コロナ経て強まるコーヒーの絆 -愛媛×ホンジュラス物語-
- 2023年06月05日
マスカット、バナナ、キウイ、チョコレート、黒糖・・・。
何を表現しているか分かりますか?
すべて、中米の国・ホンジュラスで作られたコーヒーを味わう人の感想です。
『ホンジュラス産』とひとくくりにはできない、奥深いコーヒーの世界。
そんなコーヒーを愛する愛媛の人たちと、生産者との交流の日々に密着しました。
(NHK松山放送局 的場恵理子)
苦しいコロナ禍を経て・・・涙の再会
新型コロナの水際対策が緩和されたことし春。
愛媛の松山空港に30時間以上かけて、 ホンジュラスからコーヒー豆の生産者3人がやってきました。
出迎えたのは県内でばい煎所を営む今井英里さんです。
生産者のひとり、ナンシーさんと抱き合い、4年ぶりの再会を喜びました。
その目には涙がきらりと浮かんでいました。
涙の再会の背景には、“コロナ禍”という大きな試練がありました。
青年海外協力隊の活動をきっかけに、ホンジュラスのコーヒーに魅せられた今井さん。
協力隊の活動を終え、ふるさとの愛媛に戻ってからもホンジュラスの魅力を伝え続けたいと、一念発起でホンジュラス産専門のばい煎所を構えました。
今井さんは毎年ホンジュラスを訪れ、ナンシーさんたち生産者から直接、豆を買い付ける取り組みを進めてきましたが、コロナの影響で現地訪問は中断。
一方、ホンジュラスでも感染対策の一環で厳しい外出制限などがあり、コーヒーの需要は激減。
さらに現地では豪雨災害も相次ぎ、農園が被災するなど、生産者は苦しい日々を送っていたといいます。
しかし、今井さんとナンシーさんが連絡を絶やすことはありませんでした。
コロナ禍に負けず、交流と取り引きを続けた結果、少しずつコーヒーの取引量は増加。
いまや、ナンシーさんたちにとって、愛媛との取り引きが最大の輸出先となっているのです。
だからこそナンシーさんは、強く願うことがありました。
それは、自分たちのコーヒーを愛してくれる日本の人たちの声を直接聞くということです。
その声をよりよいコーヒー作りに生かしたいと思っているからです。
多彩なホンジュラスコーヒー カッピング会に密着!
今井さんとナンシーさんが愛媛で早速とりかかったのは、生産者と消費者が対面する交流会でした。
しかも、単に交流するだけではなく、コーヒーの味や香りを比べて楽しむ“カッピング”を呼ばれるイベントを企画したのです。
伊予市にある今井さんのばい煎所で行われたカッピング会には県内外から多くのコーヒー好きが集まりました。
用意されたのは、生産者や品種が違う8種類のコーヒーです。
カッピングでは、まず粉の状態で香りを楽しみ、そのあとお湯を注ぎ、さらに変化する香りを確認。
最後に少しずつコーヒーをスプーンですくって味わい、どんな風に感じたか、感想を述べ合います。
「これはバナナだ!」
「チョコレートみたい」
「マスカットのようにフルーティーだね」
参加者たちのコーヒー談義に花が咲きます。
一口にホンジュラス産といっても、作り手や品種によって、香りや味わいはさまざま。
その違いを楽しみ、生産者に思いをはせてほしいと、ナンシーさんは参加者に語りかけていました。
ナンシーさん
「1杯のコーヒーの先には、それぞれの農園、それぞれのストーリーがあります。今後はそれも含めて味わってください」
参加した男性
「これまで現地の方と接する機会はありませんでしたが、思いがすごく伝わりました」
広がれ!ホンジュラスコーヒーの輪
ナンシーさんたちは、自分たちのコーヒーを取り扱うほかの店の人たちにも感謝の気持ちを伝えたいと、各地のカフェなども巡りました。
この日訪れたのは、今井さんがばい煎するコーヒーを納めている東温市のカフェ。
ナンシーさんたちは、たっぷりのコーヒー豆にお湯を素早く注ぎ込む“ホンジュラス流”のいれ方を披露。改めて豆の味を確かめてもらいました。
そして、カフェの人たちに、コロナ禍で生産者の収入が激減したこと、それでも、今回、日本に来て、ホンジュラスのコーヒーを楽しむ人たちに出会えたことで、コーヒーの可能性を感じたと熱心に伝えていました。
カフェの店主の女性は、「これからもっと自信をもってホンジュラスのコーヒーをお客さまに提供していきたい」と話していました。
最後に、今回の来日を通じて感じた思いを、ナンシーさんと今井さん、それぞれに聞きました。
「私が日本で見たもの、日本でホンジュラスのコーヒーをどんなふうに楽しんでいるか、ほかの生産者に伝えます。自分たちが作っているコーヒーにさらに誇りと愛着が持てるようになるし、それはとても価値があることだと思います」
「ナンシーさんたち生産者は、日本の人たちがコーヒーを大事にしてくれる姿を見て、涙を流して感動していました。いつか生産者の人たちが日本にまいた交流の種が花を咲かせ、今度は日本の人たちが、ホンジュラスに行く機会づくりにもつながったらうれしいです」
的場の感想
できるならば、この香りを伝えたい。カメラを構えながら、この取材で何度も思ったことです。コーヒー豆をひく瞬間、その空間にはなんともいえない、いい香りが漂います。 その香りには、コーヒー豆を作る生産者、ばい煎する人、さまざまな人たちの思いが詰まっていることを、今回の取材で実感しました。 そして、困難な状況に陥ったとしても、つながりを大事にし続けていれば道はひらけるということも、今回出会ったみなさんに教えてもらいました。
ホンジュラスコーヒーばんざい!