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“幸せ”をボタンに込めて

熊本 映像ストーリー
  • 2023年06月22日

人気集める磁器製手作りボタン

天草の豊かな自然をイメージしたボタンがいま人気を集めています。海や生き物、植物などをモチーフに色鮮やかに描かれたボタンは、すべて磁器製の手作りです。5月中旬、熊本市の商業施設で開かれた展示会では、多くの客が訪れ、ボタンを手にじっくりと選んだり、白いシャツにボタンを並べて、好みのボタンを選んだりする人の姿がありました。客の中には香川県からの熱烈なファンも来ていました。

熊本での展示会

展示会に訪れた人々「見ているだけで幸せ、なんか笑顔がこぼれますね。」 「明るくあたたかい色で、お日様たっぷりみたいな明るさがありますね。」

磁器製のボタンの数々

「天草陶石」でつくるボタン

このボタンを作っているのは、天草市で工房を構えるボタン作家の井上ゆみさんです。東京の服飾学校で学んだ井上さんは「洋服の表情を決めるのはボタンだ」と考え、10年前に地元天草に戻ってから、ボタン作りに取りかかるようになりました。ボタンの原料は、地元で採れる「天草陶石」です。天草陶石は有田焼の原料にも使用されていて、透き通る白さと抜群の強度があります。井上さんは、その特徴がボタンに向いていると考え、磁器のボタンをつくるようになりました。

天草市の工房にて 井上ゆみさん
成形も絵付けも手作り

作り方は、まず天草陶石の粘土をよく練り上げます。その日の湿度や天候によって含水量を変えながら空気をしっかり抜きます。この作業が出来ていないと、焼成のさいに割れたり、収縮して目的のサイズに仕上がらなかったりするので、念入りにします。粘土は薄くのばしてから、丸や四角などの形に切り抜きさまざまな大きさのボタンを形成し、穴を開けます。さらに丁寧に面取りをし、まる1日乾燥させた上で、電気窯で素焼きをします。

釉薬を吹きかけたあと本焼き

次に素焼きをしたボタンの表面に、絵付けを施していきます。使う色は原色どうしを混ぜたり、薄めたりして、50種類以上を使い分けます。 乾燥させた後、ボタンひとつひとつに釉薬を吹きかけ、本焼きとして窯で約1300度の高温で約14時間焼き続けます。火を止めて、さらに2日間余熱が冷めるまで窯の中に置くと、透き通るような白い地肌に、鮮やかな色が引き立つボタンが完成します。同じデザインでも微妙に色や形が違っていて、ひとつとして同じものがありません。

同じデザインでも微妙に違う

天草に流れる幸せ時間

3年間続いたコロナ渦について井上さんは、 「コロナ前までは気づかなかったが、コロナになって制限がかかり、その中で生活していたら、本当に日々の普通の毎日が幸せなんだと、あらためて強く実感しました。」と話してくれました。

井上ゆみさん

井上さんにとっての“幸せな時間”、それは地元天草で過ごす時間のことです。作業の合間に触れる天草の自然は、作品づくりに多くのインスピレーションを与えてくれます。この日は、天草市の通詞島に井上さんと同行しました。 通詞島の海岸では、コバルトブルーの海を見つめ、波の音を聞き、そして海中を泳ぐイルカにも思いをはせるなど、井上さんは五感をフルに使っていました。

通詞島の青い海
海岸で五感を働かせる

続いて天草市を一望する十万山に向かいました。鳥の鳴き声に、こずえがざわざわと揺れています。じっと聞き耳をたてていた井上さんは「ゾクゾクする」とつぶやきました。野に咲く花や、モミジの種を見つけると、時を忘れるかのように手に取って見つめます。新たな発見につながった幸せの時間です。

野に咲く花に思いを寄せる
モミジの種

天草で感じた“幸せ”をボタンに

この日感じた幸せを、ボタンづくりに込める井上さん。濃い青から薄い青、さらに種類の違う筆を使い分け、リズミカルな波を描きます。下書きは一切せず、ひとつのボタンに集中すること15分。「できたー、いいんじゃない」と井上さん。嬉しそうな表情を見せてくれました。納得のいくボタンができた瞬間でした。

海をイメージしたボタン

「晴れた青空の中で青い海があって、そういう海を線で表現しました。楽しいなっていう海だったので、それをリズミカルに、陽気な感じにしてみました。」

草花をイメージしたボタン

ボタンで天草の魅力を発信したい

焼き上がったボタン

井上さんは磁器のボタンの魅力を知ってもらうため、熊本や福岡、大阪など各地で展示会を開いています。ただ、井上さんの本音は、天草まで足を運び、天草の自然や人とじかにふれ合って欲しいと思っています。ボタンをきっかけに天草に足を伸ばしてもらえればと、これからもボタン作りに励むと話します。

井上ゆみさん「自然は何もストップせずに生き生きといろんな色を放ちながら変わっていきます、自然から感じることも人と出会って感じることも、すべてが幸せだと思います。」

「ボタンを多くの人に末永く使ってもらいたいです。それぞれの家族や人の中で、ボタンを通して幸せを感じてもらえたら、という想像を広げながら作ってます。」

展示会での井上ゆみさん

今回の取材を通して自分自身も“日常の幸せ”をどう捉えるのかを考えさせられました。新型コロナによって人々の日常が奪われ、普通の毎日がどれほど幸せであったかということに多くの人が気づかされたのではないでしょうか。毎日の何に幸せを感じるかはさまざまな価値観があるかと思います。幸せを運ぶ井上さんのボタンづくりの現場から幸せとは何かを考える機会になればと思います。

動画はこちら

  • 小川耕平

    熊本局・カメラマン

    小川耕平

    平成26年入局 
    学生時代の野球と国内外の1人旅がいまの原点

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