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台湾半導体TSMC熊本進出⑦ 半導体関連業界 どうする人材確保

台湾のTSMC進出で、熊本では「人材」が課題に。人材確保に向けた、関連業界の企業の取り組みを追った。
  • 2023年06月22日

「TSMCは黒船でもあるし、七福神の宝船でもある」 

熊本で工場建設を進めている台湾の半導体メーカーTSMCについて、ある企業経営者はこう表現しました。 

そのTSMCの工場は、いよいよ年内に完成する予定です。 

世界的な企業の進出という変革の機会を、成功をつかむチャンスにできるか。

そのためのキーワードは「人材」です。 

半導体の関連業界で人材の確保に向けて、製造装置の関連企業物流企業が始めた工夫を取材しました。

(熊本放送局記者 馬場健夫)

(2023年6月15日放送動画)

工事が進む台湾TSMC

2023年5月 菊陽町 TSMC工場の建設現場(JASMは熊本の子会社)

熊本県菊陽町で建設が進む、台湾の半導体メーカーTSMCの工場です。 

いよいよ年内に完成し、来年12月までに生産を始める予定です。

さらにTSMCは、熊本で2つ目の工場を建設したいという意向を示しています。

半導体製造装置の関連企業は

半導体製造装置をつくる工場の様子

TSMC工場近くの合志市にある、半導体の関連企業「マイスティア」です。 

従業員は1700人余り。 

半導体製造装置の設計から製造、メンテナンスなどを手がけています。 

台湾にも現地法人があり、TSMCの工場で業務も行っています。 

去年、4つ目の工場を作ったばかりですが、さらなる増産に向けて、隣に5つ目の工場の建設を検討しています。

工藤正也社長は、TSMCの地元進出に期待しています。

 

工藤正也社長

躍動感というか、ワクワク感があります。世界1の企業が熊本に来るわけですから、ビジネスにとってはものすごいインパクトだと思っています。

いち早くお客さんのところに駆けつけることが、サービスだと思っているので、近くにあるのは非常にプラスになると思っています」

台湾へTSMCなど視察に

台湾のTSMCの展示施設

今年1月、工藤社長が向かった先は、台湾です。 

今後の台湾との事業に生かそうと、県の訪問団に参加し、TSMCの展示施設などを視察しました。 

その技術力の高さや規模の大きさを感じ、今後の熊本でのビジネスに期待を高めていました。 

その後も、ほぼ毎月、台湾を訪れているといいます。

TSMCのああいう世界は、誰も見たことがないので、非常によかったなと思います。(熊本で)僕らはすぐ隣で事業展開しているので、いろんな形でコンタクトできればいい」。

台湾の人材を活用へ

実技研修を受ける台湾からの人材

そこで取り組んでいるのが、「台湾の人材の採用」です。 

TSMCの工場建設をきっかけに、台湾から関連企業の進出の動きが相次いでいます。 

この会社は、台湾の人材を活用することで、そうした企業とのビジネスを増やしたいと考えています。 

具体的には、エンジニアの派遣や業務提携などを想定しているということです。 

これまでに採用されたのは約30人で、関連業界のスキルがある経験者が中心です。 

台湾からの従業員が、流ちょうな日本語でインタビューに応じてくれました。

「以前は台湾で半導体関連部品の会社に勤めていました。半導体関係の知識と、日本語の語学力を両方生かしたいので、この会社に入社しました。今後はTSMCの工場に入って、装置を立ち上げる仕事がしたいです」

「TSMCが熊本に進出すると聞き、自分が何か役に立てるかと考えて、仕事を探して日本に来ました。中国語と日本語を話すことができるので、仕事で台湾の人と一緒に仕事する際に、うまくコミュニケーションをとれることが強みだと思います」

台湾の人材でビジネス拡大へ

熊本への採用を増やそうと、今年5月には、台湾の大学で初めて就職説明会を実施しました。 

今後も台湾からの企業進出をみすえ、台湾からの人材採用を増やすことで、事業を拡大したい考えです。

工藤正也社長

「TSMCがらみでサプライチェーン(供給網の会社)がたくさん来られるので、そういうところも含めて、ビジネス展開はやっていきたい。台湾の企業数社といろんな話をしているところですので、協業できればいいなと考えています。TSMCともビジネス展開だけではなくて、人材交流も深めていきたい

「台湾人材が、かなり貴重なんですよ。台湾の方々が社員としていると、非常に強い武器でもあります。もう100人でも200人でも増やしたいぐらいの気持ちはあります。台湾の現地法人とやり取りしながら、台湾人材の活用をしていきたい

半導体製造装置が専門の物流企業は

また、半導体産業を支える物流業界でも人材の確保に乗り出しています。 

半導体製造装置などを扱う専門の物流会社「ヒサノ」です。

従業員は70人余り。 

大きな装置でも運べるよう、荷台の屋根の高さが上がる特殊なトラックや、クリーンルームの中で使う専用のハンドリフトなどを備えています。

久保誠 社長

半導体製造装置を保管し、輸送し、搬入し、据え付けまで、一貫してすべてできるというのが、われわれの特徴じゃないかなと思っています」

TSMC向け業務見込むも人手不足

この会社では今年10月以降、TSMCの熊本工場向けに、装置などの搬入を見込んでいます。 

人材を増やそうとしていますが、物流業界は慢性的な人手不足のため、募集してもなかなか集まらず、不安を抱えています。

『ラストワンマイル』という、最後の製品の納入をわれわれが担っています。ただ、半導体製造装置を工場に入れるにしても、人がいないとか、なかなかその装置を搬入する業者がいないとか、これは結果的には半導体産業の存続にも関わることだと思っています」

配置転換で専門人材を育成へ

そこでこの会社が力を入れているのが、「配置転換による専門人材の育成」です。 

この日の研修では、これまで荷物の梱包などを担当していた従業員が、装置の運び方を学んでいました。

中央が指導役のリーダー 右から2人目が研修中の従業員

指導役の現場リーダー 松本隆弘さん

「いま人がおるけんいいけど、もしかしたら、こっちに倒れてくるかもしれない。だから目線は機械を見ておかないと、ジャッキを見るんじゃなくて」

装置を運ぶには特殊なスキルが必要

半導体の製造装置は大きくて重く、高額で数十億円以上するものもあります。 

精密機械のため、振動やほこりにも繊細です。 

また装置によって形もさまざまで、重心も異なるため、慎重に運ぶ高いスキルと判断力が求められます。

「いやー、難しいです。何より傷つけちゃいけないっていうのが1番だと思うんで、慎重に扱わなきゃいけないんで、気を張るっていう感じです。例えばこういう機械にしても、触ってはいけない場所とか分からないんですよね。偉大な先輩たちに追いつけるように、1つ1つ覚えていって、いずれはTSMCとかの大きな荷物も運べるようになれればいいと思います」

TSMCは黒船か、七福神の宝船か

久保社長は、人材育成を急ぐことで、TSMC進出のチャンスをつかみたい考えです。

「(TSMCは)黒船でもありますし、海のかなたから、七福神がやってきたような感じでもあります。非常にワクワクするとともに、人材はなかなか確保できないという焦りもあります。この機会をわれわれが確実につかまえられるように、やっていければいいと思っています」

県によりますと、TSMCの進出が発表されたおととし11月以降、半導体関連の企業立地件数は、物流を含めて31件で、新規雇用者数は2700人余りに上っています(TSMC含む)。 

企業の進出や増設が相次ぐなか、幅広い業界で官民を挙げたスピード感のある、人材の育成や確保の取り組みが求められています。

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  • 馬場 健夫

    熊本局記者

    馬場 健夫

    2007年入局。秋田、名古屋、国際部、広州支局をへて熊本局。台湾半導体TSMCや令和2年豪雨など取材。

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