ、議会での閲覧は、時間が限られていて遠くに住む人などは手間がかかります。
また、情報公開請求にはコピー代に多額の費用がかかります。
こうした状況に専門家は次のように話しています。
「政務活動費の原資は税金であるため、その使い道を多くの人に知ってもらうことはチェック機能の上でも重要だ。インターネット公開を行う議会も増えているので、行っていない議会も検討して欲しい」
一方、誰でもチェックできる環境は、議員にとってもプラスになると指摘する専門家もいます。
「議員の立場に立って考えると、議会のことを住民にもっと知ってもらう必要がある。透明性をはかって、領収書を広く示すことは、議会の活動を住民に分かってもらうよい機会にもなりますよね」
バラバラな政務活動費のルール
また、今回、全国の議会に取材していて驚いたことがありました。
それは政務活動費のルールが都道府県議会で大きく異なるということです。
実は政務活動費のマニュアルや手引きは、全国で統一的なものがあるわけではなく、各議会で作成することになっているのです。
“親族への支出の制限は”
その中で、最も気になったのが、“親族”への支出についてのルールです。
上の図は、47都道府県議会に、親族に対し「人件費」を支出することを制限しているかどうか聞き取った結果です。
「制限している」と回答したのは38の都道府県。
このうち、岡山県や鳥取県などでは祖父母や孫など2親等の親族まで「人件費」の支出を認めていません。
さらに石川県議会では、はとこなど6親等までという広い範囲で制限しています。
一方、「制限していない」と回答したのは9の県でした。
また、「事務所費」として親族が所有する物件の賃借料などを支出することについて制限しているかどうかも聞きました。
その結果、「制限している」と回答したのは41の都道府県。
秋田県議会では親族が所有する物件だけでなく、親族が役員となっている法人などが所有する建物についても賃借料の支出を認めていないということです。
これに対し、「制限していない」と回答したのは6県でした。
「人件費」や「事務所費」について親族への支出を制限している議会の方が多く、理由として「資金の環流が疑われるおそれがある」ことなどを挙げていました。
親族への制限をかけていない議会は・・・
愛媛県議会に目を向けると、「人件費」と「事務所費」のいずれも制限していません。
いずれも「制限していない」と回答したのは愛媛県と埼玉県しかありませんでした。
愛媛県議会では、適正に政務活動費が使われるよう、人件費については雇用条件を明確にすること、事務所費については妥当性のある賃料を設定することなどを求めるにとどめています。
また埼玉県議会は慎重な対応を求めているとしています。
こうした状況に対し、政務活動費に詳しい専門家は、親族への支出について、疑惑を持たれないためのルールを設けることが重要だと指摘します。
政務活動費に詳しい日本大学の岩井奉信 名誉教授
「親族に対する人件費や事務所費の支払いは、どうしても利益を還流させているのではないかと疑惑を持たれてしまうので、一定の制約はやむをえないだろう。もし制約を設けないならば、それはなぜなのかということを広く説明しなくてはならない」
“ルールも金額もバラバラなガソリン代”
話が長くなってしまってすみません。もうひとつだけ話を聞いてもらえますか。
実は、全国でルールが異なっているのは親族への支出だけではないんです。
政務活動で自家用車を使用したあとに支給されるガソリン代などの経費についてもです。
支給方法や金額がバラバラなのです。
まず支給方法ですが、領収書の提出が義務づけられているかどうかが違います。
政務活動費からガソリン代などを支給するのに、領収書の提出を義務づけているのは12の都道県。残りの35の府県では領収書の提出がなくても、走行距離などの申告に基づいて、1キロ当たりの単価をかけて支給できるようになっています。
しかも、1キロ当たりの単価も全国でバラバラ。最も安いのが宮崎県議会の17円。最も高いのは37円です。37円に設定しているのが最も多く16議会にのぼりました。
議会ごとに単価が全く異なりますよね。
1キロ37円の場合、ガソリン1リットルで10キロ走る車に当てはめると1リットルあたりの金額は370円となりますね。
今のガソリン価格は170円程度ですから高く感じます。
みなさん、いくらが適正だと思いますか・・・。
これについて群馬県議会では1キロ37円は車の維持管理費用なども含んでいるとマニュアルに明記しています。
一方、愛媛県議会では条例で定められている県職員の旅費の金額を準用しているということですが事務局は37円としている理由について「詳細は把握していない」としています。
一方、最近になってルールを変えた議会もあります。大分県議会です。
大分県議会では、一部の議員が政務活動として1年間に地球を1周半したことになる6万キロあまりを自家用車で移動したと申告し、多額のガソリン代を受け取っていたことに多くの批判が寄せられました。
これを受け、平成29年から領収書を義務づけたほか、走行した距離をより正確に把握するため、走行メーターを撮影しその写真も提出するなど徹底した対応をとることにしています。
全国でもルールが大きく異なるガソリン代などの支給方法。
どうあるべきなのか専門家に尋ねました。
自治体議会研究所 高沖秀宣 代表
「ガソリン代なども領収書の提出の義務づけが基本だと思う。ただ、自家用車の場合、どこからどこまでが政務活動での利用か、区切りが難しいという実情も分かる。1キロあたりの金額に単価をかけて支給する場合は、実費に近い金額は何円が妥当なのか定期的に見直しを図るべきだ」
取材を終えて
今回の取材で印象に残ったのは、専門家が「政務活動費の原資は税金であるということを忘れてはいけない」と繰り返し指摘していたことです。
透明性を確保することや不正を未然に防ぐための対策をとり続けることが最も重要だと思います。さらに、使い道だけにとどまらず、政務活動を行った成果も含めて広く示していくことが、議会の理解促進にもつながるのではないのでしょうか。
先日、愛媛県議会議員選挙の投開票が終わりました。当選した議員には、全国の議会のルールも参考にしながら、政務活動費のあり方についてどうあるべきなのか。ぜひ議論を活発化してほしいと思います。