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「TSMC」熊本進出③経済効果の現場に迫る

TSMC進出で期待される経済効果 銀行・不動産・メーカーに聞く
  • 2023年03月15日

コロナ禍で不景気な話題が多いなか、熊本ではマンションの新築や、工場の増設が相次いでいる地域があります。
そのインパクトをもたらしているのが、半導体の受託生産で世界最大手の、台湾の「TSMC」です。

TSMCは菊陽町で、新工場の建設を進めています。
工事現場を訪ねると、クレーンが数十本そびえ立ち、これまで見たことのない光景が広がっていました。
TSMC進出で空前の盛り上がりを見せる、熊本の現場を訪ねました。

2022年8月公開記事(取材:熊本局記者・馬場健夫)

急ピッチで進む工場建設

2022年6月 菊陽町 TSMC工場の建設現場

最初に訪ねた先は、TSMCの新工場建設が進む菊陽町です。
ニンジンやキャベツ畑が広がり、牛舎も点在する地域で、大きなクレーンが数十本立ち並んでいました。敷地内では、ブルドーザーや大型トラックが行き交って土ぼこりが舞うなか、急ピッチで工事が進められていました。

TSMCは、スマートフォンなどに使われる画像センサーを作る「ソニーグループ」と、自動車部品メーカーの「デンソー」と合弁で、新工場の建設を進めています。

敷地面積は23万平方メートルで、福岡のペイペイドームの3.3個分の広さです。
2023年12月までに工場棟の建設を終え、2024年12月の操業開始を予定しています。

経済効果は“1兆8000億円”

TSMC進出で、経済効果を見込んで動き出しているのが「銀行」です。

熊本市中央区にある「肥後銀行」は、新たなプロジェクトチームを立ち上げました。台湾駐在の経験者に加え、営業や調査、地方創生のスペシャリストが集まっています。

肥後銀行のプロジェクトチームの会議

チームリーダーの阿津坂公大さんが、経済効果の試算を紹介してくれました。

直接的な設備投資額や、関連会社の売り上げ、それに住宅や小売・サービスで、『合計1兆8000億円』の経済効果が見込まれます(2022年7月時点の試算)。

これに加えて、まちづくりにも波及し、自分たちの想像を超えるような動きもあると思っています。

アンテナを張り続けながら、お客さまに提案や支援を是非していきたい

2022年7月6日 締結式

さらに、肥後銀行が狙っているのが、「台湾からの企業進出」です。2022年7月、鹿児島銀行とともに、台湾の「玉山銀行」と業務提携の覚書を締結しました。

今後、人材の交流、台湾と九州双方の企業進出の支援で、連携を進めることにしています。すでに台湾の会社から、土地の問い合わせが数件来ているといいます。

阿津坂さんたちは、経済効果を地域全体に波及させ、地銀として取引拡大を目指しています。

一生で一番忙しい時じゃないかなと思って、日々頑張っています。

リサーチ(調査)から、コンサルティング(相談)をして、ファイナンス(融資)をするというのが、銀行の本当の流れなんですけど、まずは動かないと何も始まらない。

熊本経済の活性化に絶好のチャンスだと思っているので、やれることは何でもやる

土地や建物の需要も増加

新工場の周辺では、すでに土地や建物の引き合いが強まっています。
不動産業者「コスギ不動産」の菊陽町の支店を訪ねました。
朝礼で聞こえてきたのは、中国語での接客の練習をする人たちの声です。
 

おはようございます!
早安(ザオアン)!
いらっしゃいませ!
歡迎光臨(ホワンイン・グアンリン)!

コスギ不動産の朝礼で、
中国語で接客の練習をする従業員たち

台湾からは、TSMCの駐在員と家族の計600人余りがやってくる見込みです。その受け入れに向けて、この不動産業者は中国語の研修を始めていました。すでに熊本に来ている駐在員の住宅確保も手がけています。

またTSMC進出を受けて、県内外から企業進出の動きも相次いでいるといいます。工場や倉庫、事務所など、事業用地の問い合わせは、前の年の5、6倍に増えているということです。

TSMC対応のプロジェクトチームを率いるのが、取締役の小杉竜三さんです。菊陽町の隣にある、大津町のマンションの建設予定地を案内してくれました。

今は大津町、菊陽町周辺は、土地が全くないので、この土地を仕入れることができて、本当良かったですね。
ここにマンションが建つと思うと、嬉しいものがあります。

10階建てで、90部屋のマンションを新築する計画です。
また、新たに10件の土地、建物の仕入れができたらと思っています

コスギ不動産で打ち合わせをするプロジェクトチーム

小杉さんは、関連企業の進出でさらなる「人口増加」が見込まれる中、土地や住宅の確保に追われています。

しかし、地価が値上がりする中で、地主が土地を手放す時期を見極めようとする動きも出ていて、土地探しが難航しているといいます。今後はチームの人員も増やして、対応を急ぐ考えです。

コスギ不動産 プロジェクトチーム 小杉竜三取締役

ここまで急ピッチにマンションの計画をしていくことは今までなかったので、供給が追い付いていない状況です。

ちょっと異常な事態といいますか、私たちも経験のない時代になっています。うれしい反面、プレッシャーはすごい大きいですね。

想像以上のスピードで進んでいるので、ぜひこういうビジネスチャンスはつかみたい

半導体の関連企業では、工場建設の動き相次ぐ

 

さらに、半導体の関連企業では、工場を増設する動きが相次いでいます。
訪ねた先は、半導体の製造装置メーカー、「くまさんメディクス」です。
菊池市や大津町などに、20の工場があります。

世界的に半導体が不足するなか、増産対応をする半導体業界の好調な波をうけ、今年度の売り上げは、昨年度の1.5倍に増える見込みです。この会社も増産に向け、同時に3つの工場の建設を進めていました。

こんな急激に、多くの工場をつくるのは、初めての経験です。この新工場で作るものに、TSMC向けが入ってくるのは 間違いございません。

いつもですと、工場を作ったあとに満タンになるかどうか非常に心配するんですけれど、今回は全然心配していなくて、すぐいっぱいになってしまうと思っています。

逆に足りなくなるのが怖いです。
非常に忙しいなかで、TSMCさんが来て、さらに忙しくなったという感じです

この会社では、食堂で大量のおにぎりを作っています。
残業で対応する従業員のために、夜食としてふるまうためです。多い日には、1日500個用意しているということです。

半導体業界は、増産対応でかなり忙しい日々のようで、
夜になると従業員が次々とおにぎりを受け取りに訪れ、食べていました。

また、この会社はすでに、台湾でTSMCと間接的に取引をしています。
台湾の支店とのWEB会議で、現地の担当者から報告があったのは、「TSMC側の厳しい要求水準」でした。

台湾支店担当者はこう話しています。

TSMCは、プロセスに関して、求められる数値が限りなく厳しいです。

常に進化していて、毎回、同じものは求められません。

ただ、現地同士で話せるという強みを生かして、難しいことにもチャレンジして、対応しています

白瀬社長は、現地でTSMCとかかわってきたノウハウを生かすことで、TSMCが県内に進出してから、取引拡大につなげられると期待しています。

経験がないとできない仕事がいっぱいありますから、TSMCが日本に出てきたときに、われわれのノウハウが発揮できると考えています。

チャンスなので、さらに伸びる企業になっていければと思っています

課題は「人材の確保」

一方で、課題は「人材の確保」です。

工場の増設にともない、会社は3000人いる従業員を、さらに600人増やす計画です。しかし、半導体業界ではもともと人材が不足している中で、TSMCの進出によって、人材獲得競争がさらに激しくなっているというのです。

この会社では、2023年春の新卒内定者の一部が辞退して、TSMCなど他社に流れたといいます。TSMCの熊本工場では、大卒の初任給が28万円と高水準で採用活動を行っています。そのためこの会社では、他社に対抗するため、今後は初任給を5%上げて、人材確保をはかる考えです。

絶対にうちの会社に来ますという約束をしていたので、安心していました。

(内定を)約30名に出しましたが、TSMCに採用された人が辞退するなど、計10名がいなくなりました。
まあ、しょうがないなとは思いましたけどね。

人材面が非常に不安だと思っています。
もともと業界は人手不足で苦労しているなか、TSMCさんが来られるとなると、人材が全然いなくなり、熾烈な競争が始まるんじゃないかと恐れております。
もっと魅力ある会社にしていかなければならない

取材後記

空から見たTSMCの工場建設現場。
農地の中に、大量の重機が集まっていた

熊本でTSMCが操業を開始するまで、あと2年余り。
地銀、不動産、半導体製造装置メーカー、それぞれがビジネスチャンスを取り込もうと、走り出していました。

コロナ禍で街なかでは飲食店や旅館が姿を消していくなか、この盛り上がりは別世界のようで、「バブルではないか」とさえ感じました。

ただ、半導体自体は、5Gやビッグデータ、AI、自動運転、データセンターなど、幅広い分野で今後も需要の拡大が見込まれています。
国も経済安全保障の観点から半導体を重視し、今回のTSMC進出に最大4760億円の補助を決めています。
「シリコンアイランド」とも呼ばれてきた、九州の半導体産業の復活につなげるには、まさに千載一遇のチャンスといえます。

現場で感じたのは、TSMCといういわば「黒船」が、熊本、ひいては日本の産業界を大きく変えようとする転換点にいるなか、いち早くその変化をとらえ、チャンスに変えようとする人たちの「熱意」でした。

一方で、TSMCの受け入れに向けては、課題が山積しています。
「半導体の人材育成や確保」、「工場周辺の渋滞問題」、「工場で大量に使う地下水の保全など環境対策」、それに「駐在員の住宅確保」や「子どもの教育」をどうするか、などです。

この課題にどう取り組んでいくべきか、今後も注目して、取材を続けたいと思います。

動画はこちら!

[2022年7月20日放送]

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  • 馬場健夫

    熊本局記者

    馬場健夫

    2007年入局。秋田、名古屋、国際部、広州支局をへて、2020年から熊本局。

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