ページの本文へ

NHK熊本WEB特集 クマガジン

  1. NHK熊本
  2. 熊本WEB特集 クマガジン
  3. 熊本地震から8年 南阿蘇村“学生村の春”

熊本地震から8年 南阿蘇村“学生村の春”

【動画】NHKプラス見逃し配信!4/16(火) 午後6:59 まで
  • 2024年04月10日

地震で大きな被害を受けた南阿蘇村の黒川地区。かつて、東海大学のキャンパスがあり、学生と住民が交流する「学生村」とも呼ばれていましたが、地震のあと学生は村を離れ、活気が失われました。こうしたなか、地区の人たちはおととし、村に開校した専門学校の学生たちとも交流を深めてきました。そしてこの春、地区で下宿を営む女性が、8年ぶりに学生を送り出しました。その交流の日々を取材しました。
(熊本放送局 記者 西村雄介)

震災前から学生寮を営む女性

竹原伊都子(いつこ)さん。
南阿蘇村黒川地区でおよそ30年、下宿の大家として学生を受け入れてきました。

(竹原さん)
「学生さんに『何を食べたい?』って聞くんです。チキン南蛮とかユーリンチーとか、その手のものが大好きです」

地震で村は変わり果てた姿に

震災直後の南阿蘇村では、1階の部分が完全に押しつぶされた建物が多くみられました。
地区には、かつて東海大学農学部のキャンパスがあり、学生800人が暮らす「学生村」と呼ばれていましたが、本地震で下宿やアパートの多くが全壊しました。

キャンパスも被災して農学部の拠点は熊本市に移り、長年、住民と交流を深めてきた学生たちは村を離れました。

(竹原さん)
「ここに1人もいなくなって、そのときの喪失感って、自分の家が倒壊してなくなったことよりきつかったです」

戻りつつある“学生村の日常”

8年がたとうとするなか、地区の日常が少しずつ変わり始めています。2年前、村に新しく専門学校ができ、30人あまりが入学しました。ITの技術などを学ぶ学校で、地区の住民の下宿から通う学生もいます。

その1人、シワンカル・パラビさんです。インドからの留学生で、竹原さんのもとで下宿を続けてきました。パラビさんは毎日のように竹原さんが作るお弁当を食べてきました。

竹原さんとの交流も、思い出に強く残っているといいます。

(パラビさん)
「寂しくなったなって思った時は、おばちゃんごめん。迷惑かけるけれども話していい?と聞くと、めっちゃ笑顔で『いいよ、いつでもいいよ。きてきてって、どうしたのって?』聞いてくれる。とても安心できて、うれしくなりました」

1期生のパラビさんは、2年間の学業を修めて卒業することに。東京のIT企業への就職も決めました。この日開かれたのは、ともに卒業し、村を離れる学生たちの送別会です。学生を支え、支えられる日々。8年前までの日常が垣間見えます。

(竹原さん)
「『大変やろう』『よくやるね』って言われるんですけど、いてくれるからご馳走もできる。学生さん抜きではやっていけないです」

卒業で村を離れる学生たち

パラビさんの卒業式、竹原さんも招かれました。

旅立ちの朝。

(竹原さん)
「パラビさんがんばれ。たまには近況報告を忘れないで」

村で再会する約束を交わした2人。8年ぶりに訪れた「学生村」の春です。

“学生村”の取材を通じて感じたこと

(取材後記)
地震の直後から、この地区での取材を続けていますが、およそ60あった下宿やアパートの多くが、地震によって軒並み倒壊し、道路が隆起するなど、甚大な被害だったことを今でも覚えています。
学生がいたころのにぎわいに代わったのは、建物を解体する重機の作業の音で、竹原さんも「地震直後は先が見えず、不安しかなかった」と振り返っていました。
今年1月に発生した能登半島地震で被災した人たちが感じている部分でもあると思います。

竹原さんたち住民の支えとなったのは、村を離れながらも、住民のもとに通い続けた学生たちの存在です。地震後も絶えず交流を続け、復興に向けて、この8年を一緒に歩んできました。こうしたなかで、パラビさんたち新たな学生も加わり、後押しになったと思います。また、村を訪れたボランティアの言葉にも支えられたといいます。

能登半島地震の被災地も先が見えない状況ですが、竹原さんは、みずからの経験を踏まえ、今後、支援に向かいたいと話しています。

(竹原さん)
「熊本地震で大変だったけど、『私たちがついてます』(という言葉が)すごくうれしくて、私の言葉でどれぐらい励ましになるか分かんないですけど、とにかく能登に行こうと思っています」

地震から8年となり、建物や道路は新しくなりました。復興が進んだとする見方もありますが、途絶えたつながり、心のケア、見えない部分の復興も欠かせません。こうしたなかで、新たなつながりを育もうとしている地区の住民や学生の取材を今後も続けていこうと思います。

【見逃し配信】熊本地震まもなく8年“学生村”再生の春

 

▲画像をクリックすると見逃し配信がご覧になれます。
(配信期限 :4/16(火) 午後6:59 まで)

初めてNHKプラスをお使いの方
①放送受信契約をしている世帯の家族はその情報を▼コチラから登録。
テレビ、スマホ、PCなど5画面まで視聴可能。
②受信契約が必要な方は、契約時に発行されるIDでNHKプラスが登録できます。

  • 西村雄介

    熊本局記者

    西村雄介

    2014年入局 熊本局が初任地。公式確認60年となる2016年から水俣病を継続取材。熊本地震・令和2年7月豪雨を発生当初から取材。

ページトップに戻る