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“空”から“海中”から 水俣散歩

~水俣市 湯の児海岸~
  • 2023年09月21日

美しい景観と、生き物で満ちあふれた水俣の海、空からドローンと潜水で取材しました。地元ダイバーと、生き物たちが織りなす不思議な関係を見つめました。

水俣の海をドローンでチャレンジ

水俣市の市街地から、北東に約3キロの湯の児海岸は、静かな入り江と、天草の島々が望める風光明媚な海岸です。この海で今回、ドローンを使用しての撮影にチャレンジしました。

ドローンで見た湯の児海岸

NHKでは地震や大雨など、災害時に現場の状況をいち早く伝えるため、ドローンを使った撮影も行っていて、カメラマンは平常時から訓練を重ねています。この日は私にとって、初めての屋外フライト。周囲に障害物や人がいないか気をつけながら、頭の中に思い描く映像を撮影するのは思った以上に難しく、送信機のスティックをミリ単位で操作しなければなりませんでした。

撮影で使用したドローン
小川耕平カメラマン(筆者)

苦戦しながら何とか撮影したのは、波の浸食で美しい景観をつくり出している湯の児島です。大きい島から「一の島」「二の島」「三の島」と呼ばれています。近くには白い砂浜が広がる海水浴場もあり、気軽にシュノーケリングを楽しむこともできます。この周辺は岩場が多く、海の生き物たちが特に豊富なところです。この海の中も、今回、NHKの潜水班が取材しました。

三の島 二の島 一の島

水俣の海の案内人

我々を案内してくれたのは、水俣出身のダイビングガイド、森下誠さんです。水俣の海の魅力や現状を多くの人に伝えたいと、15年前に務めていた仕事を辞めて水俣に戻り、以来、毎日のように潜り続けてSNSで発信しています。

森下誠さん

水俣の海は過去に悲しい歴史があります。たくさんの生き物たちが命を落としました。過去の水俣のイメージをプラスに変えたい。そのためにどうするのが1番かと考えた時に、自分が潜って写真や動画で発信して「安全で命が生まれる海だよ」と伝えようと思いました。

愛らしい魚たちとの遭遇

9月上旬のこの時期はプランクトンが多く、また台風の影響もあって波が立ち、透明度が低くなっていました。それでも水深5メートルほどにはマダイやクロダイ、キュウセン(ベラ)が群れをなして出迎えてくれました。

クロダイ キュウセン(ベラ) マダイ

イソギンチャクの中に、体長が3センチほどでオレンジ色と白のしまが鮮やかな、クマノミの子どもたちを見つけました。イソギンチャクは触手に毒を持っていますが、クマノミは特殊な粘液で毒への耐性ががあります。クマノミはイソギンチャクに敵から守ってもらい、イソギンチャクはクマノミから新鮮な海水を送ってもらうという「共生」の関係でお互い生きています。

イソギンチャクとクマノミたち
クマノミ

岩の穴から顔を出しているひょうきんな魚を見つけました。体長は5センチほどのコケギンポの仲間ですす。くりくりの目の上に突き出たトサカのようなものは、「皮弁(ひべん)」と呼ばれています。この皮弁は穴に隠れてエサを待つときに、周りの海藻に似せるために役立っているといわれています。

コケギンポの仲間

海の厄介者 ガンガゼ

ウニの仲間のガンガゼを見つけました。長いトゲが刺さると、激しく痛む危険な生物です。近年、水俣の海でも大量発生して、海藻を食べ尽くしてしまいます。海藻は魚たちが卵を産んだり、住みかにしたりするので、魚が減る原因にもつながり、漁師にとっては厄介者です。

鋭いトゲを持つガンガゼ
2009年 大量発生したガンガゼ(撮影・森下誠さん)

40年くらい前、私が子どもの頃、水俣の海で遊んでいた頃は、ガンガゼを見たことはなかったです。15年前にふるさとの海に戻り、潜り始めて環境の変化を目の当たりにしました。数を減らさないと環境的にも多様性が失われて、海藻が生えない、海の砂漠化が進んでしまうと思い、なんとかして改善しないといけないと感じました。

退治作戦の切り札はタイ

そこで森下さんは、地元漁協にも協力してもらい、2008年からガンガゼの駆除に乗り出しました。捕まえたガンガゼを海中で割っていると、たくさんのタイが近づいてきて中の身を食べてくれました。タイにガンガゼを食べてもらえれば一石二鳥と考えた森下さんは、捕まえたガンガゼをそのままタイに近づけてみました。すると、なんとまるごとガンガゼを食べてくれるではありませんか。以来、生き物同士で生態系を守るというユニークな作戦を続けています。

ガンガゼをタイの目の前に持って行く森下さん

鋭いトゲに毒もあるガンガゼですが、マダイたちは痛くないのでしょうか?また、どうやって食べるのでしょうか?実はガンガゼのトゲは、一方向にまとまるようになっています。マダイたちはトゲが短いガンガゼの口の方から食いつき、上手にトゲをたたんで、刺さらないように食べているんです。

マダイがガンガゼを食らいつく瞬間

森下さんが潜っている間、魚たちはいつも森下さんの後ろをついて回っていました。まるで森下さんを慕っているかのようです。見えないきずなで結ばれた森下さんと魚たち。水俣、湯の児の豊かな海をきょうも守り続けています。

森下さんの周りには、自然と魚たちが集まる

海藻が生えていると、魚が卵を産みに来たり、イカが卵を産みに来たり、小さい命が守られ多様性が生まれます。水俣の海はいろいろな命があふれている海になってきています。完璧とは言えませんが、海藻は再生しているところだと思います。再生していく上で私も何か力になれたらという思いで、これからも水俣の海に潜り続けて関わっていけたらなと思います。

動画はこちら

  • 小川耕平

    熊本局・カメラマン

    小川耕平

    平成26年入局 
    学生時代の野球と国内外の1人旅がいまの原点

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